第39話 ぅゎょぅじょかしこぃ
トッシュ、シル、レイン、ルクティの四人は炊事場に置いた木箱に座った。
広い洋館なので二階に食堂があるのだが、まだ掃除していないのだ。
一階のパーティーホールにはテーブルがあるが、広すぎて落ち着かない。
使用人室にあるテーブルは小さいし狭い。
そのため、どうにも食事をとるのに適したスペースがないから、トッシュ達はもう料理を運ぶ手間も省けるし、炊事場で食べればいいんじゃない? ということで、わりと早い段階から炊事場で食事をとるようになった。
「あうー」
レインはスプーンをグーで握ってオムライスを口に運ぶがぽろぽろ溢れていく。
見かねたシルが自らのスプーンで「あーん」と食べさせた。
7歳児が17歳にあーんするのは異様な光景ではあるが、レインはおままごとが終わっても幼児退行したままだった。
なお、過去のシーンでシルは10歳だったかもしれないが、実は7歳だ。
エルフは外見より歳を取っていることが多いので、トッシュが勝手に7歳を10歳だと思っていたのだ。
うーむ。困った。トッシュは悩むあまり、リアルメイドがいるのにケチャップでオムライスに「美味しくなーれ、ニャンニャン」をしてもらうのを忘れてしまった。
いくらルクティが年齢以上に聡い優秀なメイドでも、日本のメイド喫茶を知らなければ、そのように振る舞って場を和ませることもできない。
食事を終えると後片付けをルクティに任せて、トッシュはレインを伴って応接間に戻った。
シルもついてきたので、とりあえずソファに3人で並んで座る。
「なあレインふざけているわけじゃないんだよな?」
「えー? えへへ……」
要領を得ない。7歳のシルよりも幼く見える。
「ステータス見てもいい?」
「ステータス? いいよー」
レインは何を勘違いしたのか、シャツを思いっきりめくっておへそを露出した。胸まで見える前に、トッシュが手を押さえて「そうじゃない」と止めた。
お医者さんごっこか何かと勘違いされたようだ。
「頭なでなでしてあげる」
「ほんと? わーい! トッシュ、好きー」
トッシュはレインの頭に触れてステータスを表示してみた。
ステータス異常:なし
「あ。あれっ。ステータス異常がなしだ。どういうことだ? ルクティの時みたいにステータス異常ゾンビをなしにすれば快復すると思ったんだけど……。えっと……」
「あうー」
かしこさ:3
ゾンビよりは賢いらしい。
「確かにゾンビは語彙が「うー」だけだったけど、レインは「あうー」を多用しているな」
「ルクティの時みたいにレインのかしこさを上げて、治し方を聞いてみたら?」
「そうするか……。ステータス編集! レインのかしこさを3から、150に!」
ゾンビは150で自身の快復方法を筆談できるようになった。なら、幼児レインも……と期待するが――。
「えへへ」
「レイン、どうやったら元に戻れるか教えてくれ」
「えっとね……」
レインは人差し指を唇に当てて、首をちょこんと傾げる。
それから、パッと目を大きくして、トッシュの耳元に口を近づける。
「ん、どうした?」
(ひそひそ……)
「聞こえないよ?」
口がどんどん耳元に近づくかと思いきや。
ちゅっ。
レインは唇でトッシュの頬に一瞬だけ触れた。
「ひみつ」
ぅゎ、ょぅじょかしこぃ、であった。
自分が元に戻れば、もうトッシュといちゃつけない。
幼女ならではの倫理観と積極性なら、ほっぺにちゅっくらいは平気でできる。
今が、距離を縮めるチャンス!
大人の精神に戻ってしまえば、もう、トッシュに「好き」なんて恥ずかしくて言えないし、もし、今の記憶が残っていたら、死ぬ、私、恥ずか死する。
なら、もう、幼女のままでいいんじゃない?
というのが、賢い幼女の閃きであった。
そして、効果は絶大であった。
トッシュは顔がさっき食べた小村井のケチャップよりも真っ赤に染まった。
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