雪代真菜子という人間

第40話 雪代と照魔の関係性

「山根美玲さんと知り合いなんですね」


春香ちゃんは苦笑しながら俺を見る。

家庭教師として春香ちゃんの家に訪問してから。

春香ちゃんの可愛いぬいぐるみのある様な部屋に呼び出されてからそう言われた。

俺はかなり驚愕しながら春香ちゃんを見つめる。

春香ちゃんが何故その事を知っているのだ?


そんな春香ちゃんは、山根さんは朗読会で良く一緒になるんです。優しくて私とよく話してくれます、と少しだけ複雑な感じで笑みを浮かべて答える。

でも何だかある日.....突然に山根さんは髪の毛を染めてから不良の様になりました、と続け様に唇を噛んで回答する。


俺はその言葉に目の前のピンク色の壁を見つめる。

何というか山根ってそんな心優しい行動をしていたんだな.....。

それならやっぱり悪い奴では無いんだな、と思う。

だけどアイツ。

つまり千佳の親父さんに出会ってから全てが変わったんだろうな。


千佳の親父さんにかなりマインドコントロールされていたんだと思う。

春香ちゃんは俺を見ながら少しだけ涙を浮かべる。

俺は静かにそれを複雑に見る。

そして涙声を聞く。


「山根さんが最近怖いって言ってました。何だか最近、不良になったりした事を。.....とても悔しいです。詳しくは知らないですが何が起きているんだろうって思います。私が.....解決出来ないんでしょうけど。子供ですから」


「.....話せないけど大人の事情だね。確かに。春香ちゃん。君は頭が良いから話すけど今は落ち着いている。だから.....」


「悲しそうでした。悔しそうでした。怒っていました。ぐちゃぐちゃでした。何故なのでしょうか.....本当に.....嫌です。こんなの」


「.....だな。.....確かにな」


「本当に子供だから全く何の役に立ちませんが.....山根さんにはお世話になったので何とかしてあげたいんです。この気持ちが少しだけでも山根さんに伝わってほしい感じです。本当に.....嫌だ」


「.....優しいんだな。君は」


するとそんな言葉に春香ちゃんは鉛筆を置いた。

それから俺の柔和な笑みに問題を解くのを止めてから震える春香ちゃん。

お兄ちゃんなら信頼出来ます、と言葉を発する。

そして数秒してから俺を見上げながら言葉をまた発した。


「アハハ。優しいんじゃ無いです。これは優しいとは言いません。それに私、自分自身が腹黒いって思っています。当たり前の事をしているだけです。でもその中でも山根さんは私を心から支えてくれました。だから是非ともに救ってあげたいんです。.....でも何も出来ない。だからお兄ちゃんに託したいです。全てを」


「.....俺な。実は山根と昔からの知り合いなんだ。だからそれなりに救うつもりだよ。今からならやり直せると思ってる」


「.....大変ですね。でも.....応援しています」


「.....今も家で女子トークしてるよ。みんなで。だから今は.....落ち着いているんじゃ無いかな」


「.....安心です。お兄ちゃんと一緒なら」


じゃあ問題解きますね、と安心した様に笑顔を見せる春香ちゃん。

俺はその春香ちゃんの様子に、ああ、とゆっくり頷く。

さてどうしたものか、と思う。


どうすれば.....アイツは。

あの男がどうかなって、そして。

山根が回復するのか.....。

考える必要がある。

立ち直る時間が要るな.....。


と考えるが。

今は余計な事を考えている暇は無い。

だから俺は.....与えられた事をしなければいけない。

思いつつ俺は.....真剣な眼差しで持てる力を持ってして.....春香ちゃんに教えた。

勉強の全てを、だ。



山根と千佳は良い子だ、と思う。

心の底から、だ。

俺は.....思いつつ春香ちゃんの母親を見る。

美鈴さん、である。

そんな美鈴さんは笑みを浮かべていた。


「.....良い先生だと聞きました。.....やっぱり信頼出来ますね。春香が信頼しているだけ有ります。腕も良さそうです」


「.....俺はそんなに良い先生では無いです。.....まだまだ未熟な面も有ります。でも雪さんと同様に.....必ず成績を上げます。必ずです」


「有難うございます。期待してます。先生」


「また今度。お兄ちゃん」


美鈴さんは頭を深く下げながら俺を見送る。

笑顔を見せていた春香ちゃんもそれなりに頭を下げる。

その様子に俺は手を挙げてからそのまま俺は2人に頭を下げた。


そう言えば.....今日は例の件を聞く暇が無かったな。

しかし.....よく考えてみても失礼だよな。

そんな事を考えながら顎に手を添えていると春香ちゃんが俺の元に来てから囁き声の様な小さな声で言った。


「お兄ちゃん。.....例の件。宜しくね」


「.....!.....ああ。任せてくれ」


「.....うん。信頼してる。お兄ちゃん」


じゃあまた今度ね。

とニコニコしながら俺に手を振る。

そして俺は玄関を開ける。

すると.....目の前の門の近く。

そこに照魔くんが居た。


「.....照魔くん?どうしたんだ?」


「いや。雪さんの事を聞きに来たんです。春香に。そしたら.....お兄さんが出て来たんです。春香の家から」


「照魔!アンタ本当にしつこい!」


うーん。

これは困ったな.....。

俺が仲裁に入らないといけないよな?

思いつつ俺は赤面している春香ちゃんと?を浮かべている照魔くんを見る。

そうしていると美鈴さんが、ほらほら。春香。困っているわ。先生が、仲裁に入ってくれた。


「あ。お兄ちゃん.....御免なさい」


「.....ま、まあ喧嘩も程々にね」


「お兄さん?春香にも家庭教師を始めたんですか?」


「そうだね。春香ちゃんに」


「.....春香って成績悪いんだね」


はあぁ!?あ。アンタに言われる筋合い無いし!、と文句を垂れる春香ちゃん。

すると照魔くんはニヤニヤしながら続ける。

春香ってお兄さんが好きなんだね、と。

すると春香は、そんな訳無いでしょ!アンタ以外!、と答え.....あれ?


「.....」


「.....え?」


「.....あちゃー.....」


うっかり口が滑った。

そんな感じで春香は口を塞いだ。

それから真っ赤になっていく。


そして、バカァ!、と大声を上げてドアを閉めた。

後に残された俺と照魔くんは.....顔を見合わせてから。

目をパチクリした。


「.....これってどういう事ですか?」


「それを巻き添えを喰らっている俺に聞く?困るよ?」


「うーん.....」


すると考えていた照魔くんが、取り敢えず置いておいて、と言葉を発した。

それから俺を真剣な顔で見てくる。

でも丁度良かったです。お兄さんにお話がしたいんですけど少しだけ時間有りますか、とも話した。


それは短時間で終わる話だろうか.....時間が余り無いから。

仕事も有るし、と思いつつ回答する。

まあ少しだけなら、と。

すると照魔くんは頭を下げてからお礼を言う。

そして話し出した。


「.....僕の腹違いの姉のお話です。.....真菜子の。お兄さん、どうも知り合いの様ですから」


「.....ああ。なるほ.....え?」


「.....え?知らなかったですか?.....腹違いの姉です。真菜子は」


「.....ぇえ!!!?!初耳だぞ!!!!!」


今まで話そうと思わなかったので。です、と照魔くんは回答する。

俺は愕然として雪代先輩が腹違いの姉だと言う照魔くんを見る。

だけど照魔くんは嬉しそうというか全く表情を変えない。


それから、姉は勝手に出て行ったんです、と答える。

家族が嫌いだ、と。

え?


「.....おい。ちょっと待て。雪代先輩に限ってそれは無いだろ。お前も知っている筈だ。だから幾ら何でも言い過ぎ.....」


「.....事実です。全部。.....自分の父親も母も真菜子は嫌っています。何で僕にも冷たいのか。全く分からないですけど。それで家を出て行きました。勝手に」


「.....」


その言葉で俺は考えが浮かぶ。

泉の様に考えが出てくる。

まさか雪代先輩って.....わざと家を飛び出したのか?、と。

その様に頭を過ったのだ。


だって有り得ないだろ。

雪代先輩はかなり優しいのに、だ。

つまりこういう事だ。


雪代先輩は.....きっと家族を守る為に捨てたのだ。家族を。

今の事でかは知らないが。

そして人生も何もかもを、だ。

それで今の彼女が居るのだろう。


あまりの衝撃に愕然とした。

照魔くんの言葉に、だ。


「.....名前も雪代に変えて。.....何がしたいんでしょうね。あの人。無礼というか」


「.....照魔くん.....」


こんな事って.....有り得るのか。

可哀想とかそんなレベルじゃ無い。

何時も笑顔なのに.....。


家族にも真実を伝えてないのか.....あの人。

思いつつ.....謎が解ける気がした。

それと同時に.....雪代先輩の顔を浮かべて涙が浮かんだ。


「.....!?.....お、お兄さん!?」


俺は白い袖で涙を全て拭う。

すまない。悲しい事を思い出した、と弁解する。

あの人の事だ。


真実は絶対に話してはならないと。

そう言うだろう。

だから俺は照魔くんに、すまない。それで用件は?、と聞く。

全てを隠す様に、だ。


「あ、えっとですね。用件ですけど.....。姉の事です。何というか元気そうですか?」


「.....ああ。そうだな」


「.....なら良かったです。.....仮にも家族ですからね。家を出たとしても、です」


「.....お前.....」


悲しげな顔を隠すので精一杯だった。

引き留めてすいませんでした、と頭を下げる照魔くん。

それから照魔くんは柔和な笑みを浮かべた。

そして春香ちゃんの家のインターフォンを押す。

俺はその姿に.....何も言えず。


そのままその場を、失礼するね、と去った。

そして通勤車の中でスマホを開いて雪代先輩のアドレスを見てから何か打とうとしたが.....そのまま俺はスマホをゆっくり閉じる。

何も.....言えない感じだ。

あの人は.....どれだけの傷を背負っているのかも分からない.....。

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