第3話 シエラトゥール第3階層・東の大島――リリィ・ライゼ15歳、旅立ちⅢ
ギルドを出て、扉を開けた私は空を見上げます。
雲一つ無い、蒼天快晴。真っ白に輝き、幾重にも虹の輪を投げかける太陽に向かい、手を伸ばします。すると、手のひらが、心の躍る流れに触れました。
「……良い風が吹いてる」
絶好の飛行日和。こんな日は、ネストに行くにも歩くだけではもったいない。私は、脇に抱えた
風切板は、超軽量の泡沫桐の板材に小型の
宙に舞った風切板は滑るようにして、私の顔くらいの高さをすうっと進んでいきます。私はそれを走って追いかけると、勢いのままにエッジに手を掛けます。ぐらりと風切板は傾きますが、大丈夫。私の体を支えてそのまま流れていきます。
風切板を掴んだまま、下り坂を一歩、二歩、三歩。ぐっと地を蹴ると、次の瞬間、足が離れます。掴まった手を捻って風切板の角度を微調整、途端、風力炉が風を喰って、ぐんと加速。よしよし、良い感じ。
「ほっ!」
私は板を両手で掴み、反動をつけると逆上がりの要領で風切板の上へ。この辺りは慣れたもの、学院でも風切板乗りは一番でした。
後ろ足で左右にジグザグと板を振り、風力炉に風を当てます。空には見えない力の流れ――『風』が吹いています。その風の力を、私たち人間が使いやすい形で取り出す装置が『
十分に加速したところで、体重をぐっと後ろへ。風切板の鼻が上を向き、ぐんぐんと上空へ向かっていきます。失速しないよう適度に漕ぎながら、私は島に被さった大きな傘のような場所――ネストへと向かいました。
島にはどこでも必ず――大きさの大小はありますが――空に向かって伸びた塔から、傘のように平たく、円形に広がった場所があります。飛行器の離着場『ネスト』です。地面の近くは風の流れが弱く、また乱れやすいため、飛行器で飛ぶのは危険なのです。その為、島の高い位置にネストを作り、飛行器は必ずその管制に従って島に離着陸する決まりになっています。
ネストにたどり着くと、まずは管理棟へ向かい離島手続きを取ります。風乗士免許の確認、登録飛行器の照合、離着査証の確認(島の往来は危険かつ色々デリケートな行為で、免許があれば好き勝手に飛べる、というわけではありません。離着陸には出入りする公的な理由――離着査証が必要です。ギルド発行の依頼状はそのまま、依頼先との離着査証としての効力を持っています)を行い、パスしたら格納棟へ。
格納棟には私の
飛行前点検を済ませ、荷物を括りつけて格納棟から外に運び出したら、離陸の順番待ち。やがて管制棟から、拡声筒でアナウンスが掛かります。
「イースト・コンチネント・336、第8滑走路へどうぞ」
私の登録番号です。私は飛行器にまたがると、ハンドルについたスロットルを最微速に絞って指示通りに第8滑走路の端へ、滑走路はネストの中央から外に向かって放射状に広がっています。
滑走路中ごろに立った管制員が緑の信号旗――離陸可の合図を振っています。私も白の信号旗――了解の合図を振って、管制員の旗が下りたのを確認、離陸に移ります。
緩い追い風、両足のペダルを爪先がわに踏み込んで、器体両側に付いた風力炉を内絞りに、右手のスロットルをゆっくりと開けていきます。スロットルの開きに従って、少しずつ器体が前へと加速します。滑走路の中央辺りでスロットルは7割開放、ペダルを今度はじわじわと踵がわに踏み込み、風力炉を外開きへ。こうすると、推力が前方ではなく、浮こうとする方向へ働きます。器体が力強く、浮揚していくのを感じながらスロットルを全開に、ペダルは踏まずにフラット、器体は真っ直ぐに空へと飛び出し、ネストを抜けました。
離陸完了!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます