第18話 皆で食べる朝食は美味しい

 トッシュとシル、元上司のネイ、後輩のレイン、ロウ、同期のドルゴ、計6人はパーティーホールの隅にあるテーブルを囲んでいた。

 残りの9名は前日の内に帰っている。


「美味い! 昨日のピザがなんでこんなにパリパリなんだ……」


「加水と火加減だ」


「それだけで焼きたてに戻るの?

 マジで、ネイさん、うちに永久就職してくださいよ」


 トッシュとネイが台所でのノリを続けると、

 それを聞いたレインが「んがっ」と口を大きく開いた。


「ど、どど、どういうことですか?! 永久就職ぅ?!」


「トッシュは料理を作る人間がほしいらしい」


「わ、わたし、おにぎり握れますよ!」


「すげえ。たったひとことで料理スキル皆無なのが分かる」


 トッシュが女性陣と会話していると、正面のドルゴがピザの1カットを僅かふたくちでペロリと平らげてから口を開く。


「おいおい、トッシュ。分かってやれよ」


「分かるって何を?」


 ドルゴは両手を上に向けて、大げさな『呆れてます』アピール。


「はあ。リオンが昨日のうちに帰ってくれて良かった」


「なんでリオンが出てくるんだよ」


 朝食を取りながら、思い思いにわいわいと過ごした。


 話題に取り残されがちなシルに、

 レインが気を遣って話しかけているのを見て、

 トッシュはかつての後輩を改めて見直した。


(ああ、こいつ、人に気を遣えるんだなあ)


「な、なな、なんですか、先輩。私に熱視線を送ってません?!」


「人がちょっと見直しかけてたのに、そのどもる癖、なんなの?!」


「だ、だってえ、先輩が見つめてくるから……」


 レインが可愛らしく肘を畳んで「きゃっ」と腰を捻った。


 その様子を見て頭にはてなマークを浮かべるトッシュ。

 その様子を見てドルゴがでっかい溜め息。


「はぁ、ほんと、リオンが居なくて良かった。

 トッシュ、お前、そのうち刺されるぞ」


「なんでだよ。そうだ。ドルゴ、ロン、レイン。

 せっかくだから、この洋館を掃除していってくれよ」


「はあ、なんで俺達が?!」


 ドルゴの大声の陰で、それまで黙々と朝食ととっていた無口なロンが、

 ぼそっと呟く。


「……給料でるんですか?」


「やります!」


「レイン、いいこだなあ、お前。

 ゴリラと根暗野郎は見習ってほしいぜ」


「えー、えへへ」


 トッシュの発言に、ロンの眉がピクッと跳ねる。

 ロンは寡黙なだけで、けして、内気でも弱気でもない。


「……ドルゴさん。リオン、呼びます?」


「そうだな。糞トッシュがかつての上司権限を乱用して、

 レインに洋館を掃除させていると伝えろ。飛んでくるぞ」


「……っす」


「おいそこのゴリラと根暗、小声で何か悪巧みしてないか?!」


「俺達は正義だから、悪巧みなんて出来ないさ。なあ、ロン?」


「……っす」


「怪しいな。まあ、いっか。よし、シル。大掃除だ」


「うん!」


 席を立ったトッシュとシルの背中に、ネイが待ったをかける。


「掃除は私達に任せなさい」


「え。さすがにネイさんに掃除してもらうなんて、悪いですよ」


「身の回りの品で、不足しているものがあるだろ?

 シルと買い出しに行ってくるといい」


「先輩がそう言ってくれるなら」


「レインもついていきなさい」


「はい!」


 こうして、ネイの勧めにより、

 トッシュ、シル、レインの三人は日本エリアへと買い出しに行くこととなった。


 最もはりきっているのは、猪突猛進娘のレインだ。

 家庭力のあるところをトッシュに見せつけて、異性としての評価を上げたいと思っている。

 果たしてどうなることやら。

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