第39話 気持ちを切り替えて
千佳の親父さん。
速水勇という名前らしいが。
ここまで厄介だとは思わなかった。
まさか千佳の大学まで.....計算済みとは.....気持ちが悪いし不愉快だ。
考えながら俺は.....千佳と共に家に居た。
大学の授業が終わってから千佳と俺は家に帰って来てからそのまま千佳がソファで横から寄り添って来る。
俺は今日は.....家庭教師の仕事がある。
どうしたものかな.....。
思いつつ俺は.....震える千佳を見る。
怒りで震えているのかそれとも怖くて震えているのか。
それは定かでは無いが。
考えながら学校で居ない夜空、仕事で居ない2人の家で俺達は寄り添いながらテレビを観る。
ニュースがあっているが話が入ってこない.....。
これは本当に困ったな.....。
「大学が好き。私は」
「.....そうだな。俺も好きだ。だって健介が居る。雪代先輩が居る。長谷川先輩も居る。.....だから好きだな。.....だけど.....な」
「だよね.....悲しいな.....私.....」
「.....」
正直.....全てが計算済みとは本当に恐れ入ったとしか言いようがない。
頭がパチスロにしか向いてないと。
その様に思っていたから、だ。
甘すぎるという事だ。
これからは本気で挑まなければ.....立ち向かわなければ。
全てを失うという事だろう。
そしてこの場所もいつかは.....バレるという事だ。
ここまでするという事は、だ。
「.....私はどうしたら良いの。存在しちゃ駄目なのかな。他の人に迷惑ばかり掛けている気がする。死んだ方がマシかもね」
「千佳.....そんな事言うな。俺はお前が大切だから。周りもきっと大切と思っているから」
「.....」
すると突然の事だった。
インターフォンが鳴り響く。
俺達はビクッとしながら俺が立ち上がってインターフォンを見た。
そこには山根が立っている。
俺はビックリしながらそのまま玄関を開ける。
そこに.....山根が有名なお菓子袋を持って立っていた。
頭を思いっきり下げながら、である。
2つ編みで丸眼鏡を掛けている。
俺は目を丸くした。
「.....どうしたんだ?山根」
「.....ごめんね。突然来て。.....言いたい事があった。そして反省したいという事を言いに来たの」
「.....反省?」
「.....そう。.....私ね。.....あの男に操られていた感じだった気がする。最初は協力してくれるって感じだったけど.....何だか自分の欲望を満たす為だけに動き出して.....」
それで無茶苦茶で抗えなかった。
と涙を流して唇を噛んだ山根。
俺はその姿に少しだけ眉を顰める。
すると千佳も顔を見せた。
そして山根はその姿に紙袋を渡してくる。
「.....これ良かったら食べて。毒とか入ってないから。.....有名どころのお菓子なの」
「.....別にこんな配慮しなくても良いのに」
「.....駄目。許せない気持ちがあるから」
雨が降り出してきた。
俺はその雫を掌で受け止めながら。
傘を差さずにボーッとしている山根に笑みを浮かべる。
それから、家に入らないか、と言う。
驚愕する山根。
「.....でも迷惑じゃ.....」
「.....丁度良いんだ。お前が。話し相手になってくれ。.....千佳の。俺はちょっとこの後用事があってな」
「.....相変わらずだね。イス」
「.....お前?」
「昔は君が好きでイスって呼んでたよ。私はね。.....でもね。今は決意したの。だからその意味を込めたの」
え?、と俺は目を丸くする。
それから千佳に向く山根。
そして、速水はやっぱりイスが好き?、と聞く。
その言葉に赤面してオドオドしながらもゆっくりと頷く千佳。
俺はその姿を見て山根を改めて見る。
すると山根は悲しげな顔になったが直ぐに真剣な表情で顔を上げた。
「じゃあ分かった。やっぱり私は諦める。.....そしてあの男の情報をあげる」
「え?山根.....どういう事だ」
「.....正直言って。あの男は危険だと思う。.....だから私もイス達と同じ様にどうにかしたい。だけど仲間が居ないから私は仲間になりたいんだ」
「.....そういう事か.....」
はっきり目が覚めた気がするの。
みんなのお陰でね、と笑みを浮かべる山根。
束縛から解放されたって感じの顔だ。
俺はそんな山根の姿を見ながら千佳を見る。
千佳は涙を浮かべていた。
「.....宜しくね。山根さん」
「.....そうだね。速水さん」
「.....」
俺は少しだけ柔和になる。
事件から解決まで時間は掛かった。
だけどそれなりに.....何とか出来そうで良かった気がする。
思いつつ俺は.....山根を家に招いた。
それからソファに腰掛ける。
山根にお茶を淹れよう、と思いながら、だ。
「山根。リラックスしてな」
「.....そうだね」
「.....何か大学の話をしようか。山根さん」
「.....だね。確かに。レポートとかの話とか」
楽しそうな感じで.....話す。
そうだね、と2人は笑顔になる。
俺はその姿を見ながら.....家庭教師の準備をする。
複雑だな、と思える感じだ。
だけど山根が居るから多分大丈夫だ。
「.....もう直ぐ出勤だから.....行ってくる。一応、夜空とかにも言っているから」
「うん。.....本当に気を付けてね」
「.....私が見ているから大丈夫だと思う」
「.....そうか。山根。すまないけど頼む。俺の義妹が帰って来るのもあるし大丈夫だと思うから」
そして俺は多少の不安の中。
出勤をした。
それから学習塾のホルスに向かう。
そうしてからドアを開けると。
そこには大谷さんが穏やかに居た。
「.....どうしたんですか?大谷さん」
「.....いや。イスカ君。君は本当によく頑張ってくれているね。給料を上げたいんだ。それからこれは提案なんだが.....」
「.....マジですか?.....それから何ですか?」
「.....君、ずっとアルバイトだよね。.....正社員にしたいんだが君を。君の勤勉さには本当に感服したよ私は」
「.....え。.....それって本当ですか?」
君は本当によく頑張っている。
だから正社員にしても良いぐらいだと思っていた。
丁度この機会だ。
どうやら学生でも正社員は可能らしい。
私も初めてで色々やらないといけないけどね。
と大谷さんは笑みを浮かべる。
「.....恐れ入ります。そんなに認めてもらえると嬉しい限りです」
「.....さて。それはさておいて。実はね。君に頼みがある」
「何でしょう?」
「早速正社員になる君に小学生の家庭教師をやってもらいたい」
「.....は?」
いやいやまた。
冗談だろ、と青ざめて考えていると。
名前は山岸春香さん、と答えた。
小学6年生の女児である、と答える。
え?春香.....まさか?
「そうそう。丁度、噂によると草薙雪さんの親戚という話だけどね」
「.....あー。成程です。.....それだったら.....受けます」
「お?そうなのか?受けてくれるのかい?有難う。じゃあ早速だけど.....」
大谷さんは書類を取り出して俺にゆっくりと笑みを浮かべた。
何だかまさかの事態にまた俺は波乱万丈になりそうな気がする。
だけどまあ.....こういう人生も良いよな。
それにこれは良い機会かもしれない。
もしかしたら.....恋の行方を知る事が出来るかもしれない、と思いつつ。
俺は少しだけ苦笑した。
だけどこれは気持ちを切り替える事が出来そうな気がする。
丁度良かったのではないだろうか、と思う。
「まあ言っているけど手を出さない様にね」
「しませんって」
「まあ君だから有り得無いけどね。アハハ」
大谷さんは相変わらずのジョークを交える。
すると大谷さんは更にこう言った。
それに君は顔が変わったね、と、だ。
俺は目を丸くした。
変わったのだろうか、俺は。
考えながら取り敢えずの苦笑いを浮かべた。
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