第15話 情報整理1

 教室に戻ると、机の上に足を乗せて、椅子の背もたれに寄りかかる高科の姿が見えた。

 スカートの中が丸見えになっていても気にしないスタイル。


 本人は、


「あたしのパンツなんか見てなにが楽しいんだか。

 欲情するなら周りにごろごろと美少女がいるだろ」


 と自覚していない。


 そんな高科のパンツを堂々と見ようとする男子もいないわけだが。


 こうも堂々とスカートの中が全開だと、

 見ている側が晒し者になるという気がしてくるからな……、迂闊に視線も向けられない。


「購買でパンを買ったのか?」


 机の上にはゴミになった袋が丸めてあった。


「あんたに振られて一人で寂しく購買のパンを食べてたよ」


「一人にして悪かったって……茜川に誘われて断り切れなかったんだよ」


 少しの時間かと思ったら、意外と長く拘束されてしまった。

 元々、高科と昼食を取るつもりだったので、俺が一方的に約束を破ってしまったことになる。


「別に気にしてない。それに、約束してたわけじゃないしな。

 毎日一緒に食べるのがなんとなくお決まりになっているだけで、

 用事があればそっちを優先していいってのは分かってるし。

 あたしはあんたを拘束したいわけじゃないのよ」


 スマホをいじりながら早口なのは、言葉とは裏腹に心の底では納得していない証拠だ。


 言葉でいくら自分に言い聞かせていようとも、親友の俺に見抜けないとでも思ったか。


「帰りにゲーセン、いこうぜ」

「……五番勝負」


「いつものあれか。じゃあ負けた方が夕飯を奢るってのでどうだ?」

「乗った。ニンニクマシマシのラーメントッピング全乗せな」


「もう勝った気でいるよ……っ」


 にひ、と高科の口角が上がった。

 回したガチャから、レアなアイテムが出たらしかった。


「――だって林田、あたしに負け越してばっかじゃん」




(推理パート)


 少女Aはアイドルだった。


 その情報が分かれば、彼女を取り巻く環境の全貌が見えやすくなってくる。



 たとえば友人の男子。

 彼が彼女をストーキングしたのは、アイドルにスカウトされるほどの容姿を持つ少女Aに、

 友人以上の関係を求めたからだ。アイドルになる以前から生粋のファンであったと言える。


 たとえば少女Aの妹。

 売れていないとは言え、それでもアイドルである。

 世間は意外と狭く、噂なんてものは簡単に広がっていく。


 彼女が自分から言ったのか誰かが広めたのか知らないが、

 姉がアイドルであるという事実は妹にとって、

 自分は仲介役でしかないことを意識させることになった。


 それが原因で、良好だった姉妹仲が不仲になってしまった。



 たとえば少女Aの父親と母親。

 娘がアイドルとして活動することを反対するのは、珍しいことでもない。

 子供は憧れるが、大人は堅実な進路を選んでくれることを子供に期待する。

 アイドルで成功するのは、ほんの一握り。

 その道に進んでいなくともそれくらいは分かる。


 厳しい世界だというのは嫌というほどテレビやネットで拡散されているのだから。

 楽に金を稼げるなんて認識はトップランナーの表の姿しか見ていないから出る発想だ。


 たとえば学外の男……少女Aのマネージャー。

 少女Aをアイドルの道に引き込んだ張本人であり、

 学校以外の場所で常に一緒にいる、親のような存在だ。


 少女Aは嫌でも彼を頼りにしなければ、アイドルの仕事を一つもできなくなってしまう。

 名乗るだけなら誰でもアイドルになれる。

 そこから人気を得てトップに立つには、仕事を取ってきてもらわなければならず、

 マネージャーがいなければ始まらない。


 スカウトを受けたということは少女Aに、

 アイドルになりたい気持ちがあったということだ。

 口車に乗せられて頷いた場合もあるかもしれないし、

 小さい頃から密かに憧れていた職業への夢を思い出したのかもしれない……、

 そのあたりの情報を握っていそうなのは、親友の女子だろうか……。


 彼女の兄や教師が、少女Aについてよく知っているとも思えないし……。


 アイドルになった少女Aにマイナスイメージを持つ設定の役柄が多いな……、

 距離が近いほど、応援もしたいが、

 反面、将来性の不安から止めたい気持ちがあるのも分かる。


「林田先輩、少女Aが両親と不仲なのは成績不振が原因であって、

 アイドルの道に進むことを反対しているとは限らないっスよ?」


「あ、そうか。アイドルを目指したから成績不振になった――、

 だからアイドルに反対してるってわけでもないもんな。

 両立させていれば賛成かもしれないし……そうなのか?」


 立花は少女Aの父親役だ。



「いや、関係なく全面的に反対っスね」

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