第4章 初デートと恋愛お約束条項④

「颯太くんも我妻さんも座って?」


「あ、はい」


 柑奈さんに促される――が、どこに座るのが正解か。


 柑奈さんと若林さんが並んで座り、柑奈さんの正面に柏が、その隣に田切さん、阿樹さんと続く。


 悩むまでもない――俺は回り込んで若林さんの隣に座る。察したようで美月は阿樹さんの隣に腰掛けた。


 阿樹さんが人見知りなら、隣は俺より美月の方が気が楽だろう。


 席が決まると、柑奈さんがそれぞれの前にお茶の入った紙コップを置く。会長がお茶を淹れるのか……


 その柑奈さんも自分の席に戻り、


「では会議を始めます。阿樹さん、議事録の作成をお願いします」


「はい」


 阿樹さんは応えてノートを開く。手元にはボイスレコーダーも。ノートに取ったメモとボイレコのデータから後で議事録を清書するのだろう。


「じゃあ最初に――柏くんの転校による欠員補充で、庶務に就いてもらう我妻さんと、有志メンバーとして私たちを支えてくれる姫崎くんに今日から会議に参加してもらってます。二人とも、これからよろしくお願いします」


「よろしくお願いします」


「よろしくお願いします」


「はい拍手ー」


 美月と声を揃えてそう返すと、柑奈さんの号令で五人から拍手をいただいた。なんだこれ。


「――それで、庶務に就いてもらう予定の我妻さんの信任投票ですが、柏くんの希望で彼の転校後に行ないます。皆の合意が得られれば、再来週――はすぐにGWに入ってしまうので、GW明けに行ないたいと思います。GW明けに臨時クラス委員会を開いて通達、翌日に臨時生徒集会を開いて信任投票を行なう方向で校長先生に請願する予定です」


「異議なし」


「異議なし」


「異議なし」


 柏と若林さん、田切さんがそう言い、阿樹さんがそれをノートに記す。


「あの、いいすか」


「ん、どうぞ」


 手を挙げてそう言うと、柑奈さんが発言を促す。


「今更なんすけど、執行部にも顧問の先生がいるんすよね? 俺たちが執行部に参加するってのは了解取れてんすか?」


「そう言えば顧問の先生の話をしていなかったね。顧問の先生は生活指導も担当してくださってる峰岸先生です。庶務の後任は私たち生徒に任せてもらってるよ。有志については基本的に拒むことはないので大丈夫。気になるならこの後一緒に挨拶に行きましょうか?」


「あ、大丈夫すよ、付き合ってもらうのも悪いですし」


 柑奈さんの言葉にそう返すが、


「どの道私は会議の後に報告に行くから、良ければ我妻さんと三人で挨拶に行きましょう?」


「……そういうことなら」


「私も、はい」


 俺に倣って美月も頷く。


「じゃあそうしましょう。他にこの件でなにか意見のある人はいる?」


 そう言って柑奈さんは皆を見回すが、追加の意見は誰からもでない。


「では、この形で決定とします。準備については投票用紙を事前に用意しておいて、臨時委員会で投票用紙と選挙箱を各クラス委員に配布、翌日のHRの時間を臨時生徒集会でお借りして、告知と我妻さんのスピーチ。各クラスで投票してもらって、設立した選挙管理委員会でその日のうちに集計。どうかな?」


「うん、特に問題ないんじゃないかしら」


 柑奈さんの言葉に田切さんが同意する。


「投票用紙はテンプレートがあるし、選挙箱も毎年選挙管理委員会が使っているものがある。準備に大した手間はかからないだろうね」


 これは若林さんだ。


「臨時選挙管理委員は……一日だけだ、クラス委員に兼任してもらおう」


「クラス委員全員? 多くないかしら」


「全員なら不公平がないし、自分のクラスだけ集計して報告すれば終わる。時間もかからないしよくないか?」


「……それもそうね」


 若林さんと田切さんが話を進める。


「柏はどう思う?」


「僕の転校で起こる問題ですよ、口を出しにくいですよ……と言いたいところですが」


 副会長の問いに、柏はちょっと困ったように――


「僕はクラス委員も兼任してるんで、ウチのクラス委員は一人になっちゃいますね」


 クラス委員は――つまりルーム長だ。ルーム長と副ルーム長の二名が各クラスのクラス委員になる。ルーム長の柏が転校するので、ウチのクラスのルーム長は副ルーム長が繰り上がるだろう。となると副ルーム長――クラス委員の片割れが空席になるという訳だ。


「柏」


 俺はその問題を提起する柏に声をかける。


「うん?」


「クラス委員はともかく、選挙管理委員は俺がやるよ。そしたら開票と集計の労働力、他のクラスと同じになるだろ?」


「ああ、それはいい。助かるよ」


「クラス委員の後任は別に指名してけよ」


「じゃあ姫崎くんに」


こっち生徒会だけで手一杯だ」


 そう告げると柏は肩を竦め、


「――というわけで、僕が気になることは解決しました」


「ありがとうね、姫崎くん」


 副会長たちの手前か、いつもと違い名字で俺を呼ぶ柑奈さん。まあ俺も、この場で柑奈さんと呼ぶつもりはないが――


「会長、ついでに臨時選挙管理委員長が必要ならやりますよ。各クラスが報告した数字を集計する人間が必要ですよね?」


「いいの?」


「それぐらいなら。一週間むこうなんで、バイトのシフトも調整できますし」


「やあ、それは実に助かるな。君は執行部の正規メンバーでないから選挙管理委員会にも参加できるし、誰が長を務めるかで揉める心配もない」


 隣に座る若林さんが俺の肩を叩き――


「いや、君が有志として生徒会に力をかしてくれて本当に嬉しいよ。柏が転校することになって、生徒会の黒一点になってしまうかとヒヤヒヤしてたんだ」


「ハーレムでいいじゃない」


 とは、田切さんの言葉だ。しかし若林さんは先の柏の様に肩を竦めて――


「家じゃ姉と妹に挟まれていて肩身が狭いんだ。学校でまで同じ思いをしたくない」


 そんな副会長の言葉に、生徒会室に笑いが起きて――


「――では、信任投票に関してはこれで決まりでいいかな?」


「異議なし」


「異議なし」


「異議なし」


 柑奈さんの言葉に若林さんたちが頷く。阿樹さんがそれを記して、


「じゃあ、次の議題がある人はいますか?」


 柑奈さんが会議を進行する。


 新参者の俺と美月は、柑奈さんたちが交わす言葉に耳を傾けた。





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