第5章 ツーリングデートと恋愛お約束条項③
当然ながら、柏が転校していっても時間は進むし日は巡る。ついでに言うと腹も減る。
昼休みにベンチを訪れると当然のように待っている美月。その美月と食事を共にしていると、彼女がぽつりと呟いた。
「……なんか、柏先輩がもうこの学校にいないなんて信じられませんね」
「まぁな。でもクラスにいなくてさ。なんつうか、不思議な気持ちだよ」
「生徒会室に行ったらあの柔和な笑顔で出迎えてくれそうですもんね」
「それな」
「寂しいですね」
さらりと、美月。横顔を盗み見――たはずなのだが、美月もこちらを見ていてばっちり目が合ってしまった。
「あ――いや、今生の別れじゃあるまいし、連絡先だってわかってるんだ。ラインしてみたらいいだろ」
「や、私じゃなくてセンパイが」
「は?」
「ちょっと元気ないように見えます」
……そうか。いや、そうなんだろうな。
「教室で話しかけてくる奴がいる方が珍しいんだ」
「全方位から見て悲しいセリフですよ!?」
「教室で話しかけてくる奴がいる方が珍しいんだ」
「二回言った……どんなメンタルなんですか。ぼっち飯を一年貫いて指定席を獲得した人はメンタルも言うことも違いますね……」
「お前だって俺がいなきゃぼっち飯だろ」
「私、一応休み時間にお話しするクラスメイトいますよ? 多分入れてーって言えば一緒にご飯できると思います」
「!?」
「っていうか今もクラスメイトに見守られてます」
言いながら美月は顔を上げ、宙空に向かって手を振る。視線を追うと、三階のとある教室からこちらに手を振る女子が数名。
そうだった……ここ、美月のクラスから丸見えだったわ……
「友達いてごめんなさい」
「そんなこと謝られたの初めてだ」
「私もこんなこと謝ったの初めてです。初めて同士! 私たち、相性ばっちりですね!」
「すごくマウントとられそうな相性……」
「そんなことありませんよー。寂しいセンパイを慰めてあげたいと思う気持ちで溢れる私ですよ、マウントなんてそんな」
「本心は?」
「うそ、私のカリカレ友達いなさすぎ……」
両手を口に当ててそんなことを宣う美月。ぶっとばすぞ、おい。
「……ちなみに俺、お前の世界線で上手く社会人できてた?」
「あ、そういうのは平気ですよ。センパイがダメなのは友達つくる能力だけなんで。上司や先輩、後輩なんかとはなんだかんだそこそこ上手くやるんですよ。絶望的に私生活に繋がらないだけで」
「ほう」
「あと無駄に女性にモテます」
「……ならいいか」
「よくないですよ!? なんなんですか私を前にそんなこと言っちゃうメンタル……」
「人生万事塞翁が馬って言うだろ」
「
「どんまい」
俺がそう言うと、美月ははあと息を吐き、
「まあでも、多分もう私が知ってるセンパイじゃないですよ、センパイは」
「うん?」
「――私、元の世界線でセンパイから柏先輩の話を聞いたことがありません。今のセンパイくらい柏先輩と打ち解けていたら、昔こんな友人がいて――みたいな話を聞いていてもいいと思うんですが……」
「……この世界は美月が知ってる世界と違ってる……?」
「考えてみれば当たり前ですけどね。そもそも私がセンパイと知り合うのはもっと後ですし。私と恋人シミュレーションしてることで私やセンパイに影響あるのは間違いないでしょうし、深町先輩にだって影響があるはずです。私が言うことも参考ぐらいに止めておいた方がいいかもしれません」
「……つまり俺がこれからパーフェクトコミュ強になる可能性が」
「微レ存ですね!」
「微かー」
微粒子レベルかー。絶望的だ。
「ま、そんな話はおいといて」
「人の気持ち下げるだけ下げてそんな話とかどの口で言うんだ」
「つやつやリップのこの口です☆ 黙らせたいならセンパイが塞いでください♡」
――……それにしてももうじき五月――四月の頭は屋外で昼を食べるにはちょっと涼しかったが、最近はいい気候になってきたなぁ。差し込む陽が温かい。午後の受業なんか出ずにこのままここで昼寝していたくなる。
ずずっ。あ、飲み物なくなった。
「無視は酷くないですか!?」
悲壮な顔で、美月。
「愛らしい私のつやつやリップに興味ゼロですか? 遠慮せずきゅんきゅんしていいんですよー? センパイの寂しい気持ちを私が埋めてあげますから」
「勘弁してくださいよ」
「敬語で否定!? ガチなやつじゃないですか!」
美月ショック! とか胡乱なことを叫びながら頭を抱える振りをする彼女。
「お前は安定してテンション高いね」
「明後日が楽しみすぎるんですよー。多分今日の夜辺りからもう眠れなくなると思うんで、当日待ち合わせ寝坊して遅刻したらごめんなさい」
「ああ、気にしなくていいぜ。その時は二度と誘わないだけだ」
「貫徹で臨みますね!」
「冗談だ、ちゃんと寝ろ……眠れなけりゃあネットで飯の場所とか、ショッピングプラザ以外で覗いてみたいスポットとか調べとけよ。そしたら俺も行き先考えなくていいから楽だ」
「あ、ランチは考えてあるんですよー。生パスタのお店があって、そこ連れてってもらいたいです」
と、嬉しそうに美月。俺はそれに応と頷く。
「あいよ。当日出発前に店の場所確認するから、行きたいとこメモアプリかなんかでまとめといてな」
「はーい」
美月は元気よく返事をし、
「明後日はめちゃめちゃイチャイチャしましょうね?」
「しねえよバカ恋愛交渉禁止令抵触したらお前軽井沢に置いてくるからな」
「ぎりぎり自力で帰って来れそうなのが逆にリアルです……」
センパイが頑なだーと美月がぼやく。
だってお前それ俺が許可しちまったらもうブレーキ踏むやついなくなるじゃんよ……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます