第9話 職業

「クエストの完了確認しました」

 人参をマシンガンの様に飛ばしてくる兎を討伐をした俺とアリスはギルドで手続きをしていた。

「討伐報酬とクエスト達成報酬を合わせて15万バイツになります。ご確認ください」


 淡く透明感のある水色の髪をした美人受付嬢から報酬を受け取る。


 ……人参に撃ち抜かれそうになって報酬は15万バイツ。日本円で15万。正当な報酬なのか?


 よく分からない感情になりアリスと2階の席に向かう。

「なあアリス。言いたくないんだがあの敵は俺達には無理だ。今回たまたまアリスが囮になったから決まっただけで2度も行くとは思わない」

「はい。ではどうしますか?」

「そこで仲間を募集しようと思うのだが構わないか?」

「そうですね。では早速貼り紙を書きましょうか」


 貼り紙をさっきの嬢から貰い、次いでに食事も注文する。

 うさぎの骨付き肉の定食を2個とアリスのメロンソーダを頼み合計2250バイツ。

 ……普通に高い。

「あ、すいません。骨付き肉の横に添えてある人参はなしでお願いします」

「あ、私も」

 ……俺は人参がトラウマになったのかもしれない。厨房の人参が見え背筋が震えた。

 田舎暮しで物価が安かった身からすると結構の精神的ダメージだ。


「なあアリス。仲間を募集ってどれくらいのレベルの人を集めるんだ?このギルド結構レベルが疎らに見えるが」


 このギルドは二階建てだが、かなりでかい。1階はクエストの依頼等を受けるカウンターと横にあるでかい掲示板がメインだ。

 2階は基本食事って感じで隅には男臭いギルドには合わない洒落てるバーカウンターが設置されている。

 ギルド内にいる人間は男女比6対4程で今も男性冒険者が女性冒険者の取り合いを始めた。


「レベル―つまり冒険者としてのランクについてまだお話してませんでしたね。ですがその前に冒険者の職業。そこから話しましょうか」

 アリスはメロンソーダを1口のみ、話し始める。

「この世界の冒険者という職業は大きく分けて7つに分かれます。1つ目聖剣使い《ソードマスター》。は2つ目は魔法使い《ウィザード》。私はこの魔法使いに属しててその中でも全ての属性の魔法を従え、魔法使いのトップに君臨する神聖級魔法使いになります」

 俺だったら凄いだろ!?と自慢したくなることを淡々と説明していく。

「3つ目は騎士キャバリア。4つ目は盗賊アサシン。5つ目は弓使い《アーチャー》ここは少し盗賊と被りますがこの事を盗賊と弓使いに言うと怒られますので気を付けてください」

「お、おう。プライドを持ってやってるんだな」

「6つ目は神官ゴッドメッセンジャー。これは転生した人間が作った職業です。しかし、元々神を信仰する者やそれを生業とする者はこの世界にも幾つか存在していてよく話題に上がるのが、私達が逃げてきた隣国ミルエル王国の1部人間が信仰するケルト聖方教会になります。神官になるとこことの争いは生涯を通して避けられないと言われてます 」

 深刻な顔をして言うアリス。

 実際に見てきたのだろうか。アリスの顔からは悲惨そのものを感じる。

「宗教戦争……的な感じか」

「はい。その通りです。……我々もそんなことは望んでいないのに……」

 小声でつぶやくアリスの声は篭ってよく聞こえない。

「なんか言ったか?」

「いえ、なんでもありません。それより7つ目です。7つ目は全職業オールマイティです。これは1人で剣、魔法、防御、窃盗、弓、を扱うことの出来る限られた人にしか出来ない職です。神官等にもなれますがここは個人の信仰問題になります。そしてこの職に就くことが出来たら冒険者として誇る事ができます。どんなことでも戦いを有利に進められる。しかし、それを自ら名乗る人は殆ど居ないのです」

「それはどうしてだ?全てを使えるならどんな戦いでも有利に駒を進められる。それならこれ程必要な人事材は―」

 頭がフリーズする。

 そしてアリスの言ってたことを思い出す。

 魔王軍、冷戦、宗教戦争。どんなことに対しても有利に進められる。

冒険者の仕事は魔王軍だけなのであろうか?もし、それが違くもし戦争などもあるなら兵士として戦争に駆り出される事も絶対にあるのだろう。


 なんなら敵国が奪い拷問後に洗脳しスパイとして育成を考えるなんてこともあるのでは無いか?


 名乗るだけで名声を手に入れられるが、同時に数多くの敵を作る。

 そんな危険なことを誰がしたいのか。


「分かりましたか?」

 察した顔の俺にアリスが問う。

「ああ」

「頭のいい人は冒険者カードを見せません。冒険者カードは何度作り直しても同じ結果が出るので意味無いのです。何も知らない転生者や孤児は何度も命を失ってます」

 これはアリスからの注意勧告だろう。俺とアリス転生者。いつどんな事が起きるか分からない。それをアリスは言いたいのだろう。

「でもユウマは大丈夫ですね」

 アリスは笑顔で言う。

「ステータスが低いですから」

 皮肉なのか安堵を述べているのか分からない言葉。

「ステータスはレベルが上がる事に上がっていく。実際に今日の兎討伐でレベル7も上がったしステータスも全部プラス25だ。それに俺はニッポンからの転生者!何らかの力に目覚めてもおかしくない!」

 レベルとステータスが上がり調子に乗ったことを言う俺を見てアリスは笑を零した。


「これで職業については終わりです。次にそのランクです」

 アリスは冒険者カードを取り出す。

「ここに神聖級と書かれていますよね。これがランクを表しています」

「なるほど、てことは俺のも......俺のまだランクどころか職業も書いてないんだが?」

 俺も冒険者カードを取り出し、アリスと同じ場所を見るがそこは白紙。

「職業やランクはモンスターを3回倒すと現れます。なのでユウマの場合あと2回です」

「そういう事か。ならまだ望みはあるわけだな」

「そういうことです。ランクには初級、中級、上級、超級、神級、神聖級。この5つになります」

「このランクはアリスの魔法使い以外の聖剣使いや騎士にもあるのか?」

「もちろんあります」

「やっぱりそうか。そうすると今すぐ募集ってのもなあ」

 小首を傾げるアリス。

「募集はしといても良いのでは?」

「募集自体は賛成だし俺から提案したことなんだけど、俺ってまだランクが分からないわけで、もし俺が初級で仲間が神級や神聖級だったら申し訳ないし居ずらくなるだろ?」

「そんなこと気にしてたんですか。って言うか本当に根っからのニホン人なんですね」

 当たり前のことを言い出すアリス。

「どうしたんだ急に。俺は日本産まれ日本育ちだ」

「いえ、なんでもないです。気にしないでください」

 少し寂しい表情のアリス。

「とりあえず募集をしましょう。でなければ初級モンスターですら苦戦してしまいます」

 アリスはこの世界の文字で冒険者募集の文を書き始める。


「ではこんな感じでよろしいでしょうか?」

「お、どれどれー?」

 アリスが書き終わった冒険者募集の紙を俺に渡す。そこにはこう書いてある。

『未来の英雄候補。冒険者募集

 募集内容

 神聖級騎士と神聖級聖剣使い冒険者募集。

 神聖級お姉さん美人魔法使いと旅に出て数日の職業不貞がいます。

 神聖級お姉さんの私と一緒に旅がしたい方はこちらまで!』


「……なにこれ。ツッコミどころ満載なんだが」

「職業不貞の所ですか?すいません。ニートよりかはマシかと……」

 ごしごしとその分を消しニートに書き直すアリス。

「そこじゃないわ。てかニートでも無いわ!」

「じゃあどこだというのです?」

 アリスは何が不満なのかとと文句言いたげに聞く。

「まず1つ目は神聖級の人がこんな初心者が居るパーティーに来てくれるはずがない。来たとしても肩身が狭くなるから俺としては避けたいのだが」

「その為にってのを入れたんじゃないですか」

「そこだよそこ。2つ目は」

「何が不満なんですか。私一応はミスコンに出てるんですけど?」

「ミスコン!?それは凄いな……じゃなくて。美人なのは分かるがアリス。お前はロリ枠だ」

「ヴェェエ」

 今まで聞いたことの無い声を出すアリス。

「私、一応はユウマと4つしか変わらないですけど?それだけでロリ枠だなんて。別のロリ枠に失礼ですよ」

 なんでこいつは俺の年齢を知っているのだろうか。

「大体、黒髪ボブヘアーでヘアピンが大人っぽくなくて、貧乳。そして低身長。これはもうロリ枠だろ」

「一応は16歳。結婚だってできるんですから!さっきからロリ枠だ。なんだかんだうるさいですけど、ユウマも歳の割には幼くないですか?ショタなんですか?」

「何をバカのことを言っているんだよ。20歳176cmの俺をショタ呼ばわり」

「そうですか。私にはその言動が幼く見えたんですけど」

 からかうように皮肉めいた事を言う。

 普段なら多少軽口叩いていたが、相手はロリだ。ここは大人の対応をする。

「はあ。もういいよ。アリスがいいと言うならこれでも」

「本当ですか。ありがとうございます」

「大体1週間経てば、多くの人の目に泊まると思うので」

「それまでどうするよ」

「では冒険者が集まるまで安全なクエストでも受けて待ちましょう」

 そう言ったアリスは立ち上がった。

「クエストねぇー」

 兎が2m越えだったり人参飛ばしてきたりとこの世界の常識を何も知らない俺からすると、クエストに行くことを少し躊躇うが……。

 アリスは受けたそうだし、宿代などを稼がなきゃ行けないしなぁ。

「はぁ。なんか思ってたのと違う気がする」


 アリスが階段を駆け上がり俺の元へ飛び込むように派手に転ぶ。

 目の前に倒れるアリスを見て、『大丈夫か!?』と『うわぁ』のふたつの感情が同時に沸きあがる。

 ……注目を浴びるアリスから目を逸らしたいがここで無視すると後で怒られそうだよなあ。

「おい、大丈夫か?」

 脇腹を指でツンツンとする。

 ビクンと身体を震わせアリスは言った。

「明日このクエストを受けましょう」

 ……どんだけ受けたいんだよ

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