第3話 さっちゃんの友達 普通の子編

「最近楽しそうね、さっちゃん」

「えへへ」

 さっちゃんは今日、家に友達を招いている。彼女は美織ちゃんといい、さっちゃんとはハロウィンイベントの短期アルバイトで仕事を共にして仲良くなった。

「やっぱり恋って楽しいんだ」

「まだ告白はしていないけどね~。美織ちゃんは好きな人、いないの?」

「好きな人……」

 美織ちゃんの顔が突然曇ってきたので、さっちゃんは慌てた。何か気に障ることでもあるのだろうか。

「あ、ごめん! 無理しなくていいから……」

「いや、私の方こそごめんね、急に暗くなっちゃって……」

「大丈夫?」

「うん。あのね、私……」

「何?」

「好きな人、いないわけでもないんだよね」

「へ? それってどういう意味?」

「いることにはいるけど、全然会っていないの」

「どうして?」

「その人ね、すごく頑張り屋さんなの。きちんと目標もあって、常に自分に必要なものを手に入れようとしていて……」

 下向きで話す美織ちゃんを、さっちゃんは優しい気持ちで見守っている。

「そんな人を私が好きでいたら、いけないんじゃないかなって」

「何で?」

「私は今、底辺にいる人間だから……」

 美織ちゃんは今、就職活動中の身だ。以前働いていた会社がブラック企業で、疲れ果てて退職したのだ。その後すぐに就職活動を始めた美織ちゃんだが、まだ職が決まらない。特にやりたいこともなく、目標も見つからない。美織ちゃんは、そんな自分が嫌なのだ。

「わたし、美織ちゃんのこと、一度もそんな風に思ったことない!」

 さっちゃんが椅子から離れて立ち上がり、大声を出した。そんなさっちゃんを見上げる美織ちゃんの目から涙が流れている。

「わたし、知ってるもん。美織ちゃんが頑張っているの。目標だって見つかるよ! だから、美織ちゃんは美織ちゃんのことを、そんなに悪く言わないで!」

「さっちゃん……」

 美織ちゃんは、手で涙を拭い、

「ありがとう!」

 と、満面の笑みで言った。その様子を見て、さっちゃんは嬉しくなった。

「美織ちゃんの好きな人のこと、もっと教えて」

「うん。彼ね、いつも優しくて、ニコニコしていて」

「うん」

「小さいころから歌が上手で、将来はミュージシャンになりたいって言っていたの。今でもその夢は変わっていないの。さっちゃんと同じで、ボイトレ教室にもしっかり通っていて」

 ん?

「……うん。それで?」

「あとね、大好きなオムライスを食べる顔が本当に幸せそうで好き!」

 んん?

「……ねえ、美織ちゃん」

「何?」

「彼の名前は?」

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