第19話 トッシュとシルはホームセンターでテンション爆上げ

 トッシュ、シル、レインの3人は日本エリアにあるホームセンターにやってきた。

 日本の田舎によくあるようなホームセンターだ。

 自転車置き場の近い、横側入り口から3人は入店した。


 先頭を行くレインは家庭的なところをトッシュにアピールしたいから張り切っている。


「先ずはマットレスと毛布ですよ!」


「あー。確かに。

 使用人室のはおろか、二階の洋室のも、寝具は質が低かったな」


「基本的に武器以外なら、日本品質の方が上ですからね」


「なるほど。言われてみると確かに」


「新居用の家具やリネン類を一緒に探すなんて、

 まるで、こ、恋人を通り過ぎて、ふ、ふう、ふ、ふふ……」


 レインが顔を真っ赤にしてアピールをするが、

 トッシュはとっくに、シルに手を引かれて離れた位置に移動していた。


「ねえ、トッシュ、これなあに?

 日本エリアには武器は無いって言ってたよね?」


「ん。ああ、これは武器じゃなくて農具。

 鍬や鎌くらい、ファンタジー世界にもあるだろ?」


「分かんない……」


「まー、農作業をしたことがないと見ないかー。

 ……畑、造るか。

 田舎で犬を飼って畑を作りたかったんだよなあ。

 よし、決めた。畑を造る!

 シル、こっち来い、種と苗を見るぞ」


「うん」


「ほら。この袋に入っているのが種だ」


「凄い! こんなに種類があるんだ!」


「何か育てたいのあるか?」


「お花がいい!」


「花か。あのあたり温暖地域だよな?

 2月から3月に植えられるとなると、このあたりか……。

 この、2という文字か、3という文字が書いてあるのを選ぶんだぞ」


「うん。えっとねえ……。これ!」


「カーネーションか」


「これも!」


「かすみ草か」


「あとは……。

 ……!

 なっ、なにこれ……!」


「どうした、そんなに震えて。

 そこは野菜の種だぞ。そんなに驚くものがあったのか?」


「なにこれ、なにこれ!」


「あー。それはキャベツだ」


「これがいい! すごい! 格好いい!」


「ええー。エルフの価値観どうなってんの……」


「こ、ここはユグドラシル?

 すごい。わくわくが、とまんない!」


「キャベツが、エルフ的にテンション爆上がりポイントなのか」


「わ、わああっ!」


「おいおい、危ない。転ぶぞ。

 そんなに仰け反ってどうした。

 それはいったい何を見つけたテンションだ」


「トッシュ、やばい、これ、やばい」


「エルフが『ヤバい』って言葉を知っている方が俺的には『ヤバい』が。

 ん? それは、ブロッコリーだぞ」


「ブッコロリー」


「言えてない。ブロッコリー」


「ブッコリー……。

 つぶつぶ、ヤバい……。

 丸いのもヤバい」


「そ、そうか。なんとなくエルフのばかうけポイントが分かったぞ。

 ほら、シル、これ見ろ。レタスだぞ」


「なにこれなにこれ! キャベチじゃないの? これもほしい!」


「よし買うか!」


 トッシュとシルが周りの迷惑顧みずテンション爆あげしていると、

 ようやく妄想から復帰したレインがやってきた。


「ふたりとも、どんだけ大きな畑を作るつもりですか……」


「家の周り、全部畑にするかなあ。土地、余ってるし」


「するー! 畑にするー!」


「冗談だと思いますけど、先輩、

 本気ならカルチベーターでも買ったらどうです?」


「カマンベールチーズ?」


「シルちゃんと似たような反応しないでくださいよ。

 知らないんですか?

 日本語だと耕運機です。

 園芸用品がここだから、直ぐ近くの売り場にあると思いますよ」


 レインが歩きだすから、トッシュとシルも後を追う。


「あった。これです」


「あー。耕運機って、手押し式の小さいやつあるんだ。

 車みたいにでかい奴は高いだろうし持てあましそうだけど、

 これなら……。

 お。値段も手頃。いいな、これ」


「先輩のお家って、電気、通っていませんよね?

 電動ではなくガソリンで動く機種にした方がいいですよ」


「詳しいな」


「一応、日本生まれ日本育ちなので」


「そっか。レインが居ると助かるな。

 価値観も近いし、現代知識の誤解もないし」


「え、えー。えへへ」


「けっこう気が合うよな。

 もしもっと早く出会っていたら、俺、絶対、お前にこ――」


「トッシュ、見て! お花が売ってる! 来て来て!」


「ん。おー。行く行くー」


「おぎゃあああっ!」


「レイン、うるさい。いきなり叫ぶな」


「レイン、うるさい……」


 トッシュだけでなくシルもドン引きした。

 ついでに他の客も、なんだあいつうるさいなという視線を向けてきた。


「シルちゃぁあん?! なんてタイミングで声をかけてくれるのぉ?!」


 嘆くレインを放置して、シルはトッシュの手を引いて、

 花や苗の売り場へと移動した。


「いっぱいお花がある!」


「シル。気付いたか。それが、ホームセンター入り口の守護神、花屋だ」


「花屋! 凄い。外は寒いのに、お花がいっぱい咲いてる!」


「おー。店員さんに、日持ちしそうなのを聞いて、少し買ってくかー」


 トッシュとシルは温室に入っていた。


 外で取り残されたレインが叫び続けているが、その声は届かない。


「トッシュ先輩、今の言葉の続きは?! 『お前にこ―』の続きは?! 告白?! 交際?! 恋人になってほしい?! 婚約を申し込む?! 子供を産んでもらいたい?! 言ってくださいよおおっ!」


「あ、あの、お客様……」


「あ、はい。すみません」


 店員がやってきたので、レインは、すん……とテンションを落とした。


 こんな感じでレインはギルド時代からトッシュへの好意が丸出しだったのだが、いつも間が悪くて、想いは伝わらないのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る