第30話 朝食は賑やか(ただし隣の部屋が)
何はともあれ朝食だ。
とはいえトッシュは、日曜日になれば家に居るのは自分とシルだけだし、二日前に見つけた喫茶店にまた行けばいいと思っていたので、何も食料がない。
「4人でご飯を食べに行くか」
と決めては見たものの、ルクティは昨日まで数年間ゾンビだったので、服がボロボロで手で押さえておかなければ胸が零れ落ちてしまうような状態。
おまけにスカートは大きく裂けていて、黒いレースのひらひらなエッチ下着が見えている。
とてもではないが、外に連れて行ける状態ではない。
「私のことは気になさらず、ご主人様達だけで行ってきてください」
とルクティは言うが、そういうわけにもいかない。
「私がレインからもらった服があるよ!」
前日、レインがいったん家に帰った際に、妹のお下がりを何着か持ってきてくれたのだ。シルが着るにはやや大きかったので、もしかしたら、ルクティにならあうかもしれない。
――と思い、3人は使用人室を出て暫く待った。
「見慣れないタイプの服なので戸惑いましたが、着替え終わりました」
そう言って出てきたルクティは、ファンタジーRPGの住人ではなく、成人向けアドベンチャーゲームの登場人物ではないかと思えるくらい、エロい。なんか、もう、いろいろとはみ出しそうでムチムチだった。
胸がはりだしているからシャツの裾はめくれ上がって白いおへそは露出しているし、普通サイズのはずのスカートは超ミニだ。少しでも風が吹けば、いや、歩くだけでも黒いレースのひらひらが見えてしまいそう。
「こ、これは、アウトです! 他のを選びましょう」
レインはルクティの手を引き、使用人室へと入って行った。
シルも後を追う。
玄関ホールにはトッシュだけが取り残された。
ドアが閉まった使用人室からは女子3名の賑やかな声が聞こえてくる。
「……もしかして、着替えている間に、俺がコンビニまで走って食べ物を買ってくればいいのでは……」
徒歩で30分の距離でも、トッシュがスキルを使えば、1分もかからない。
実際は日本エリアに入ったら能力を解除するし商品を選ぶ時間もかかるとはいえ、10分もあれば十分、行って帰ってこられそうだ。
トッシュは使用人室のドアをノックする。
「レイン、俺、10分くらい出掛けてコンビニ行ってくる」
「分かりました」
トッシュはレインに言付けて、さっそく家を出た。
ステータスですばやさを上げれば、自動車はおろか、飛竜よりも速くトッシュは地を駆け、一瞬で日本エリアに到達。
高速移動しても潰れなさそうなパンやおにぎりを購入し、家へ戻る。
時計で計ったわけではないが、10分かかっていないような気がした。
実際、トッシュが玄関ドアを上げたとき、右手にある使用人室からはまだ女子達のきゃいきゃいとした声が聞こえてくる。
「パンとおにぎりと牛乳買ってきたぞー」
シルだけが「わーい」と、とことこ出てきたので、仕方ないのでふたりは開いているほうの使用人室で朝食を取った。
トッシュ達が朝食を終えても、壁越しから聞こえるきゃいきゃいという声は途絶えなかった。女の子的に着替えは楽しいものらしい。
トッシュは漠然と、
「これ似合いますよ」
「きゃー可愛い」
「こっちもあわせてみましょう」
「きゃーヤバい。可愛い。めちゃヤバい」
と盛り上がっているんだろうなあと勝手に、思いこんでいた。
実際は、
「だ、駄目です。これも、む、むむむ、胸が強調されます! な、ななな、生意気おっぱい!」
「ああっ、申し訳ありません。お嬢様。けしてお嬢様を不快にさせるような物言いをしたつもりはなく」
「あ、いえ、別に性格が生意気と言ったわけではなくですね……。お嬢様?! 私が?!」
「はい」
「え、待ってください。朝、私のこと奥様って言いませんでした?!」
「いえ、シル様が奥様です」
「なんでぇ?!」
「ち、違ったのですか。シル様はエルフなので外見はお若く見えますが既に成人されていて、トッシュ様の母であると仰っていました……」
「そ、それで今朝、シルちゃんを奥様、私をお嬢様って言ってたんですか?! 違いますよ。それ、シルちゃんのおままごとですよ?! 正確にはトッシュ先輩が旦那様で、私が奥様で、シルちゃんが娘です。あ、いえ、これは将来的な話なんですけど」
「あの、お嬢様、もとい、レイン様、今朝から何度もしていらっしゃる、その腰を左右に振る踊りはいったいなんなのでしょうか。えっと、こうですか、なかなか、難しいですね。腰がくにゃくにゃしません」
隣の部屋では17歳と14歳が、腰を左右にくねくねさせていた。
かたやワカメの如くくにゃくにゃで、かたや風に揺れる木の如くぎこちない。
元後輩と住み込みメイド。
果たしてふたりは恋のライバルになるのだろうか。
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