帰国
夏四月。遣隋使たちは約一年留守にしていた倭国の地を踏んだ。錨を下ろしたのは今の北九州にあたる
大和は恐る恐る船からおりるとそっと地に足をつける。ふわりと感じた草木の香りに、どこかじんと胸が熱くなる心地がした。
「ここが倭国ですか。なんだか海が近い気がしますねえ」
後ろから聞こえた声に振り向くと、
そんなことをしながらも、一行はひとまず筑紫に落ち着いた。倭国に帰ってきたとは言え、ここに住んでいる者の多くは
そんなある日、妹子が誰かに声をかけられた。懐かしい大和ことばの響きと鮮やかな朝服。都から派遣されたという出迎えの使者だった。名は
「やぁ、いらっしゃい」
新築の迎賓館につくと、すぐさま妹子は顔を顰めた。自分を出迎えた相手に対し万物を凍らせかねない視線を向ける。
一方、相手は飄々と笑うと背後の大和に目を向けた。そして「これはこれは大和殿。隋はどうでした? お気に召すものはございましたか」と軽快に肩を揺らす。
「久しぶりやなぁ、
「いえいえ、たまたまこちらに来ていたのですが、せっかくなら使節を出迎えろと声をかけられましてね。いやぁ人気者は辛いですな」
はっはっは、と愉快そうに笑うと、倭国の豪商・
「言っとくけど僕はこれ以上何もしないからね。バレて首飛ぶの嫌だもん」
「ええ結構ですむしろどっか行ってください」
「ひどいなぁ。誰の援護のおかげで新羅と百済通過できたと思ってんの?」
妹子はそれにケッとそっぽを向く。どうもこの二人は馬が合わないらしい。いや、妹子が河勝を毛嫌いしていると言った方が良いか、同族嫌悪と言った方が良いか······。腐れ縁らしい二人はいつも何やかんやと口喧嘩をしていた。
「ところで、ちょっと話したいことあるんだけどいい?」
河勝が妹子に問いかけた。妹子は嫌そうな顔をしたものの、重要事項だと言うので渋々着いていく気になったらしい。大和はそんな二人を見送ると、客室に通されている裴世清の方へと向かう。
「凄く綺麗ですねぇ。やっぱり隋とはまた違うというか······ここまで来るのに通ってきた
椅子に座った裴世清が楽しげに笑う。どうやら瀬戸内海の話をしているらしい。まあ、あれだけ広い河を持つ隋からすれば瀬戸内海も河に見えるのか。
大和があれは海だと言うと、裴世清は驚いたようだった。面白そうに目を輝かせ、倭国を旅してみたいと言い出す。
「裴世清さま、さすがにお勤めがありますので······」
そう彼を咎めたのは付き添ってきた
「まぁとりあえず、おもてなしの宴会があるのでそちらで
大和がそう言うと、裴世清は「それは楽しみですねえ」とにこにこ眉を下げる。宴会が行われたのはその日の夜のことだった。
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