第44話 幼女キラー登場

 脳内で大人レインと戦っている幼女レインは、気付かなかった。

 いや、かしこさ150をもってしても、我が身のこと以外までは考えが至らなかったのかもしれない。


 レインがトッシュの体を操ってコンビニを目指すころ、手前の路上ではシルがスマホでネイとお喋りしていた。


 シルはネイが好きだ。トッシュの送別会の時に、いっぱいお話を聞いてくれたし、ニコニコしながら相づちをうってくれたし、聞き上手なのだ。

 レインみたいに途中で「おぎゃああああっ」と叫んだりしない。

 ネイは「それで」「なるほど」「面白いね」と、短くはあっても、しっかりとシルの話しを聞いて返事をしてくれる。


 だからシルは、ネイが大好きだ。

 だから、盛る。

 ネイを楽しませたくて、盛る。


「トッシュが、黒いえっちなパンツを穿いたゾンビのメイドに噛んだり噛まれたりして遊んでいたことをレインに話したら、レインが子供みたいになっちゃったの。裸で、固いのとか、痛いのとか、血が出たとか、そういうお話のことを教えたから、レインが怖がっちゃったのかなあ……。そうしたら、トッシュが、レインとシルとセックスするって言い出したの。今、セックスするために日本に来たの」


 シルはセックスという言葉の意味も七五三の節句も知らないので、「節句する」を勘違いしたままだ。


 一通りシルの話しを聞いてから、ネイは穏やかに話す。


『シルちゃん。誤解ではないのかな。トッシュがレインと性交渉をするのは、ふむ、どうゆう流れがあったのかは知らないが、いずれそうなることのような気もするから問題はない。ただ、シルちゃんを相手にすることは、ないと思う』


「でも、トッシュは、はあはあ言いながら、セックスするって言ってたよ」


 日本エリアまでダッシュして着物をレンタルしてきたからだ。


『今、日本エリアに居るんだろう? あまりセックスという言葉を口にしてはいけないよ。それに、聞き間違いではないかな』


「そうかなあ。シルが七歳で、レインが五歳みたいになっちゃったから、セッ――したいって言ったよ?」


『その時、トッシュは他に何か言ってなかったかな』


「えっと……。レインにシャワーを浴びてこいって」


 言ってない。勝手に勘違いしたレインが自主的にシャワーを浴びただけだ。


「あと、裸のレインを見ると、ニヤニヤしながら、カーテンを閉めて、私にも服を脱げって言った」


 バスタオルを巻いていたのだが、シルは「裸」と表現してしまった。説明が杜撰なのは幼女なので仕方がない。


『なるほど。あの朴念仁がさっさとレインの気持ちに気付けば、こんなことにはならないというのに。誤解だとは思うが、いずれにせよ、レインが幼女化したというのは気になる。様子を見に行くか。シルちゃん、通話を終えるね』


「うん。またお喋りしてね!」


『ああ。すぐにお喋りしようね』


 と、次の瞬間、コンビニの自動ドアを潜るトッシュの背後に、ネイが出現した。それは彼女が有する妖刀が有する能力の一つ。

 一度斬ったことのある相手に対して、同じ攻撃を再現する能力だ。


 かつてネイはトッシュの背後から首を切りつけたことがある。そのため、いつでもトッシュの背後をとり首に刀を突きつけることができるのだ。


 冷たい刀が首に触れた。トッシュはかつてナーロッパで「やんちゃ」していたときにネイと戦って刻まれた恐怖を思いだし、正気に戻った。


「うわっ。ネイさん! あ。あれ。いつのまにコンビニに」


「……なるほど。節句を祝うのか」


 ネイはレインの姿を一目見て、とりあえずの誤解については納得した。


「さて、レインの幼女化とはいったい」


 ネイが見つめる先で、レインは悪戯が見つかった子供のようにびくりと震えた。

 かしこさ150のレインでも、ネイに幼女のフリがどこまで通用するのか、読めなかった。


 何せネイは未婚なのに、妙に、幼女の扱いが上手い。初対面のシルが一瞬で心を許して親しくなっていたし。


「ふむ」


 ネイはレインを見て、微笑した。優しい表情なんだけど、レインは背中に氷でも入れられたような寒気を覚えた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ギルドをクビになったから、エルフ幼女(キュウリ大好き。すぐに話を盛る)と元後輩(幼児退行癖あり)と元ゾンビのメイド(無自覚エロ)と一緒にチートスキル「ステータス編集」でスローライフを送ることにします うーぱー @SuperUper

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ