第11話 準決勝

 アイスライト杯予選はベスト4が出揃った。結果的に1位から4位までがベスト4に残ることになり、教師達の評価が正しかったことになる。まぁ、ほんとに正しかったのか分かるのは俺がエーベルに勝てたときだろうな。


 準決勝の前に一時間の昼食休憩があるようだ。


「レイン、学食いくわよ。財布がいないとご飯食べれないじゃない」


 この人、今俺のこと財布って呼んだ。


 学食に入りメニューを見る。


 ステーキセット 3000ピア


 まじかぁ、高すぎだろ。俺の10日分の食費じゃないか。


 しかしクレアは迷わず食堂のおばちゃんにステーキセットを注文した。


「はいよー。今日は豪勢だねぇ。そっちの兄ちゃんはどうする」


「おにぎりセットで……」


「ありゃ、兄ちゃんは質素だねぇ」


 おにぎりセットは200ピアだ。


 おにぎりセットとはおにぎりが二つに沢庵がついた豪華なセットなのだ。


 お互い料理を受けとると座る席を探す。


 食堂を見渡すと、隅の方に一人で座ってご飯を食べているリリーを見つけた。棄権した理由を聞きたかったが、またクレアにあれこれ言われたら面倒なので気づかないふりをした。しかしクレアもリリーに気づいたらしく、スタスタとリリーのもとに向かっていった。俺も後ろをついていく。


「ねぇ、リリーさんって言ったかしら?」


 リリーは突然怖い人に声をかけられビクッとしていた。


「は、はい。そうですけど」


「あなたなんで棄権したの? 見たところ元気みたいだけど」


「私体が弱くて、体力もなくて……だから短い時間で二試合も闘えなくて。今日は頑張ろうって思ってたんだけどやっぱり無理で……」


「ふーん、そうなのね。私達ここ座ってもいいかしら」


「は、はい。すぐどきますね」


 食べてる途中だったのに片付けようとしている。


「いいのよ、そのままで。一緒に食べましょうって言ってるのよ」


「あっ、はい」


 恥ずかしいのかうつむいてしまった。


「友達いないの? いつも一人よね?」


 クレアがいきなりデリカシーのない質問をしている。


「う、うん。私見ての通り暗いから。誰とも仲良くなれなくて」


「そう。じゃあ私達今から友達ね。私強い女の子好きなの。いいでしょう」


「えっ……うん。いいよ」


 今好きって言ったか? いやいや、そういう意味の好きじゃないよな。実は恋愛対象は女の子ってことじゃないよな。


「じゃあ、これからもよろしくね、リリー」


「う、うん。よっ、よろしくねク、レアさん」


 俺はこの後、女の子同士の話に全然入ることができなかった。まぁ、一方的にクレアが話しかけていただけだが。


 全く相手にされない一時間の昼食休憩が非常に長く感じられ、精神的ダメージを少しずつ受けていった。


「さぁ、そろそろ闘技場に向かいましょうか。あなたも見に来るでしょ、リリー」


「はい、いきます」


 二人は俺に声をかけることなく席を立った。あれ? なんか俺いない人みたいになってない?


 テンションが一気に下がったままエーベルとの戦うことになった。


 今、目の前にはやる気満々のエーベルが立っている。


「やっとこの時がきたな。お前を倒して俺がトップだと言うことを証明してやる」


「俺を倒す?」


「そうだ。お前は不様に俺にやられるんだ。一時でも俺の上に立ったことを後悔するんだな」


「俺がやられる? やられたらクレアと只の他人になってしまう……」


「なにをブツブツ言ってるんだ」


「レイィィン、頑張りなさぁい。勝ったらご褒美あげるからねぇぇぇ」


 観客席からクレアのばかでかい声が聞こえてきた。


 ご褒美? そうだった。決勝までいけばご褒美が貰えるんだった。負けたときのことばかり考えててすっかり忘れてた。なんだろーご褒美。楽し「はじめっ」みだなぁー。ん? なんか聞こえたな。うわっ、あぶねっ!


 考えごとをしていたら、目の前でエーベルが剣を振るっていた。


 やっ、やばい、反応が遅れた。剣で受けるのは間に合わず体を捻って避けようとするが、避けきれず左肩にまともにくらった。


「ぐわぁぁ」


 あまりの痛さに声を上げてしまった。これで十分の一の力。真剣だったら切り落とされていただろう。何をやってるんだ俺は。集中しろ。


 エーベルとの距離をとり体制を立て直そうとするが、肩のダメージは深刻のようだ。腕が上がらない。これでは使い物にならず、まさに切り落とされた状態だ。


「ふん、あっさり決着がつくようだな。それではもう闘えまい。棄権しろよ」


「バカ言うなよ。まだまだこれからだよ。俺には負けられない理由があるんでな」


「ふん、貴族でもないお前の理由など俺に比べれば軽いに決まってる。まぁいい。すぐ終わらせてやるよ。ファイアーボール」


 大きい、それに早い。


 ギリギリの所で横に飛んで避け顔をあげると、すでにエーベルは俺との距離をつめており、剣を振るってくる。一撃目は右手に持った剣で受けたが、しかしエーベルの剣は止まらず二撃、三撃目と剣を振るう。


 は、速い。今まで戦った相手で一番早い。どんどん俺の剣が追い付かなくなる。しかも片手で受けているので時間とともに押されている。しかしそれでもギリギリの所で受け続ける俺に痺れを切らしたのか、エーベルは上段に剣を構え、力を溜め振り下ろした。


 俺はその一撃も剣で受けるとエーベルは俺から距離をとった。


「やるじゃないか。俺と戦ってここまで倒されなかったのはお前が初めてだぞ。でももう終わりだな」


 エーベルが俺の剣を指差す。剣をよく見てみると横に亀裂が入っている。今にも半分に折れそうだ…


「さすがに強いな。剣術では敵わないよ。でも俺にはまだ魔法がある」


「ふん、お前の魔法がバカ火力だということは知っている。しかし、魔法など距離さえつめてしまえばどうってことはない」


 バカ火力って……なんでみんな俺をバカバカ言うんだろうか。


 たしかに魔法を使うときはある程度距離をとらなければ、使った魔法に自分も巻き込まれる。さらに強い魔法を使うためには発動までそれなりに時間もかかるのだ。一対一での戦いでは魔術師は不利なのだ。


 一般的にはね。


「じゃあ試してみるか」


 俺は手を前にかざす。


「させるか」


 エーベルも魔法を打たせまいと距離をつめる。しかし俺は構わず唱えた。


「ライトニング!!」


 ライトニング・・・電撃の中級魔法。


「なっ、自爆する気か…」


 エーベルは雷のような電撃に襲われ、近くにいた俺もそれに巻き込まれる。


 しかしエーベルだけが全身から煙をだし膝から崩れる。俺は特にダメージを受けなかった。


「な、ぜだ……」


 エーベルは信じられないと言った顔をしている。


「実は俺は魔法攻撃だけ強いんじゃないんだ。魔法防御もそれなりに強いんだよ」


 魔法の授業で魔法の怖さを知るためにリタ先生の魔法を受けるというものがあったのだ。もちろん、威力は落としてからだが。クラスのみんなは痛がっていたが、俺は何も感じなかった。


「そんな、バカな」


 エーベルは意識を失い、倒れた。


「それまで! 勝者レイン」


 闘技場内に歓声が上がる。


 しかし強かったな。模造刀でなく、ほんとの剣だったら最初の一撃で負けていたかもしれない。上がらなくなった左肩を擦りながら控え室に戻った。

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