第55話 聖夜祭 こんなことなら、ブランケットを着てくるんだったな……

「さっきの話だけれどさ、ラブレターって夕美! あんた何勘違いしてるのかなー?」

 折角、話題が積雪の京都へと、そして豪雪地帯である飛騨高山へと大美和さくら先生が変えてくれたのに、無意識にある攻撃性と言えばいいのか……。

 自分が気にかけている話題には敏感に反応してしまい。

 それを、うやむやにはしたくなくって、すぐにでも否定した。

 否定しなきゃって思いが、新子友花にふつふつと蘇ってきたのだった……のかな?

 

 ぶっちゃけ、自分で話を戻したんじゃね……?


 あんた、文芸誌をささっとラノベ部員に忘れてほしいばっかりに――



「誰が読んでも、あれは文芸誌を借りた告白だよ。誰でもそう思うって友花ちゃん~」


「違うにゃい!」


 上下左右の首振り否定、ぶんぶんは続いているよ。

「あ……、あたしは文芸誌の売り上げに貢献するために、あたし努力したんだかんね!!」

 東雲夕美のいつもの迫り狂う乱舞の如きを……、新子友花はこれもまたいつものように、そそくさってな感じで吹き飛ばして――


 それに……つられてか?

「……ふふっ。先生もそれについては理解していますからね。新子友花さんの赤裸々ラノベでしたね。言うなれば『学園ラブコメまっしぐら!!』でしたね」

 ブランケットを腰まで手繰り上げるなり……大美和さくら先生は大胆な発言をした。


 しかも、まあ思い出しても……。

 リアル過ぎでしたからね――


「本当にリアルだったですね……」

 ボソッと大美和さくら先生はそういうなり、また口元を手で押さえて、顔を背けた。

「せ、先生まで……そんなこと言わないで……」

 その表情を新子友花――

 まさか、大美和さくら先生にまで言われるなんて……、ちょっと気が動転してきて。

「まあ、いいじゃありませんか? 先生は、凄く良かった内容であると認めますから……」

「……あ、ありがとうです」

 なんだか、少しだけ納得いかないけれど、頭を深く下げて感謝を示した新子友花だ。


「……まあ、赤裸々すぎじゃね……って?」

 ボソッと、先生は言わなくてもいい余計? な一言を――

 首を傾けて、新子友花に見せる。


「……ああ! 先生また笑ってる。んもー!! みんなであたしの書いたのを笑ってーー!!」

 新子友花がそう大声で言うと、



 はははっーー



 大美和さくら先生、忍海勇太、東雲夕美、新城・ジャンヌ・ダルク――が、同時に大声で笑いだしたのであった。



「……んもー!!」



 そんでもって。

 いつものように、怒った新子友花。

 なんだか、馬鹿にされているって?


 ……でもさ、なんだか、もういいや。


 どうしてか。多勢に無勢ってか?

 文化祭は終わったんだし、それに文芸誌もほとんど売れなかったことだし……。

 学園での、あたしの文章の影響はたかがしれてるから……だし。


 だしだし……だし。


「……どういたしまして」

 髪の毛を触りながら、新子友花は頬を赤らめて言う。

 なんていうか、開き直りの早い新子友花である。


 そういう性格であることが、君の良さなのだよ――




       *




「……どうも! みんな遅れました」

 コンコンとノックしてから、ガラガラっとドアを開けて。

 部室入ってきたのは神殿愛である。


「あら! 神殿愛さん」

 気が付いて、振り向いた大美和さくら先生。

「神殿愛さん。いつもいつも生徒会頑張っている様子ですね。ほんと素晴らしいですよ」


 と、ニッコリ……と。

 すでに新子友花の一件は忘れていて……。


「せ……、先生ってば、あははっ……照れますって」

 黒髪の毛をイジイジしながら、頬を赤らめて返答する神殿愛――

「生徒会って言っても、日々部活の予算の分配とか年中行事の打ち合わせとか……。まあ、お決まりお約束事がほとんどですから、私生徒会長と言っても席の座ってサインするくらいの仕事ですし――」

 神殿愛がぶつぶつと生徒会への不満を漏らしながら、自席に座った。

 席は忍海勇太の右側、新子友花の真向かい。


「そうそう! 座ったと思ったら神殿愛は立ち上がり両手を」


 バーン!!


「聞いてくれなはれ、おまえ様」

 両手をグーに組んでから、忍海勇太にスリスリと身体を寄せる痴女?

 ――撤回だ。これまた積極系の神殿愛!


「……ちょい、近いって。神殿」

 新城・ジャンヌ・ダルクが新子友花にスリスリと……して、今度は、神殿愛が自分にスリスリと、はたから見ればなんてモテている忍海勇太だ……。

 しかしながら、彼はというと。

「……胸が、その当たるから」

「あら、勇太様。私の胸が当たることくらい、私は不可抗力だと思って、覚悟していますよ。ずっと」

「なにが覚悟? 何を覚悟??」


 まるで、大昔のPCアドベンチャーのゲームのように、

 コマンドを選択してエンターキーを――


 押したら最後。

 元には戻れないって……セーブ機能も無かった時代だったね。


 話を戻します――

「嬉しいかな? とうとうね! 予算が降りたんですよ!! 学園のバリアフリー化の予算が先生!!」

 と、嬉しそうに言いながら、教壇へと立っている神殿愛だ。

 そんでもって、なんだか嬉しそうに兎のように飛び跳ねている。

「愛って、そんなに教壇で飛び跳ねちゃったら、その、すぐ前に座っている勇太に、スカートの中を見られちゃうぞ」


「……それもいいですよ。友花?」


「いいって……。あんた女子として……」

 額に汗を流しながら、同じ女子として……否、今は生徒会長だっけ?

 生徒会長たるもの、スカートの中を見せるくらいは、自分にとってのいい一票につながってくれるのだろう。


 いやいや……、聖ジャンヌ・ブレアル学園の生徒会長は一期だぞ。

 今更、部員に色目? 使ってなんとする。


「不可抗力で見えてしまったのですから……。むしろ積極的に見てくなはれ」

 まったく恥じることはなく――


「……あんた、それは生徒会長としても」

 思わず席を立つ新子友花に、

「まあ、確かに生徒会長としてスカートひらひらで、パンツ見え見えは……、いかがなもんですかって話ですよ」

 大美和さくら先生が着席しながら――

「だめですよ。女子としても……。そのマナーはですね」

 左目を閉じて、先生は目を見せる。


 すると――

「ごめん、あそばせ……大美和さくら先生」

 一心不乱に、はしゃいでいた自分に反省する。

「まあ、それはいいとして(いいんかい?)、それは素晴らしい 学園のバリアフリー化の話は神殿愛さんの公約でしたよね」

 一呼吸つけるためか、マグカップにお湯を注ぎながら、アップルティーのパックをささっと添えて、再び自分の席へと戻って座った。

「はい先生……、と言っても。まだバリアフリー用のエレベーターの新設ですけれとね」

 静かにすたすたと、着席した――

「いえいえ。素晴らしいじゃないですか!」

 大美和さくら先生は両手を合わせるなり、

「車椅子に乗っている人にしか分からない、苦労というものがあるのですよ」


「……あるんですか?」

 新子友花が尋ねる。

 それを、先生は一目して軽く頷いてから、

「ええ……。先生も介護実習や応急処置の実習を受けたことがあって、生徒の安全を守ることも先生としての義務ですからね。……その時に車椅子に乗ってね。ほんのちょっとの、……坂道とか段差だけで車椅子って動き辛いことを知りました」


「……そうなんですか」

 忍海勇太が興味あり気に聞き返してから、

「……車椅子って、楽な乗り物なんじゃ」

 と尋ねると、


「いいえ……。それは違いますよ。忍海勇太君」

「そ……そうなんですか? 俺、車椅子に乗ったことないから」


「……忍海勇太君。車椅子に乗っている人なんて、少ないですからね……」

 大美和さくら先生は、微笑んだ。

「冬場は身体が冷えるからブランケットを一枚膝掛けにしてとか。下り坂では後ろ向きに降りていくとか。いろんなことを学びましたっけ?」

 少し俯いて、思い出しながら言っている大美和さくら先生だ。


「そ、そうなのですか……先生」

「はい。これは、乗ったことのある人にしか……ま、先生も実習の時の先生に言われたことなのですけれど」

 そして、自分の両膝に掛けているブランケットの位置を正して――


「……そうですか」

「ええ、そうですよ」


 自席で俯く忍海勇太を、大美和さくら先生は労い。

「これは、経験した者じゃなくては分からないでしょうから。忍海勇太君は、そんなに思わなくていいのですから」

 向かいに座る彼に、

「……は、はい」

 忍海勇太は頭の中で色々と思考を巡らせながらも、深く頷いた。



 一方、神殿愛は、すこし俯いて――

「神殿……? どうかしましたか」

 それを新城・ジャンヌ・ダルクが伺う。

「……新庄さん」

 気が付いた神殿愛が、

 自分は問題と片手を振って、

「……その、なんていうかこれで―― あの人も、あの人の願いもようやく叶うんでしょうかなって」

「神殿? 願いって? あの人って??」

 新城が……

「おい、神殿……。あの人って」

 そこへ、忍海勇太が入っていてから、

「へへっ……。勇太様には、分からないでしょうね」

 神殿愛が照れながら、彼に微笑み返した。


「……て、誰なんだ。神殿?」


 勇太が再度聞き返しても――


「うん……。まあね」

 神殿愛が……しぶしぶに口を開いた。

「……私、神殿愛が生徒会選挙で演説していた時に、校門前で出会った上級声の女性ですわ。車椅子で登校してきて、その時に声を掛けて、応援してくれた先輩です」

「生徒会選挙の……か」

 忍海勇太が腕を組み――

「でも、生徒会選挙だったら……そういう気持ちも沸くわな」

「いいえ! 勇太様!! そんな邪な気持ちで私は……思っていなくて」


「はい……。神殿愛さん。それは、先生はしっかりと認識していますから、大丈夫と言いましょう」

 大美和さくら先生の教育的指導が入る。


「大美和さくら先生……」


 神殿愛は――

 自分に気持ちをちゃんと理解してくれた人が、先生であることを、あることが嬉しく思い。

 気を取り直し、彼女は襟首のリボンを正してから――

「生徒会長は……。たった一期しか任期がありませんから、できることには限りがあって。私は、その中で、演説の時に公約した用に……学園のバリアフリーを、なんとしてでも成し遂げようと思って……」


「ふーん。そうだったけ? まあ、神殿らしいな」

「まあ……、勇太様! それって慕ってくれているということです」


「おいって! 愛さん? どうしてそうなる……」

 これを言ったのは、当然のこと新子友花――

「やっぱし神殿は、いい人でーす」

 新城・ジャンヌ・ダルクも温かい眼差しを生徒会長に見せた。


「いい人って、私はただ……」

 頭を触る神殿愛だ――


「私は生徒会長として、公約にも掲げたバリアフリーを実現したかったから……」

「いいじゃね……?」

「友花さん……」

 新子友花が、腰まで下げている髪の毛を触りながら、

「だって、公約が自分以外の身体が不自由になってしまった生徒のために……て、だからこそさ! 生徒会長に選ばれたんだとあたしは思ってる」


「ほんと……に」


「……だからさ、あたしも、あんたに一票入れたんだからね。当然よ」

 さりげなく、自分が選んだあんたはいい人ですよ……アピール。

 だったけれど、


「……ありがとうね。友花」

 神殿愛は、本当に心の底から嬉しかったのだ。

 生徒会長としての公約を、彼女は何よりも心に決めていたのだから。

 新子友花のさりげない……ある意味の揶揄を、

 それでも、神殿愛は素直に受け止めた。


 ――そういう冗談ではないんだよ。という彼女の真剣さが伺えた場面だ。


「これもさ! 学園を愛しているジュテームの……、神殿の一途な気持ちからですよね♡」

 ――新城って、恋大き乙女だわ。

「ねえ? 新子――」

「あはは、この新子……。お褒めに感謝ですかな」

 長い金髪の髪の毛をクルリと……


「褒めてないって……新子」

 新城・ジャンヌ・ダルクの、さっぱりとしたツッコミが入って。


「まあ! 新子友花さんも、新城・ジャンヌ・ダルクさんも……。それくらいに、ここは生徒会長の神殿さんを応援しましょうね。同じラノベ部員の仲としてもですよ」

 マグカップを手に持ち、大美和さくら先生が一口付けると――

「……はい。大美和さくら先生」

 新子友花が、しょげりして……から、

「そ~ですよ。新子!! いけませんって」

 新城・ジャンヌ・ダルク――


「あんたって! なんなのわないさ!!」

 いつものように、ラノベ部員新子友花は……、日本語の語尾を……


「はにゃ? 何のことで~す??」

「……ああ、もういいって。…………ああ、雪が積もってきてますどえ~」

 あんたは京都人なのか?

 どーかは不明だけれど……いや、そうなのだけれど。

 あからさまに、京都弁を言い放って話をそっぽ向かせる新子友花だ。


「……よく降りますどえ~」

 新子友花が、窓の外を見てそう言って、




       *




 ――雪に轍が残っている。

 その視線を上げると、


「……うんしょって」


 神殿に声をかけた先輩――猪狩さんである。

 せっせと、車椅子の両輪に手を掛けてから、


「……雪の日も大変なんだな。それに両膝も冷たくなるし」


 轍もすぐに消えていく、この雪の中を、必死に両手で車輪を回して帰路を、学園の校門を目指していた。


 それでも、しんしんと降り積もってくる雪を――

「……はあ。積雪の日は辛いんだよ」

 嘆息ついてから、見上げた猪狩さん。


「――でも、珍しいね。しんしんと……、長く積もるなんてね。……こんなことなら、ブランケットを着てくるんだったな……」


 猪狩さんは両膝を擦りながら、聖ジャンヌ・ブレアル学園の校則で女子のスカート丈は膝上7cmであることを、少し恨んだ。



 負けるな!





 続く


 この物語は、ジャンヌ・ダルクのエピソードを参考にしたフィクションです。

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