第41話 新しい仲間

 シズは無表情のまま俺をじっと見つめ、一枚の紙を俺の前に差し出していた。


「これはどうって、クエストか?」


 俺はシズからクエストの書かれた紙を受け取る。


【レッドベアの討伐】


クエストランク:B


報酬:80万ピア


概要:パナナの森に出没するレッドベアの討伐。三メートルを超える赤い体毛を持つ熊の魔物です。鋭い爪での攻撃や噛みつきに注意してください。


 パナナの森か……確か距離的にはベラシーの森とあまり変わらないはずだ。報酬もなかなか良い。これだけあれば当面の生活費は確保できる。不安なのは初めてのBランクということだが……


 俺がまじまじとクエストの書かれた紙を見ていたら、いきなりシズが一生懸命背伸びをして俺から紙を回収した。


「どう?」


「ちょっと、私まだ見てないわよ」


「おバカなあなたには聞いてない」


「なっ……」


 おぉ、子供のくせにクレアそんな口を利くなんて怖いもの知らずだな。いや、子供だからこそできるのか。クレアも子供相手だから我慢しているのか、顔を赤くしてプルプル体を震わせている。


「どうって言われてもな。良い条件だとは思うけど、Bランクの魔物とは戦ったことないしな。少し不安だな」


「大丈夫。あなたならレッドベアぐらい楽勝」


 俺の戦いを見ていないはずなのになんで分かるんだとも思ったが、不思議とシズの言葉を信じることができた。


「そうか……ならそのクエストを受けてみようかな。シズちゃん、ありがとう」


 俺は再びクエストの紙を受け取って、カウンターに持っていこうと手をシズに伸ばすが、シズは微動だにしない。俺が首を傾げると、シズが口を開いた。


「このクエスト受けたかったら、私をパーティーに入れて」


「「え?」」


 シズの言葉には俺だけでなくクレアも驚いていた。パーティーに入れて? こんな小さな子供が戦えるのか? いやその前にハンターなのか? 俺の頭に様々な疑問が浮かんだが、シズがそれに答えるように話し始めた。


「私はA級ハンター。攻撃はあまり得意じゃない。私の見る目はたしか。役に立てる」


 人と話すの苦手なのかな……しかしA級ハンターとは。人は見かけによらないな……俺がまじまじと見ていると、


「それと私、十七歳。敬語とかはいらないけど、ちゃんづけは止めて」


……ほんと人は見かけによらない。まさか年上なんて。しかしパーティーに入れてか……初めてのBランクだからA級のハンターがいるのは心強くもある。だが信用していいものだろうか。一応エミリーに聞いてみるか? でも今は寝てるだろうなぁ。など悩んでいたら……


「いいわ、私達のパーティーに入れてあげる。強い人なら大歓迎よ。私はクレア、よろしくねシズ」


 勝手に決めてしまった……まぁエミリーがいない今、パーティーの決定権はクレアにあるといっても過言ではない。明確に否定する理由があれば俺も口を出すが、シズは信用できそうな気がする。


「クレアがそう言うならしょうがないな。俺はレイン、よろしく。あと今回は一緒に行くけどクエスト終わわった後、エミリーにも聞いてみるから正式にパーティーを組むのはそれからでいいかな」


「うん、わかった。よろしく」


 シズはずっと無表情のままだったが、今初めてニコっと微笑んだ。それはまるで天使の微笑のようで俺の心を奪いかけた。危ない、危ない。俺はクレア一筋なんだ。


「じゃ、じゃあそうと決まれば、早く受付して出発しよう」


 俺達は三人でカウンターに向かった。


「このクエストお願いします」


「はい。Bランクのレッドベアの討伐ですね。少々お待ちください」


 クエストの手続きをギルドのお姉さんが処理している間に、奥から焦ったようにマーシャルが走ってきた。


「おい、シズ。何しているんだ」


「何って。今からレイン達とクエスト」


「仕事はどうするんだよ」


「仕事はハンター。ギルドは辞める」


 それを聞いたマーシャルは頭を抱え横に振っている。


「昨日言っていたことはまじだったのか……こうなってしまっては説得は無駄だろうな」


「今までありがとう」


 シズの表情は無表情のままだが、深々と礼をしている。


「おい、レイン」


「は、はい」


 威圧するような鋭い目つきで、俺を睨みつける。


「シズに何かあったら許さないからな」


「は、はい。頑張ります」


 俺がそう言うとマーシャルはニカッと歯を見せて笑う。


「ハッハッハ、まぁシズが選んだパーティーだ。間違えはないだろ。シズをよろしく頼む」


「まぁ、私がいればどんなクエストだって楽勝よ。安心して待っていなさい」


 クレアはほんと誰に対しても偉そうだな。もう貴族でないのだから、少しは謙虚になってほしいものだが……



 そして今、俺達は馬車に乗ってパナナの森へ向かっている。


「ハァ」


 俺の対面でシズが溜息をついている。


「ごめんなさい」


 俺はシズに対して三回目のごめんなさいを言った。


「お金が全然ないなんて」


 パナナの森までの馬車代は三人で一万ピアだったのだ。距離は同じでも行き先によって値段が結構変動することを把握していなかったのだ。お金が足りないことが分かり、オロオロしているとシズが払ってくれたのだ。パーティーに入って初めての役割が金の支払いなんて本当に申し訳ないことをしたな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る