第6話ハルシオンと足立さんと僕

「やったねーっ」


嬉しそうな足立さん


いつの間にか足立さんは僕のベッドへとシフトしていてiPhoneで動画を見ていた



ハッとしたように飛び起きて気まずそうに言った


「ごめん、パジャマ借りていいかな」


私服で人のベッドに上がってしまった事に気づいて慌てたのか


僕は自分のベッドに女の子が飛び乗ってる光景に脳の処理が追いついてなくてそれどころじゃないけれど


兄貴と両親以外誰も来たことないうちには当然来客用のパジャマなんてないし、それでいて女の子が着るようなパジャマを持っていたら僕はただの変態だ


「ごめん、来客用のパジャマとかなくて、一応ちゃんと洗ってあるし僕のでいいかな」



クローゼットから1番着てる回数が少ないであろうスウェットと買ってまだ未使用のシャツを貸した


「あっ、あとごめんお水貰っていいかな」


ああ、と僕が返事をしてキッチンへ行こうとすると制する足立さん



「大丈夫、あっちで着替えるしついでに貰うね」



バッグに手を伸ばしポーチ出してそれと着替えを持ってキッチンへ向かった足立さん



「足立さん、ミネラルウォーター冷蔵庫にあるから。あと、予備の歯ブラシ確か棚にあるから使ってー 。

学校行ってバイトして遊んできたし、良かったらシャワーも使って」


「いいのー?ありがとー!」



しばらくするとドライヤーの音が響き、足立さんが寝支度を済まし戻ってくる


入れ替わりに僕もシャワーを浴びて歯磨きをしにゆく


歯を磨く時に、カップにある歯ブラシが2つになってるのを見てまた違和感というか、不思議な感じがした



僕もシャワーと歯磨きを済まし、2人とも寝支度を済まし一息つく




歯を磨いた後なので紅茶はやめて、ミネラルウォーターを注いで戻るとベッドで再び動画を見る足立さん




ふと、当然のように疑問が湧く


シングルベッド一つ


ここには2人


うん


ベッドは彼女に使って貰って、僕はブランケットでクッションを枕にしてフローリングで寝るか


そんな事を考えていると



足立さんが隣をバシパシと叩く


「早くー、動画見よーよー」


軽く言ってくれるけど


ベッドで女子の隣に寝そべって動画を見るって


そのまま寝てしまったらと考えると恥ずかしい



まあ僕はまだまだ起きてるから足立さんが寝たらフローリングに移動するか



恥ずかしながらも隣に失礼する



僕の家の自分のベッドなのに不思議な感じだ


人気のYouTuberの動画をいくつか鑑賞する



段々と足立さんが静かになっていく気がした


そりゃそうだもう朝の9時前


元気いっぱいに1晩遊んだしそろそろ寝付くだろう



僕はいつものことに加えて、今日という日の出来事に脳が冴えてる、まだ眠れそうにない



そっとベットから離れてキッチンに向かう


カップにアイスティーを注いで


引き出しから灰皿と煙草を取り出し、換気扇を回してセブンスターに火をつける


もう一度歯を磨けばいいだけだ


喫煙習慣が普段からあるわけじゃない


夜眠れない時に嗜む程度


まあほぼ毎晩だけど


夜中だけ僕は煙草を吸う


思い込みなのかもしれないけど、少し落ち着く気がするから




「十条くーん?」



寝たと思ってた足立さんがキッチンへやってきた


煙草と灰皿を隠す暇さえなかった


「煙草吸うんだ」


「タトゥーに煙草ってほんと普段の十条君からはイメージ出来ないねー 」


ふわふわとした感じで微笑む足立さん



「眠れないの?眠くないの?」


少し幼い口調で尋ねてきた


また。違和感



「うん、まあ。でもいつもの事だから。

夜中眠れない時に吸う程度で普段から吸ってるわけじゃないよ。

僕は適当に寝るからいいよ、気にせず明かり消して先に寝てて」


ベットへ足立さんを促そうとすると彼女はバックに手を入れある物を取り出した


銀色のシートに青い文字が描かれたもの



「あ、変なものじゃないよ。ちゃんと病院で処方されてるものだから」



「少しは眠れるから」


この言葉で、昨夜からの最初の気になった一言からのいくつかの違和感が分かった


だからさっき水を自分で取りに行ったのか



その手の病院に行ったことがないのに、いきなりそれを飲むのは良くない


けれど僕は、その銀色を剥がして青い錠剤を受け取った


なんでかは分からない


そもそも今日は分からないことだらけだった


3錠、ミネラルウォーターと共に飲み込んだ





ベットに戻るとiPhoneを見るのを止めて、足立さんは少しばかり拙いというか幼くなったような話し方で話した


お姉さんと同じように地方から東京の高校へ進学し一人暮らしになり、近くに住んでいたお姉さんが数ヶ月前から留学で海外に行き、段々と寂しさから眠れなくなってきた


接点がないからそんなに気にしなかったが、クラスでも頻繁にお泊まりをしたり夜遊びする友人もいないとのことだった


だから夜中に1人でクラブに居た


彼女は孤独と静けさの自宅から逃げていた



僕を見て、根本的な理由は違うかもしれないけどなにかを感じた


自分と通ずるなにかなのか


今日の僕への行動への足立さんの理由だろう


僕は時折相槌をうちながら聞いた


僕は兄貴は都内に居るし、足立さんと同じで県外から進学したけど近い県だし両親とそんな離れてるわけじゃない、寂しいとかそういったものは感じていない


感じていないと自分では思ってる


けれど、なにかあるのだろうか


自分では気づかないなにかが足立さんには見受けられたのだろうか



なんだか少しふわふわしてきた



普段感じる事があまりない、眠気のようなもの


少しぼーっとしてると


「ごめんね、ありがとう」


突然足立さんは言った


そして体を反転させて僕にくっつく体制になった



普段なら慌てて飛び起きてしまったり、固まったりしたかもしれない



けれど何故か僕はそんなに動揺せずにその姿勢を受け入れて、足立さんが静かになったのを見て微睡む意識の中「僕こそありがとう」


小さな声で彼女に囁き眠りについた

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