第12話 夢であってくれ

「国家反逆罪で貴様を拘束する。連れていけ。急げよ、早くしないと崩れるぞ」


 俺は騎士団の兵士に体をきつく拘束される。痛めた体に激痛が走る。顔をしかめながらも、俺は騎士団の隊長なのか、指示を出している男に必死で問いかけた。


「クレアはクレアは大丈夫なのか?生きてるのか?」


「ふん、しらじらしい。貴様らがやったのだろう」


「ち、ちがう。俺じゃない」


「ふん、言い訳は城で聞く。まぁ無駄だろうがな」


「ちがう。ほんとに俺じゃないんだ。なんでこんなことに。おしえろ、おしえてくれよ! クレアは無事なのかよ! ちくしょうちくしょう」


 気が狂いそうだ。もしクレアが死んでいたら……俺は、俺は……


「うるさい、黙れ」


 兵士は剣の鞘で俺の頭を打ちつける。俺はそこで気を失った。



 数時間前……



 エーベルとの戦いを終え、控え室に戻るとクレアとリリーが迎えてくれた。


「おめでとう、レイン。やっぱり私の言う通りになったわね」


「お、おめでとうございます。私、やっぱり棄権してよ、よかったです。レインさんには勝てそうにありません」


「ありがとう。けど危なかったよ。やっぱりエーベルは強かったな」


「でもさすがに油断しすぎよ。何? 最初の一撃は。まともに食らいすぎよ。まだまだ特訓が必要ね。それに相手が渾身の一撃を放とうとしてるのにまともに剣で受けたら折れるに決まってるじゃない。そして………」


 長々と一方的な反省会が始まった…


「わかったの? 返事は?」


「はい、わかりました」


 試合より疲れたよ。


「じゃあそろそろ行ってくるわ。ささっと決勝を決めてくるから首を洗って待ってなさい。次は私となんだから」


 クレアは嬉しそうに話している。俺と決勝で戦えることがほんとに楽しみのようだ。俺としては怖さや恐ろしさの方が強いのだが。あまり痛いのはやだな。


 その時だった。必死な顔をしたリタ先生が、控え室に入ってきた。


「ク、クレアさん。あなたの家が燃えてるわよ!」


「えっ!」


 クレアは控え室を飛び出した。俺もクレアの後をついていく。


 外に出ると、クレアが立ち尽くしていた。学校は高台にあり、さまざまなものを見渡せる。クレアの家は大きいので学校からもよく見えるのだ。そのクレアの家から炎があがり煙が出ている。


「そんな、なんで……」


 クレアはショックを受けているようだ。声をかけようとしたがその前にクレアは家に向かって走り出した。俺も追いかけるが本気で走るクレアにどんどん離される。走る度に左肩に激痛が走りのもあって、あっという間にクレアが見えなくなった。


「くそっ、そんな離れたら何かあったとき守れないじゃないか」


 痛めた左肩を押さえながらようやくクレアの家に着いた。家の中に入るとクレアと誰かが対峙している。誰だ煙でよく見えない。男のようだが。


 クレアが男に飛びかかるが、男は見たこともない魔法を放ち激しい光がクレアに直撃した。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁ」


 クレアは悲鳴をあげると、その場に崩れ動かなくなった。


 クレア? えっ? あのクレアが一撃で。うそだろ、まさか死んで……


 やがて男を隠していた煙が晴れた。


「うそ……父さん……」


「レインか。クレア様といい意外に早く気付かれたな。やはり魔法を使ったのは間違いか。よく燃える家だ。だがザワードは剣だけじゃ殺せなかったしな。しょうがない」


「えっ? ザワードさんを殺した? うそでしょ?」


 目の前の光景が、信じられなかった。父がザワードさんを殺したと言い、クレアが目の前で倒れて全く動かない。クレアの家が燃えている。


「あぁ、殺したよ。いやぁ、簡単だった。あれがこの国最強と言われる男の最後とはな。全く信頼とは怖いものだ。簡単に殺そうとしている相手に隙をみせるのだからな。まぁ、その信頼を築くために長い年月をかけたんだがな」


「なんでこんなことをしたんだよ。ザワードさんは今まで俺達に良くしてくれたじゃないか」


「ふん、あんなのはまやかしだ。あいつのせいで俺は…まぁ俺のことはいい。レイン、俺とともに来い。この国はもう駄目だ。俺の真の主の元へ行こう。お前ならきっとその方の役に立つ」


「ふざけるな、誰がお前なんかと」


 早くクレアを助けないと。きっとまだ生きてるはずだ。クレアがあれくらいで死ぬ訳がないんだ。


 俺は倒れているクレアの元に走った。しかし父さんは魔法を放ち俺の行く手を遮る。


「そんな女どうでもいいだろ。口の悪い、礼儀もなにもない、暴力的な女。俺がもっと良い女を見つけてやるよ」


「今なんて言った。クレアの悪口を言っていいのは俺だけだ。クレアのことを何も分かってない奴がうわべだけ見て適当なことを言うんじゃない」


「おいおい、親に向かって何て口の聞き方だ。もういい。俺とこないならお前もここで消えてもらう」


 ボルタは右手を前に出す。俺も慌てて右手を前に出す。


「ファイアレイ」


 そう唱えると炎の閃光が天井から何本も襲ってくる。


「ウォーターバリア」


 俺は水の防御魔法を唱えた。が、俺の魔法はボルタの魔法により簡単に打ち破られ炎に襲われた。


「ぐわぁぁぁぁーー」


 全身を高熱が襲う。俺の高い魔法防御力でもこんなにダメージを受けるのか。体に力が入らない。そのまま地面に倒れてしまった。その時はめている腕輪に気付く。あぁ俺バカだな。はずすの忘れてたよ。いつもクレアにバカバカ言われてたな。もう言ってもらえないのかな。


「ふん、その程度の魔法か。期待はずれだな。魔法の試験で一位になったとザワードに聞いたときは驚いて、少しあせったが。取り越し苦労だったようだ。ではそろそろ行くとしよう。運がよければ生き延びるだろう。じゃあなレイン。もう会うこともないだろう」


 その言葉を聞いて俺は意識を失った。

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