第5話 眠れない夜と僕の家に来た足立さん-3-

なぜだ

なぜなんだ足立さん

もう帰り支度をして少しすれば始発が出る時間だと言うのに



このタイミングでマンガを読み始めてる足立さん


別に解散を望んでいたわけではないけれど

始発で帰るものだろうと思ってた僕には、ちょっと戸惑う展開だった



あ、あれか


始発で帰ると僕が思い込んでるだけだったのか


別に始発に拘る必要はないもんな


よく考えてみれば僕も足立さんも今日学校休むわけだし、始発で急いで帰って学校へ行く身支度をするなんて必要もない


彼女の指す「朝まで」を


僕が勝手に始発と誤認しただけだ


嫌な気持ちはないけど、この少しの緊張と不思議な感覚がまだ続くのかと思うと言葉にし難い、語彙力のない僕には持ち合わせないフレーズのない気持ちになる


まだペットボトルに残る飲み物と氷を足そうとキッチンへ戻り、2人分のカップに飲み物を足して戻る


カップを置いて腰を下ろすと1つの問題に気付く



彼女が読む1巻


それは僕もまだ読んでいない


必然的な沈黙



手持ち無沙汰というやつであろうか、話しかけるのもなんだし、かといって急に僕はどうしろというのか



彼女が2巻へと続くなら僕は彼女が読み終えた1巻を手に取ればいい


だから、この僅かな数十分がなんとも微妙な時間である


更新されてる分でも読んで潰せば丁度いいかと、僕は登録している投稿小説サイトを開き小説を読み、彼女が1巻を読み終えるのを待った






「ヤバい!マンガも面白いね!」


1巻を読み終えた彼女はハイテンションで2巻を手に取った


そうなれば僕も携帯小説を読み止め、1巻を手に取る



黙々と2人でマンガを読む早朝


遮光カーテンによって外の明るさは遮断されているが恐らく朝日は昇ったであろう


5巻まで買ったマンガを読み終えると足立さんは感嘆の声をあげた


「ほんと面白いこれ!あ、十条君ここからの続き気にならない?アニメならあたしの携帯に入ってるよ!この際続き見ちゃおうよ?偶然にも、あたし見てるとこが丁度マンガのこの辺りだったんだよ?!これはもう今見ろって事だよ!」



なんと



確かに続きは気になる


けど足立さん帰らなくても大丈夫なのかな


というより、眠たくないのかな


もう朝の6時になる


僕は少し疲れたくらいでそんなに眠たくはないけれど

元気いっぱいで、まだ今日を終わらせたくないようにも何処と無く感じる足立さんに少し疑問を持ちつつ、足立さんの隣に失礼して2人で配信サイトでアニメ版を鑑賞する




あ、面白い



漫画より綺麗で、やっぱりアニメの方がフルカラーや声付きって部分で迫力とかあるしいいな



2人でアニメに没頭した



数話分見て今配信されてるものを見終わると、あー面白かったぁと満足そうな声をあげて寝転がったまま伸びをすると、そのまま足立さんは2回転程回り僕の寝床スペースへ移動した


「そういえば十条君今日風邪だよね?」



一瞬何を言ってるのかよく分からなかったが、あぁ成程、学校へ行かない確認か


「そうだね、足立さんと同じだよ。風邪ひいてお休みだ」


ベタなやり取りに少し笑えてきた



少し笑いながら答えた



「夕方には治ってバイトかい?あたしは夕方突然治ってバイト行くよー」


仮病に加えて半日ほどの未来を決定事項で進める足立さん


彼女もバイトは行くのか


「うん、そうだね。僕も夕方風邪が治ってバイトだよ。制服置きっぱなしだしどの道行かなきゃならないんだ」



「じゃあ、まだまだ時間あるねーっ。寝て起きてのんびり出来るっ!あたし名案!」



満足そうな笑顔で言い放つ足立さん



え、え、ええええええ?



努めて冷静と言うかリアクションには出さずに

僕はかなり焦った



え、ええええ



2度言おう



どういう事なんだ


クラスメイトが深夜遊びに来た


そのクラスメイトが泊まっていく



いや、足立さん


朝になったらどうこう、と言う時間概念へのツッコミや思考はもう置いておいて



え、ええええええええ?!



言葉を発せず僕は固まった



「あ、ごめん。なんか勢いよく勝手に決めて。迷惑だよね、ごめん。」


足立さんはハッとした顔をして暗いトーンになった



なんだろうか、違和感を感じた


なにか分からないけど


急に泊まってく事に対しての話を1人で盛り上げてしまった事に気まずくなって、ってことでは無い


分からないけど、そんな気がして仕方なかった



夜中のあの一言「同じだね」から引っかかってたものと、彼女の雰囲気


ただ、遊んでいたい


それだけでない気がした、理由は分からないしそう思う根拠もない


ただの違和感



「ん、いいよ。バイトまで何も無いし、足立さんが良ければゆっくりしてって。ここからの方がバイト行くのも近いだろうし」


僕がそう答えると


嬉しそう、の中にどこかほっとした感情を感じさせる顔をした足立さんが綻んだ


なんで、ほっとするんだろうか


優等生で明るいけど、夜遊びする足立さん



たった一夜だけど僕は確実に彼女に「何か」を感じだ


気のせいでは無い気がする


直感だけど、確信に近い気がした



足立さんとの「今日」は、まだ続く

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