第34話 夜空の意外な才能

俺と千佳が付き合う様になりそして千佳の親父さんとのいざこざの理由で俺達は一緒に住む事になった。

この先は分からない。

どんな大きい錠が掛けられている重苦しい扉が有るか分からない。

絶望しか無いかもしれない。


だけど俺はどんな絶望が待っているとしても超えなくてはいけないと思っている。

考えながら俺は.....リビングでテストを作っていた。

これは雪さんのテストなのだが。

横で千佳も手伝ってくれる。

見直してくれていた。


「すまないな。千佳。雑用を押し付けて」


「ここまでしてもらっているのに。だから雑用もしないとね。じゃ無いと気が済まないよ」


「.....そうか」


雪さんのテストを作成して見ながら俺は伸びをする。

すると背後から、お兄ちゃん。千佳さん、と声がした。

見るとお茶を淹れた夜空が立っている。

それから俺達に渡してきた。


「順調かな」


「.....そうだな。そこそこにはな」


「そうなんだね。それも定森先生の力かな」


「む。それは聞き捨てなりませんな?いー君」


「いやいや。もう定森先生には.....さよならをしたから」


ニヤニヤとしている夜空に。

そしてムッとしている千佳に苦笑する俺。

俺の初恋は残念ながら実らなかった。


だけどその代わりに手に入れたものがある。

それは.....絆だ。

俺は考えながら.....笑みをフッと浮かべる。

そしてテストを作っていく。


「雪さんはここが苦手なんだね」


「そうだな。こことか」


「雪は昔から苦手だもん。そこは」


そんな会話が出来るのも定森先生のお陰なのかもな、と思う。

定森先生が居なかったらこの生活は成り立たなかっただろう、と思える。

だからこそ俺は気持ちを込めて切り替えないといけない。

千佳を大切に守っていかなければならない。

思いつつテストを作っていく。


「ここ誤字が有るよ。いー君」


「ああ。すまん。書き直す」


「もー。紙が勿体無いから確認してね。キチンと」


「あ、は、はい」


そんな感じで作業は進んでいく。

そういえば、と思う。

何か知らないけど漫研創設とか言って無かったか。

思いつつ背後の夜空を見る。


「夜空。そういえば漫研の件はどうなったんだ?」


「今も創設中ですよ?お兄ちゃん」


「あ。諦めてなかったんだな」


「諦めるって何を?諦めるなんて言って無いよ?アハハ。今からはお兄ちゃんをビシバシするよ?」


「.....」


怖いんですけど。

思いつつ俺は苦笑いを浮かべる。

でも創設中って事は何か?

準備でもしているのか?

思いつつお茶を飲む。


「漫画を増やそうと思って」


「おー。成程な。.....でもそのお金はどうするんだ?」


「小説書く」


「.....え?お前、小説って.....無理だろ。受賞もしてないのに」


「.....いや?無理じゃ無いよ?それに私、カクヨムで月10万円稼いだからね」


聞いて俺は千佳と顔を見合わせる。

今何つった。

何かその。

目玉が飛び出しそうになる。


じゅ、10万ってどういう事だ!!!!?

小説家のサイトで10万円!?

だがその中で。

そういえばコイツ。最近学費を払うの自分でするとか言ったな!、と思う。

まさかと思ったがそんな馬鹿な。


「.....お前。どんな小説だ?非常に興味があるんだが.....」


「まあ小説よりもエッセイだよね。日記。そんな感じのものを書いたら10000人フォロワーが付いた」


と自慢げに胸を張る夜空。

嘘だろオイ。

エッセイで10000人!!!!?


俺も今は止めたが小説を書いていた事は有った。

その時はそんなに儲からなかった。

まさかと思うがそれを真似した.....にしても凄いな!?

有り得無いんだが!


「ありのままの日常のエッセイだよね。何だか人気が出ちゃった。広告も付いたし」


「.....凄い.....夜空ちゃん」


「.....まさかの事態なんだが。俺の月収の半分以上なんだが.....」


小説の広告費ってそんなに稼げるのか?

あまりよく知らないが。

いやまあコイツが天才だとは思った。

しかしそこまで.....天才だとは思わなかったぞ。

思いつつ俺は.....額に手を添える。


何か負けた様な気がする.....。

相変わらず憎い部分もあるな。

そんな感じで考えながら、である。

思いつつ俺は夜空を見る。


「今は家計が苦しいからね。共同で生活しないと。だから私も何かしたいと思ったけど一応凄くなってから言おうと思って。だからお兄ちゃんに何も言わなかったんだよね」


「相変わらず憎い部分もあるなお前」


「アハハ。私は天才です」


「.....ハァ。我が義妹ながら.....」


でもそういう所も誇らしいよ。

今となっては、だ。

家計が苦しいから裏ではそんな苦労をしていたんだな。


俺は少しだけ眉を顰める。

すると夜空が俺を優しく抱き締めてきた。

後ろから、だ。

俺はビックリしながら背後を見る。

優しく俺の髪の毛を撫でてくる。


「.....お兄ちゃん。.....大丈夫だよ。私は好きで小説を書いているんだからね。だから大丈夫。苦労は掛かって無いから」


「.....相変わらずだな。お前。そんな所も、だ」


「.....だって私が好きでやっているんだから。だから大丈夫って言っているんだから」


「.....!」


俺はそんな夜空の言葉に見開く。

そんな俺の横では、夜空ちゃん私のいー君取らないでよー。

とふざけた感じで笑いながら千佳は夜空と戯れたりする。

俺はその姿を見ながら笑みを浮かべた。


「.....凄いな。しかし。.....夜空」


「私は家の為に動きたいだけだから。お兄ちゃんの為じゃ無いよ」


「.....まあ皮肉も相変わらずだな。ハハハ」


「アハハ」


夜空は笑みを浮かべる。

その姿を見ながら俺はまた伸びをした。

よし頑張っていこう。

思いつつ、だ。

ん?それはそうとよく考えたらそれだったら.....。


「夜空。今度何か奢ってくれ」


「.....実直すぎるよお兄ちゃん」


「.....いー君.....」


いやいや、的な感じで俺達をみてくる。

やっぱり駄目か。

まあ初めから冗談のつもりだけどな。

苦笑いを浮かべながら俺は欠伸をする。

それからお茶を飲んで意を決した。


「ラストスパートだな」


「そうだね。お兄ちゃん」


「だね。いー君」


俺に笑みを浮かべる2人。

思いつつ俺達はラストスパートをかけた。

いつか読ませてもらおうかな。

夜空のその伝説の小説を。


まあどうせ見せてはくれないだろうけど、だ。

考えながら眠気と戦いながら。

小テストを作った。

雪さんが満足すれば良いけどな。

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