終焉を告げる一番星。

 ――悲しい。

 その感情があたしを支配するが、それは自分ではどうにもできないものであった。

 エレナは星々に見守られて、次の命を授かる準備をしているのだろうか。

 次の命を授かるということは、記憶を消し、本当に一から人生をスタートさせることを意味する。あたしたちのことももうとっくに忘れ、次の転生場所を裁判されていることだろう。いい場所に転生できますように……。心からそう祈った。

 ホールを抜けた先、皇帝の間に入る前の庭園。あたしたちは座って、黄昏時のアウロスの空を眺めた。

「……一番星」

 悲しげに呟かれたアネラの声。雷姫とソフィアにとっては終焉を告げる空なのだろう。永遠にこの生と別れることになるのだから。

 一番星は、蒼く、透明に輝いていた。感じさせてくるその神秘さと美しさは、いつまでも見ていたくなるようなもので、あたしは思わずため息をついた。

「ねぇ……」

 震えたソフィアの声が、また悲しさで溢れている。いつかやってくる日を早めてしまった雷姫とソフィアの覚悟は、相当なものだろう。

「転生しても、一緒に居てくれる?」

 雷姫の二の腕に自分の腕を絡ませたソフィアは、何処か縋るようで、本当は死にたくないという思いが垣間見えてきた。

「そもそもあたしが悪人だから転生できるかどうかがまず微妙だけどね」

 微笑した雷姫だが、雷姫もまた心の奥底に秘めていた恐怖心が外に出ようとしている。

 こんな時まで冗談を言える雷姫の心の強さに、ただひたすら圧倒されるばかりだ。

「やめて……いいんだよ?」

 限界を絞り出した様なアネラの声は、エステラの全ての民の思いを代弁している様。誰かが死ぬことなど、誰も望んでいない。誰も悲しませたくない。それがエステラの全ての民の思い。

 あたしはただ、雷姫とソフィアが転生先でも結ばれ、永遠の幸せを手に入れられるように祈ることしかできない。それ以上やるとただの迷惑だ思うし、祈るだけでも心の支えになってくれる。

 気がつけば、日が暮れていた。またあの蒼く染まった星空か現れる。

「またいつか、逢える日を待っているよ……」

「二人が、愛する人と会えますように……」 

 それだけだった。たったそれだけ。二人はまるで普通に出かけるかのように、闇の中に消えていった。

 キラリと、一番星がまた光る。それは二人の死を警告するものだった……。

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