第38話 千佳の父親が大学のOBとして扱われなくなった理由

何があって山根はこんな事をしているのかすら分からない。

だけど1つだけ言える事がある。

それは俺は千佳と別れる気は無いという点、それだ。


つまりどれだけ山根が迫って来ても俺は山根に誘惑されないという事だ。

俺はその気持ちを持って一対一で廊下で山根に接していた。

山根はニコッとしている。


「.....という事で俺はお前と付き合う気は無い。嫌がらせも止めてくれ」


「嫌。.....私と付き合うまで止めないから」


「何でそうも俺に拘るんだ」


「.....君だからだよ。私は」


「.....君だから?」


私は君の卒業した学校で.....保健室に定森先生の保健室に居た生徒だから、とゆっくり答えた山根。

確かに丸眼鏡の地味な毎回体調が悪そうな生徒は居たな。


保健室だしそれは常連も居るだろう.....けど。

俺はかなり見開いた。

嘘だろあれが!?、と思いながら山根を見る。

そして山根は丸眼鏡を取り出した。

今は掛けてないのかそれはレンズも傷だらけだ。


「私は君が付き合うのがどうしても許せない。速水と。.....だから私は.....妨害した。私は体力を付けた。おしゃれもした。.....見てほしかった。だけど君は速水以外、気が付かなかった」


「.....それは.....」


すると陰から健介が現れた。

そして、山根、と声を掛ける。

山根と俺は目を丸くする。

え?コイツ、ラグビーはどうしたのだ!?

思いつつ俺は健介を見る。


「話を陰から聞いた。.....山根。それはお前が悪い。イスカのせいでは無い」


「は、はあ!?何を根拠に.....」


「正直言って速水も初めからイスカに気が付かれていた訳じゃ無い。きっかけがあったのだ。速水も一生懸命だった。だけど山根。お前の場合はそれを無碍にしてしまった。それが速水とお前の違いだ。こんな無茶苦茶な方法でしてしまったからな。.....お前が悪いと判断する」


「.....でも声を掛けてこなかったのは.....イスカだから!」


「じゃあ気付いているのならもっと早く声を掛ければ良かったんじゃないか。それに声を掛けると言ってもイスカは分からなかったんだお前の事を。じゃあ声の掛けようがないでは無いか。眼中になかった訳では無いだろうイスカが。全面的にお前が悪い訳では無いが.....それでもお前も悪い。それに相手からこの様に奪おうとするのは卑怯だと思う」


健介はその様に言いながらスポーツ着のまま俺と山根を見る。

するとみんなが出て来た。

それは.....雪代先輩とかそれ以外のみんなと。

そして千佳だ。


「健介。お前.....呼んできたな?」


「.....この問題はみんなと解決するのが一番かと思ってな」


すると雪代先輩は顔を上げた。

それから山根を見る。

その顔は柔和に、である。

俺は?を浮かべた。


「.....相談に乗るよ。私で良かったら。山根さん」


「俺もな。2年として」


「.....僕は論外だけどまあそれなりに」


「.....そして私も」


山根は、何でそんなに優しいの。アンタら、と言う。

これだけ酷い事をしてきたのに、とも、だ。

戸惑っている。

俺は溜息を吐きながら山根を見る。

取り合えず相談してみたらどうだ、と俺は山根に向く。


「.....相談しても解決しないでしょ」


「俺達は確かに付き合っているけどそれを誇るつもりも無い。山根。俺はお前を蹴落とすような真似はしない」


「.....」


「.....何でこんな事をするのか。そして何故こんな事をし始めたのか話してくれないか」


「.....私.....は」


戸惑いながら言い淀む山根。

するといきなりボッと何かが噴き出した。

黒い嫌悪の様なオーラが.....湧く。

山根の背後から、だ。

そしてまるで存在が幽霊の様な.....男。


そしてぬらりと俺達の前に姿を見せた。

俺は愕然とする。

何でこの大学の構内に入れたんだコイツ!

その男は.....千佳の親父だった。

まさかだ。


「.....久々だね。千佳。そして.....イスカ君。それから雪代さん」


「.....いや。ちょっと待て。何でこの場所に居るんだ。.....親父さん」


俺は冷や汗が出る。

そしてかなり嫌気が噴き出す。

嫌悪というかもうどうしようもない気持ちだ。

悪魔だコイツは、と思いつつ、だ。

すると雪代先輩が眉を顰めながらとんでもない事を話した。


「.....元OBじゃないですか。.....何やっているですかこんな場所で。.....勇さん」


「.....この場所に来たのもOBの仕事だからね。アハハ」


「.....嘘吐かないで下さい。仕事?山根さんを利用したんですね。貴方は4年前にOBとして言うなと咎められた筈。この大学に居られる筈が基本的には無い筈です」


「警備員とは悪友でそこそこに知り合いだからね。だから入れたのもあってね」


「.....」


警備員が役に立たないのは分かった。

しかしこの大学のOBってマジかよ。

それでこの場所に居るのか.....?

まさかこの大学を卒業したのか?

じゃあまさか、と思っていると勇という男は怯える千佳にニコッとした。


「そうだね。この大学に千佳が入学するのも大体計算済みだね」


「.....最低どころじゃないっすよそれ。ストーカーで気持ち悪い.....」


「まあ私はそもそも千佳がこの大学に入るとは思わなかったけどね。当初は」


「.....勇さん。貴方とはかなり因縁があります。だから今直ぐにこの大学構内から出て行って下さい」


雪代先輩は千佳を守りながら警戒する。

すると勇は山根の肩を掴んだ。

それから、まあ去って行くのは良いけど.....千佳。

と勇は話し掛けてくる。

俺は手を広げて守る。


「.....君の事は何時までも追うつもりだからね。.....君はその男とは幸せになれないから.....まあこれまでもこれからもそれなりに宜しく」


「.....まあ勇さん。その場合は容赦無く私も貴方を落としますんで。あくまで私のサークルのメンバーに手を掛ける様なら容赦はしません」


「.....そんな事を言っている場合かい君は。いい加減に卒業したらどうかい。.....雪代さん」


「.....そんな事も言いますよね。貴方のお陰で留年したとも言えるんですから.....まあそれは良いです」


雪代先輩は手を繋ぐ。

出て行って下さい。と言うか消えて下さい。

と雪代は山根と千佳の手を握って踵を返した。

それから、行くよみんな、と俺達を見る。


俺は.....雪代先輩に疑問を抱きながら。

そのまま去って行く。

後ろに勇が立ったまま、だったが。

無言でニコニコしていた。

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