……って言ったのに。

「さあ! 行くよ!!」

 アネラの後ろできっちりひとまとめにした髪の毛が、気合いを物語っていた。

 今日で、エステラの運命が決まるのだ。あたしたちは命を懸けて、デスグラシアと戦う。

 シャルセーナ、エルリエルを背中に差し込んだあたし。今日は変装をせず、突っ込んでいく。変装してたら戦いにくいし。だけど不安だから、一応フードを被っておく。

 呼吸を整えようと必死になるが、どうしても過呼吸になってしまう。

 落ち着け。あたしは強い。絶対に勝てる。レウェリエは星々の従者だから。闇なんかに負ける筈がない。

 雷姫とソフィアは、何処か落ち着かない様子。アネラ、エレナは何も怖くないとでも言うような表情だ。

 神殿の前に着いた。聳え立つその建物はあたしたちを圧倒する。

 あたしは拳をぎゅっと握った。怖がっても怖がらなくてもどっちにしろ逃げることはできない。なら、怖がらずにしっかりと戦って、勝利を手にするべきなんだ。あたしは一番に神殿に足を踏み入れた。

 神殿の中は暗闇に包まれている。

「エステラ・ルス」

 あたしは自分自身に星明りを纏う。星と一緒と考えると何も怖くないから不思議だ。あたしはランプだから、前を堂々と歩いていく。もう勝ち誇ったかのように、勇ましく。

「いる……!!」

 ソフィアがそっと呟いた。

「本当だ……」

 雷姫も、柱の陰から目の前に広がるホールを覗いている。

 ホールの真ん中で座っているのは、他の誰でもない、デスグラシア・ムルシエラゴ・エリオットだった。

 ソフィアによると、デスグラシアは最奥の皇帝の間にいる可能性が高いと言っていた。このホールの先は、一旦外に出られるようになっているから、雷姫とソフィアはそこから自爆用意をする、と。だが、ここにもいるだなんて。

「どうする?」 

 アネラがあたしに訊いてきた。

 ここは、戦うしかない。もしここで勝てたのなら、雷姫とソフィアも犠牲にならなくて済む。だから……

「一か八か戦おう」 

 あたしはそう答えた。

 あたしたちはホールに出ていく。シャルセーナ。あなたが頼り。あなたの出す星魔法で、彼奴を倒せればいいの……。

「ほう、来たのか」

 デスグラシア。お前への恨み、一生忘れない。仲間、そしてあたしの大好きな人を奪った罪、エステラ人を殺した罪、民を苦しめた罪を、ここで今贖罪するがいいのよ……!! 

「エステラ・ディオース!!」 

 得意のこの呪文を唱える。少しはダメージを受ける筈……と思ったが、現実はそんなに甘くなかった。

「痛っ!」

 星々があたしのもとに返ってくる。まさか愛しい蒼い星々たちがあたしを攻撃する日が来るとは……。いや、違う。彼奴は、あたしの魔法を跳ね返した!! つまり、攻撃しても無意味……!!

「ほう、それが全力か。では我はウォーミングアップも兼ねて一つ見せてやろうじゃないか。ニュクテリス・カタストロフィ!!」

 巨大な蝙蝠があたしに近づいてくる。しかも、何故か逃げることができない。どうしよう……。あたふたとしていたとき、視界の隅に白に近い赤紫の髪の毛が入ってきた。

 それが何なのか判断もつかず茫然としていると、目の前にエレナが立ちはだかる。

「エレナ?!」

 気が付いた時にはもう遅く、デスグラシアの魔法を真に受けてしまったエレナは崩れるようにして床に崩れ落ちた。

「その程度か、お前らの力は! じゃあ我は皇帝の間で待っておるぞ。ハッハッハッハ……」

 心の底から湧いてくる怒り。それは自分と、デスグラシアに対する怒りで二つ。誰にも抑えられないこの怒りは、地面にぶつけられた。ゴツン! と音を立てる地面。だがどうにもならない。

「レウェリエ、落ち着いて……」

 アネラは必死にあたしを止める。自分が情けなかった。エレナの命を救えなかった挙句、地面に八つ当たりするなんて。幼稚にもほどがある。

 床に寝かされたエレナの脈を確認するソフィア。だが、触れたその瞬間に目から大粒の涙が零れていた。訊かなくても判る結果。儚さと残酷さに、ただただ流されるだけだった。

 なんで、守れなかったんだろう。なんで、助けられなかったんだろう。様々な後悔が頭の中を駆け巡っている。どうすることにもできない。そんなの判っている筈なのに。

 エステラでは、亡くなった人が来世で幸せになれるよう、星に故人を預ける。今からそれをやるのだ。

「エステラ・ムエルタ・ディッチャ……。星よ、この死者の幸せを叶えよ……」

 きらきらと星明りに包まれるエレナは、その姿を星に預けた。かつてエレナが横たわっていた場所に、視線を集中させる。

 大きな後悔で溢れているあたしの心は、ボロボロ。戦う気力を無くしてしまった。

 泣くのを堪えているのか、目を細めて上を向く雷姫。

「生きて欲しいって、言ったのに。言ったのに……!! 守れなかった……!!」

 涙混じりの声は、ホールに悲しく響き渡った……。

 

 

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