第4話 さっちゃんの友達 マホジョ編

「あー、やっぱかわいいなー!」

 新しい服をたくさん買って満足気な美女。その隣には、

「よかったね」

 さっちゃんがいる。

「人間界、かわいい服ばかりよね! あっちの世界とは全然違う。あっちは黒とか紫とかオレンジとか……いかにも魔女! ハロウィン! って感じのばっかで」

「でも、わたし結構好きだよ? あっちのも」

「まあ悪いってわけではないけどー……っておいおいおい!」

「へ?」

「あっちとか人間界とか、出しちゃダメじゃーんっ!」

「あ、そういえばそうだ!」

「っつーか言い出したの、あたしなんだから注意してよ~!」

「ごめーん、気づかなかった!」

「もー、さっちゃんって相変わらずヌケてるよねっ」

「すいませーん」

「お、あそこのカフェおしゃれじゃん! ちょうどショッピングで疲れたから、休んでいこーよ!」

「えー、どこなのレイちゃん」

 レイちゃんもマホジョである。しかし彼女はさっちゃんと違い、普段はマホジョの世界で生活している。




「このカフェ良いじゃん。ガトーショコラもなかなかうまいし」

「おいしいおいしい」

 かぼちゃのモンブランを食べながら、さっちゃんは幸せそうに頷く。

「でもびっくりだよ。かぼちゃ克服していたなんてさ」

「自分でも驚いているの。あんなに嫌いだったのに、大好物になるなんて。白いかぼちゃさんに感謝だよ。栄養もすごいしね」

「ま、よくやったとは思うよ。でもさー」

「なあに?」

 レイちゃんは、ガトーショコラを口に運ぶ手をストップさせた。

「あたし、シンデレラの魔法使いには憧れないかな」

「……そう」

 さっちゃんは残念そうな顔をしている。

「あたしの憧れは、白雪姫のりんご売りとか、人魚姫の魔女とかだね。あのたくましさは見習いたい」

「うーん……」

「大体さっちゃんはさー、どうして魔法をもっと使わないの?」

「こっちでは、そんなにオープンにできないよ。それにわたし、使える魔法も少ないし」

「じゃあマホジョの世界に戻れば?」

「ううん、いい」

「さっちゃんのやり方って遠回りなんだよねー。わざわざ不自由な世界で生活しているなんてさ。滑舌だってボイトレ行かなくても、マホジョの世界で簡単にどうにかなるっしょ?」

「それじゃ、何か違う気がする」

「は?」

「シンデレラだって、あんなに頑張っていたから、魔法使いが来てくれたんだと思うの。だからわたしも、たくさん頑張れば……」

「シンデレラ症候群、乙」

 さっちゃんは力なく笑っていた。レイちゃんの歯に衣着せぬ物言いには慣れているつもりだが、やっぱりキツい。自分の考えを全否定されるのは、本当に悲しい。

「でさ、」

 諦め顔のさっちゃんに、レイちゃんは話し続ける。

「悩みって何?」

「あ、それはね」

 さっちゃんはレイちゃんに打ち明けた。自分には今、磯西くんに恋しているということ。人間界の友達である美織ちゃんのこと。そして、

「その美織ちゃんがね……」

 美織ちゃんの好きな人が、磯西くんだったということ。

「別に関係ないじゃん。そんなこと」

「どうして?」

「好きなら好きって、とっとと言いな。今まで散々アプローチしてきたのに何してんの? ぼやぼやしているから、そんなことになるんだよ。でも恋したら、友達とか関係ないから。自分が欲しいと思っているなら、自分のものにすりゃ良いんだよ。何を悩む必要があるの?」

「う……」

 言葉に詰まるさっちゃんを見て、レイちゃんは溜め息。

「……たまにはシンデレラ以外の童話にも、目を向けてみたら?」

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