第6話

「やめろぉぉぉぉッ!」

魂から捻り出した俺の叫びは裁判所を包み込む。

1秒。2秒。3秒。4秒。5秒。

刃が落ちて来るまでの時間があまりにも長く感じる。

そして一つの声が聞こえた。

「俺にはやっぱりできねぇよ。執行人なんて最初から無理だったんだ」

「何言ってんだよお前!ミランダ家は先代から執行人を務めその地位を上げてきた由緒正しき名家だ。なのに泥を塗るような事を言うな」

……執行人が怖気付いたのか?今しかない。

俺は肺いっぱいに空気を吸い叫ぶ。

「今だッ。アリス……ッ!」

その瞬間無数の魔法陣が展開され裁判所は光輝き、ギロチン台を覗き全てが爆発し燃え盛る炎の海に変わった。

「佑真ー!大丈夫ですか?」

「ああ。死ぬかと思ったけど大丈夫だ。早く外してくれないか」

ギロチン台に挟まれ続けるのは何かあったら一貫の終わりだ。

「わ、わかりました」


「改めてお礼を言うよ。ありがとうなアリス」

ギロチン台から抜け出した俺は立ち上がりアリスにお礼を言う。

「お礼は後でキッチリして貰います。それよりまずはここから逃げ出しましょう。こっちに来てください」

「了解!」

俺とアリスはひたすら走り抜けた。アリスの魔法で気を失い血を流す者を触れることなく我が身可愛さ故に走る。

1キロほど走るとアリスが止まった。

「はぁっ。流石に疲れましたね」

「そうだな。追ってもきてないし少し休むか?」

かなりやつれた顔になっているアリス。

「いえもう少し進みましょう。私の知り合いが馬車を用意してくれて居るのでそれに乗ってから休みましょう」

「用意周到で助かるよ」

俺とアリスはもう1キロほど走った。


カラン。杖が落ちる音がし振り返る。

アリスが倒れている。

顔色もだいぶ青ざめ、呼吸も荒く苦しそうにしている。

「おい!大丈夫か!?」

「す、すいません。自分の体力を過信しすぎたようです」

起こされながら申し訳なさそうに謝るアリス。

「いや。俺こそもっと気を使ってペース合わせて走るべきだったな」

「いえそんな……」

「ほら背中に乗ってくれ」

「すいません」

俺は屈みアリスを背中に乗せてまた走り出す。


「あ、アレです!」

草原の中ポツンと見える人影と馬車。それを指さすアリス。

「お久しぶりです。フレイさん」

「久しいなアリス」

「初めまして。加藤 佑真と言います」

アリスを降ろし挨拶をする。

「よろしくなアリスの友人」

ルビーのように紅く輝く瞳と紅い髪の毛。

そのたわわな胸をより強調指せる胸元が空いている気品あるドレスを身にまとい、この草原と馬車とドレスのギャップ全てが彼女を引き立たせる道具になっていた。

「で、アリス。要件はなんだ」

「隣国まで馬車に乗せて欲しいんだ」

どうやらアリスは本気で逃げる計画をしてくれているらしい。

しかしフレイは少し驚きの顔をする

「隣国ってあのフェスナ王国か?」

「はい」

「途中まで連れていくのは構わん。だが、王国まで連れていくことは出来ない」

「それでも構いません。お願いします」

「後輩の頼みじゃしかたない。分かったがくれぐれも道中気をつけるんだぞ」

「ありがとうございます。フレイさん」


こうして俺たちは今度は馬車に乗り走り出した。

転移して命奪われそうになってアリスに助けられてまたアリスに助けられてこうして馬車に乗っている。

正直アリスには感謝してもしきれない程だ。


「そういえばアリス。骨が折れたとか聞いていたが大丈夫なのか?」

「あぁそれは嘘ですよ」

アリスは事の経緯を話し始める。


「元々あれだけ爆破させて街が崩れてったら捕まった時点で2人揃って死罪確定みたいな状況で流石にやばいと思って何とかするにも、とりあえず留置所から抜け出したくて監視の人を魔法で幻覚を見して教会に逃げ込んだんですよ」

「魔法ってなんでもありだな」

「けど、その話を知ってるってことはちゃんと幻覚は上手くいったみたいですね」

「けどなんで教会に駆け込んだんだ?」

「詳しく話すのはまた後日にしますが簡単に言うとここにいるフレイさんを呼ぶためと厨二くさいですがを貰うためですね」

「その力で裁判所を丸ごと爆破したって感じか」

「まあそんな所です。深堀しても特にいいことはありませんよ」

「変な詮索はしないよ。そのおかげで俺は今もこうして生きてるわけだしな」

「そうですね」

アリスは苦笑し俺は笑う。


「それにしてもよく私が来ているって分かりましたよね」

「あぁ。あれか」

「誰にもバレないようにひっそりと忍び寄っていたんですけど。ひょっとすると他の人にもバレていたのでしょうか」

「どうだろう。別に姿をはっきり見れたわけじゃないし大丈夫だろ。俺もその三角帽子しか見えなかったしな」

俺はアリスが被っている三角帽子を指さし言った。

「これですか」

アリスは三角帽子を外し膝の上に置く。

「そうそれ」

「これはフレイさんから誕生日プレゼントで貰った物なんですよ。その時に『何か困った時はそいつが助けてくれる』と言われましたがもしかしたらそれは今回の事なのかもしれませんね」

「そうかもしれないな。後でもう1回お礼でも言いに行こう」



馬車が走り出してしばらく長閑な草原が続き会話もなくなり始めていた。


「ところでアリス。その男とはどんな関係なんだ。ホテルで話し合ってるのは見たがそれ以降は特に見てなくてな」

フレイは手綱を握り草原を一閃に見つめこちらに振り向かずアリスに質問をする。

「ただの仲間ですよ。出身国が同じってだけです」

「そうか」

フレイは笑い声をあげる。

「お前の出身国って確かニホンとか言ったよな。鉄のモンスターや目の前にいない人と会話したり、会えもしない人に金を貢ぐことが生き甲斐のヤバいやつか沢山いると聞いたがコイツもそこ出身なのか?」

「そうですね。一応佑真はニホン出身です。が記憶に少し誤解があるようなのであんまりニホンって名前だけでその事を言わない方がいいです。過去を忘れたい人も中にはいますので」

「そうかなのか。悪かったなアリスの友人」

「別に大丈夫です。俺はそんな過去のこと気に―多少は気になることもありますが大丈夫です。それと『アリスの友人』と呼ばれるのなんか長ったらしくて仲良くしにくい呼び方なので良かったら別の呼び方で呼んでくれませんか?」

「そうか……。それよりもうすぐ最初のキャンプ地に着くぞ。ニホン人」

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