第74話 顧問として先生として、正直に言ったことをどうして悔やむんだ?


「私の母方のお祖母ちゃん……。私が先生になることを本当は嫌いだったっけ?」


「懐かしいけど……。私の母方のお祖母ちゃんは、私の父方のお祖母ちゃんが教師だったことを、本当は」


「言ってくれたっけ? 私は相手の先祖を、いいように思ってないと……」


「自己愛――ナルシシズムだった人生。望まなかった両親の結婚を、でき婚で生まれた私を。最後の最後まで黙認して亡くなっていったんだ……」


「なんで、こんなことを……今、私は思い出すのだろう?」




       *




 数日後――


 というより、今週と書き直したほうがいいのかもしれない――


 ラノベ部の部室で、大美和さくら先生が少しだけゲットアングリーしてしまって、部員全員が絶句してしまった一件。

 当然のこと、当事者である神殿愛はかなり焦ってしまった。


「ねえ……、勇太様?」

「ん? なんだ神殿」

 神殿愛と向かいに座る忍海勇太は、お互い机に置いてある自分のPCのキーボードをカチャカチャと打ちながら自作のラノベを書いている。

「私さ……、やっぱ先生に誤ったほうがいいのかなって?」

「どうして、謝るんだ。お前がさ」

「私さ……、だってさ……」

 神殿愛はキーボードを打つ手を少し止めながら――

「だって。そりゃ生徒会と同じくらいにラノベ部も大切に思っているし」

「だから、先生に誤るって……どういう理屈なんだ?」

 同じく忍海勇太もキーボードを打つ手を止めながら――

「生徒会と同じくらいに……大切に思っているんだったらいいじゃんか。それで」


「そ……そういう意味じゃなくってね。勇太様……」

「じゃあ……どういう意味なんだって」


 ピョン!


 兎に角……神殿愛は自分の心の中にある自分の気持ちを自席で飛び跳ねてでも、向かいに座る忍海勇太に……

 ではなくて。

 この効果音は、神殿愛のPCの画面に向かいに座る忍海勇太の姿を内蔵されているカメラを通して表示されていますという音である。

「勇太様……って。いきなり、画面に現れないでくださいな」

「こっちのほうが話しやすいだろと思ってな。ラノベ書きながら会話するなら」

 つまり、神殿愛の画面を通して彼と会話をしているのだ。

「まあ……そうですね」


 2人は、打つ手を止めていたそれを再び始めて、ラノベを書き始めた。


「……んで。どういう意味なんだ? 神殿よ」

「……その。私は生徒会長で――」

「そんなこと、すでに知っているけど」

「生徒会の大切な会議の時間と、どうしてもラノベ部の時間が重なることが多くありまして」

「だから、」


 もくもくと、ラノベを書き続けている忍海勇太はあっさりと返答を返す。

 そんな彼の姿を、時よりPCの上からちょいと見てみようと……かなり気になっている様子の神殿愛だった。


「その……だからですね、生徒会長として――私はどうしても生徒会を優先しなければいけない立場でして。その……それは大美和さくら先生も理解してくれているはずだと思うんですよ」

「そうだろうな……。先生だってかつては聖ジャンヌ・ブレアル学園の生徒だったんだから、生徒会の重要性も知っているはずだろ」


「はい……。そう思います。私も――」


「だからさ……神殿って」

 PCの画面に映っている忍海勇太は、カメラ越しに鋭い視線を作った。

「要するに、先生の本音としては、神殿愛はラノベ部をもっと良く思って欲しい? ……なのか」

「……私は、これ以上ラノベ部の部活動に影響を与えてしまう生徒会長になってしまっては、大美和さくら先生が熱意をもって顧問をなさってくれているこのラノベ部に申し訳ないと……そう思うんです」

 PCのカメラから視線を外して、神殿愛の表情は少し寂しい。

「じゃあ、ラノベ部を辞めて生徒会長に専念したいのか」

「いや……別に、そうじゃないんだけれど」

「じゃあ……なんなんだ?」


「あの一件以来、先生は顧問の代行を部長である勇太様に任せているじゃありませんか」

「ああ……、しばらく先生は部活に来られないからって、言ってたな」



 顧問、大美和さくら先生は、実はあの一件以来部室に顔を見せていなかった。

 生徒達の手前、あんだけ嫌味っぽく苦言を言ったから……なのかもしれないし。単純に教職が忙しいだけなのかもしれない。

 新年度に入って、新一年生の相手も授業もやっていかなければならない忙しい時期でもある。


 兎に角……、先生は部室にしばらく来ないのだろう。



「勇太様……、やっぱし私の責任ですよね?」

 視線をカメラから外したままの神殿愛を、

「だからって、ラノベ部を辞めなくてもいいと思うぞ。お互い1年生からここまで活動してきた仲だろ? 俺達も、今まで先生のいろんな面を見てきて、喜怒哀楽をさ……微笑んでくれたり、小言を言われたこともかなりもあって、今日まで活動してきた顧問の先生をさ……」

「をさ……」


「もっと、信じても俺はいいと思うけれど。というよりも、先生は部員のことを信じてきてたはずだから……。流石に新入部員が入部してきた初日に、遅れてきてから……あれだけハイテンションで生徒会のことを部室で言われたら、そりゃカチンとくるだろ」

 PCの画面に映っている忍海勇太は、カメラの……ではなく。もくもくとキーボードを打ち続けながら自作のラノベを書いている。

 別に彼から神殿愛への苦言でのなんでもなくて……、ただのアドバイスだった。

 彼にとってはであるけれど。

 それでも、神殿愛にとってはグサッとくる様子で――


「やっぱし、勇太様もそう思っていることですよね? その言い方って」

「ああ……」


「ひ……、ひどーいです」


 がっくりと肩の力を落とす神殿愛――彼女の自作のラノベは勿論、未完成で書き掛けのままである。




       *




「ちょいとさ……、おふたりさん??」


 ピョン!


 PRGの戦闘シーンモードに突入か!

 否――いや、戦闘シーンみたいな場面展開ではあるけれど。


「さっきから、あたしの向かいと斜め向かい同士でラノベ部の部員反省会みたいなことを話し合っているみたいだけどさ……」

 新子友花も自分のPCで自作のラノベを書きながら、内臓されているカメラをガン見して、

「あたしもラノベ部の部員なんだからさ……コミュニケーションに加えてほしいんだけれどさ」

 まあ……見なくても、向いと斜め向かいに座っている神殿愛と忍海勇太には、直接的に話しかければ聞こえるのだけれどね。

「お前は部長でも、副部長でもないから……別にいいって」

 忍海勇太が、モニターに映る新子友花を無視して素っ気ない言葉を掛ける――


「だから、あんたってあたしのことをお前って言うなってば!」

 

 一方の新子友花はというと……、自分の席から立ち上がって部長忍海勇太に猛抗議?

 それじゃ……PCで会話している意味がないよ。

「友花はさ……、どう思う?」

 神殿愛が新子友花を見上げて……って、こちらも普通に会話しているよね?

「どう思うって……それは愛が決めればいいだけじゃん」

 内心……神殿愛がラノベ部を辞めてくれれば、忍海勇太と2人きりの部活動に……、いや今では違った。

 東雲夕美も、新城・ジャンヌ・ダルクもそれに新入部員の狐井磨白と狐井剣磨も入部しているのだから、実質2人きりではすでにない。

 部員が多くなったことは、大美和さくら先生と同じく嬉しいことだと思う……。

 けれど、文芸誌『あたらしい文芸』で書いたように、あの夜市の花火大会の思い出のように、いつまでも幼馴染とのひと夏の“初恋”は、もう忘れてしまわなければ、これからの自分の恋愛にも影響してしまうんじゃないかって。

 それは、……その忍海勇太なのか?

 まだ、わからないけれど……。


 でも、自分の忍海勇太への思いが、なんだか新3年生になってから、なんだか新入部員も入って、だから薄まっていくような……。


 大美和さくら先生は、とても嬉しいみたいなのだけれどね……



 部員――東雲夕美と新城・ジャンヌ・ダルクは新3年生になってから一度も部室には来ていない。

 なんでも、まだ日本に不慣れな新城・ジャンヌ・ダルクを、東雲夕美が付き添って学園内を案内しているという。それが部活動以外の活動として顧問からも認められている様子で、つまり先生公認の案内ということだ。

 フランス人である彼女にとって、国語教師である先生も、もっと日本語に、日本の文化などに精通してほしいという願いも込めて、その案内を部員の東雲夕美に任せてあるということだ。


 では……、新入部員の2人はというと。


「あの……お話し中のとこ恐縮ですけれど。新子先輩」

「何? 狐井剣磨君」


 ――部室の後ろ、余っている机の椅子に腰掛けているのは、2年生の狐井剣磨である。


「あの……、新子先輩」

「ん? 狐井磨白さん」


 ――その隣に同じように腰掛けているは、新1年生の狐井磨白だ。


「あの文芸誌を一通り読み終えました」

「そ……」

 狐井剣磨が手に持っているのは去年の文芸誌『あたらしい文芸』だ。

「どうだった、読み終えた感想は?」

「どうって……その」

「んもう……。謙遜しなくていいかんね? 同じ部員同士じゃん」

 語尾が少しおかしくなった。

 ということは、新子友花の現在の頭の中はハイテンションっぽいのだろう。

「その……忍海先輩も神殿先輩も、とても文章表現が上手だなと思いました」

 チラッと机に座る部長と副部長を見る。


「おお、そうか。それは俺も書いてきたかいがあったってな」

 忍海勇太が腕を組んでうんうんと何かしらの自尊心を満たしたのか、至極納得した。

「それにしても、すまん。先生が部室に来てから席順を決めるって神殿と話し合ったから……なんか、仮の座席に座ってもらって……」

 両手を合わせて狐井兄妹に申し訳ないという姿勢を作る。

「あら! これは、ありがとうね♡ 私も文章もまだまだだけれどね」

 神殿愛は、キーボードを打つ手を止めずにそう言い放った。照れ隠しなのだろう……。

「そうね……。先生が来てからみんなで座席はどうするかを決めると部長と話し合いましたから……少しの間は窮屈でしょうけれど……我慢してね」

 ペコリと軽く頭を下げると、神殿愛は2人に微笑んで見せた。


「い、いえ。お構いなく」

「私達、入り立てなので文句は言えませんから……」


「で……狐井磨白さんは……感想は?」

 新子友花は質問を続けた……

「は……はい。その……読み応えがあったかと思います」

 彼女はパラパラと文芸誌をめくりながら、そう返す。

「ど……どこらへんが……かな」

 新子友花が更に彼女に尋ねると、

「ど……そうですね。部長の忍海先輩は当然旨いなって。それに副部長の神殿先輩もですね」


「んで?」


 新子友花……何か聞きたいのか。

「んで……ですか? それから」

「それから……、それから?」

「それから……」

 パラパラとページをめくりながら――


「メイン企画の文章なんかは……どうだった」


 そうだろうと思った。

 要するに、自分が書いた(くじ引きで無理矢理決まった)文芸誌のメインの小説の感想を聞きたいのだろう。

「メイン……ああ、この夜市の話ですよね?」

「それそれ……そうだよん」

 どうして急に優しい口調に変わった? ついでに語尾はおかしいから。



「これって、」

 狐井磨白が文芸誌を閉じて、それを膝に乗せる。

「ぶっちゃけ、忍海先輩への愛の告白ですよね……」


「にゃ! 愛の告白だなんて……正直に言っちゃダメだってば」


 新子友花は両手を左右に振って全否定――

「まるで……あたしが、文芸誌を通して勇太に告っている……みたいなことを、し、新入部員に見透かされたみたいで……恥ずかしいから、それ以上は言わないでくれる」


 全部、自分でぶっちゃけたよね?


 正直に言っちゃってばって……それ認めているってことだよね?


 新子友花さん??




       *




 ふわわ~ん


「よっこいせっと……」



 ここは聖ジャンヌ・ブレアル教会。

 日中の教会は――天窓から聖人ジャンヌ・ダルクさまの像の後ろから、ステンドグラスが7色に輝く厳かな神秘性を見せてくれる。

 聖人ジャンヌ・ダルク学園を守護してくださっている神――聖人ジャンヌ・ダルクを祀ってあるこの教会。

「ああ……」

 長椅子の最前列のいつもの席に座りながら、十字を切り、両手を握り祈るのは――

「ああ、聖人ジャンヌ・ダルクさま……お久しぶりでございます」

 新子友花ではなくて……

「……大美和さくら。珍しいな。というより久しぶりだぞ」

 そう、大美和さくら先生である。

「ああ、聖人ジャンヌ・ダルクさまのお姿を、また見つめることができるなんて……私は幸せ者です」

 と言うと、先生は再び、胸の前で十字を切った。


「だから、我のことはジャンヌとでも呼んでくれんかな」


 いつものように、ジャンヌ・ダルクは自分の崇拝の対象である像の台座に腰掛けた。

 そして、これもいつものように両足を前後にぶらーんと動かすクセは相変わらずだ。

「で……、我に何か用か? まあ、我は神であるからして全てお見通しなんだけれど」

「……はい。仰る通りで」

「……まあ、大美和さくら。そこに座ってくれ」


「……はい」


 大美和さくら先生が、長椅子に着席する。

 ロングのスカートがしわにならないように、先生はスカートの裾を触って皴をひとつひとつ直していく。

 同じく、ロングのスカートを履いているのはジャンヌ・ダルクだ。だから、自分も皴にならないようにと直しながら、気をつけながら座るのだった。

「お前もスカートの皴を気にするうんじゅっさいになったんだな。我の享年を越えてしまった年齢になって……」

「そんな、私は、ジャンヌさまはいつまでも……19歳という若さを保ってくれることを有難く羨望していますから……」

 両手を左右に振って謙遜する大美和さくら先生。


「……そうか。まあ我はなりたくて19歳のままに神になったわけではないとぞ……付け加えさせてくれ」

 ジャンヌ・ダルクはそう言いながら、ブラブラとまた両足を前後に揺らした。

「あ……はい。ジャンヌさま……それは」


「大美和さくらよ。本当は嬉しかったんだろう。自分が創設したラノベ部に、こんなに部員が集まってくれて、自分が学生時代にイジメられていた頃と比べて、こんなにも集まってくれたことに感謝したい。――したいがための恥ずかしさの裏返しの結果、部員にキツく当たってしまったことをどうしたらと思って……」


「は……はい。すべてお見通しですね。そう、……そうなんです! ジャンヌさま!!」

 大美和さくら先生、胸の前で両手を合わせて……、両目からは涙を……、流している。


「大美和さくら先生……だから、落ち着こうぞ」

 その表情にジャンヌ・ダルクが、かなり引いてしまう。

 うんじゅっさいで……そこまで凹まなくてもという気持ちである。




「ああ聖人ジャンヌ・ダルクさま――あなたが私の母父、そして祖母だったら……。ああ、なんで、こんなことを今思い出すんだろう?」




 心を立たせろ――

 教師としての気概を忘れるではない――

 そして、教師としての志を忘れるな!!

 なんのために、ここまで先生をやってきたんだ?? そう思え――


 お前は教え子の言葉に、自分の『未熟』を見てしまっただけだろうが?




「ジャンヌさま……。私は教師として顧問として、ぶっちゃけやっちゃいけないことを言っちゃいけないことを言ってしまって……」

「だからな……。少し落ち着こうぞ……な」

 無理か?

 学生時代から彼女の性格は理解している。

「少しでも自分の思い通りに事がいかなくなると、お前はそうやってすぐに落ち込んできたな」


 ――RPGで例えるならば、炎耐性の武器防具を揃えたんだけれど、肝心のアクセサリで毒魔法無効化のそれを装備し忘れて、おまけに回復系の必須アイテムも取り損なってのボス戦に突入という場面だ。

 じりじり……と、このまんまじゃ例え熱魔法には耐えられても、持久戦になってしまったらヤバいって……。


 ……無理だって。ダメだって。勝てないって。


「ジャンヌさま……。私はどうラノベ部の部員に子供達に顔向けすればいいのでしょうか? 教えてください」

 涙を流すその先生の表情は……、水系の最大魔法である『タイダルウェイブ』の如くである。

「……はあ」

 台座の上でバタバタとしていた両足を止めるジャンヌ・ダルクは、

「なあ、大美和さくら……。顧問として先生として、正直に言ったことをどうして悔やむんだ? お前の人生は学園での日々は辛い出来事の繰り返しであったではないか? そして、教師としてこの学園でより良く学生達にいろんなことを教えることができたら……。学生時代にラノベ部を創設したその気持ちと同じく、今のお前にもその頃の精神がしっかりと宿っているんだと、我は思うから――」

 顧問として先生として……なんて、そんなに誇れる仕事なのか?

 うんじゅっさい生きてきた者が先導して、知恵を教えているだけの職業だろう。

 教えることが尊いというのであれば……、大美和さくらもまだまだ未熟だろう、なのではないかと我は言おうか?


「聖人ジャンヌ・ダルクさま……。神からの、ありがたいお言葉を……」

「だから、ジャンヌでかまわん……ぞ」


 大美和さくら――かつて聖ジャンヌ・ブレアル学園の生徒だった先生の涙粒で溜まった両目を、聖人ジャンヌ・ダルクさま。しょうがないな……というような気持になって優しく見つめた。

 先生はというと、氷魔法でカチンコチンに固まって攻撃ターンになってもできないくらいにフリーズ状態だ……。


 ジャンヌ・ダルク――


 はぁ~


 という具合に、肩でおもいきり嘆息をついてから、また両脚はブラブラといつものように前後に動かす。

 なんとも……、可愛い元生徒な大美和さくらを懐かしく、あの頃のイジメられていた彼女を見守ってきた思いが、こうして祈りを捧げてくれていることに感謝する気持ちが、我を動かしたのだから。

 嬉しい……と。



「先生になれたことを、もっと誇っていいと思うぞ」



 聖人ジャンヌ・ダルクさまは、正直に自分の気持ちを告げる――




       *




 ラノベ部を大切に育成してきたから、顧問として……。

 長い時間を掛けて、この部活動……、部活動というこの時間を私は大切に思い続けてきた。

 今は亡き祖母は私が先生になったことを、やっぱりいいようには本当は思っていないのだろう……か?

 確かめる術はもうない。それに今更、確かめたいとは思わない。


 私は聖ジャンヌ・ブレアル学園の生徒だったときイジメられていた。

 だから、私は先生を目指してイジメのない学園に、教育者の立場から変えていこうと思った。

 

 それだけじゃない……。

 新聞部のとき取材対象者の女子生徒にしつこく追い掛けて、連日の過熱記事を書きまくって、その女子生徒を転校に追いやってしまったことへの自責の念もある。


 だからだった。


 自分が書き記した文章で、人を追い込んでしまう“魔女狩り”のような報道の姿勢から身を引いたのだ。

 新しく、ライトノベルという若者向けの娯楽小説の部活動――ラノベ部を新設して、自分が書き残した文章で、人を楽しませたいと夢を持った。


 ――生徒達には、物語と出会うことでこれからの人生に創造性を加えて、ずっと有意義に自分の人生を自分の物語として生きてほしいと。

 部員達には、物語を創ること生み出すことの面白さ、楽しさと魅力を発見することで、ずっと……ちょい蠱惑的こわくてきにラノベを書き続けてほしいと。



 国語教師になることができて、顧問としてラノベ部に凱旋――

 私の目標のひとつだった。


 ……でも、なんだか自分本位な気持ちだけで私はここまで新設者として、先生として、顧問としてラノベ部を牽引してきたけれど、いつの間にか私はラノベ部を私物化していたのかもしれない。

 その結果、本来生徒のためにあるべきの部活動というのを見失ってしまったんだろう。


 懺悔しよう――


 聖人ジャンヌ・ダルクさまの教えを受けた大美和さくらは、今ここに。

 私欲で自分を見失ってしまい、先生という立場にもかかわらず教え子に一瞬でもキツく当たってしまった自分を愚か者として告白します。


 ああ聖人ジャンヌ・ダルクさま――


 私、大美和さくらはこんなにも……こんなに……、

 そう、こんなにも。


 ……こんなにも大勢のラノベ部員に恵まれたというのに、顧問として生徒のための部活動という本分を忘れてしまったことを……。

 お許しください。

 例え、聖人ジャンヌ・ダルクさまに許されようと、自分がしっかりしなくてはいけないのですが。

 今この瞬間だけは、どうか……

 どうか、


「そうですね。どうか……ですね」


「新子友花さん――」


 あなたは毎朝、聖ジャンヌ・ブレアル教会で祈り続けていますね。

 素晴らしいと思います。

「私も、新子友花さんのように……もっとねェ……」

 あなたの献身的な姿勢が本当の聖女さまのように見えて……、羨ましいかな?



「ん? 羨ましい……否だろう。大美和さくらと新子友花は我が見るところ、とても良く似ているぞ。羨ましいなんて思わず、もっと自分を大切にしようぞ。何故なら、新子友花はいつも元気だからな!!」



 聖人ジャンヌ・ダルクさまは、勿論、何も言わな……じゃなくて。

 迷える子羊を救う聖人の本分を私に見せる。


 ……教える?



 聖人ジャンヌ・ダルクさまは口角をグイと上げて、唇を引き締めて。それから優しくまぶたを緩めて、私を見つめてくれた。


「ああ聖人ジャンヌ・ダルクさま――」

 大美和さくらは、新子友花さんが必ず言うであろう言葉を唱えました。

 聖人ジャンヌ・ダルクさまが微笑んでくれたことに、心から感謝したくて――





第八章 終わり


恋愛編終わり。聖人聖女編に続く――

この物語は、ジャンヌ・ダルクのエピソードを参考にしたフィクションです。

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【恋愛編】んもー!! 新子友花はいつも元気なんだからさ……、あたしのことをお前って言うなーー!!! 橙ともん @daidaitomon

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