第4章 初デートと恋愛お約束条項③
木曜はこれと言った事件は起きず――とは言え昼休みは美月が現れたが――そして金曜。
昼休みに美月にせがまれため、放課後、生徒会室を訪れる前に美月と合流する。
集合場所は特に示し合わせていない――が。
「センパーイ」
中庭のベンチで待っていると、美月はやはり小走りで校舎から出てきた。一昨日の昼と似たような光景だが、違うのは手に弁当袋でなく学生鞄を持っていることだ。
立ち上がって迎えると、ギリギリの所まで駆け寄ってくる。
「近い近い」
「心の距離を示そうかと♡」
「え? じゃあ俺パスポートとらないと」
「心の距離が海外へ!?」
がびーんと、美月。白目でベタフラッシュを背負っている――そんなリアクションだ。
「馬鹿なことを言ってないで行くぞ」
「温度差が酷い」
「先輩たちあんま待たすわけにはいかないだろ」
「はーい」
合流できたので校舎へと足を向ける。
「で、なんでわざわざ合流したかったんだ? 一人じゃ顔出しづらいって性格じゃないだろ?」
「確か会計さんと書記さんて女子でしたよね」
「そうな」
普段生徒の前にでない会計や書記は一般生徒にとってあまり印象が強いポジションではないかもしれない。庶務も、会長の陰に隠れがちな副会長も。けれど俺は昨年度の選挙を憶えている。副会長は三年の男子で、会計は三年の女子。書記は俺と同じ二年の女子だ。
「一緒に行ってこのヒトは私の! ってアピールをしようかなって」
「ああそう……」
そんなことをしなくても、俺がそうそう女子にモテるとは思わないが。
「あ、嫌ですか? それなら時間ずらして行きますけど」
「……カリカノだし、オトモダチってのはもう柑奈さんに知らせてあるしな。いいよ」
「わーい!」
笑顔でそう言った美月は俺の腕に抱きつこうと手を伸ばした。彼女の指先が腕に触れた瞬間に振り払う。
「ひどーい!」
「むやみに触るな。恋愛交渉禁止、忘れたか?」
「こないだはオッケーだったじゃないですかー」
「月曜の放課後のことか? 人目がなかったからな。見ろ、そこら中に生徒いるだろ」
「それにしたってちょっとぐらい」
「明日キャンセルでいいなら生徒会室まで腕組んでやる」
「明日が楽しみですね!!」
美月が背筋を伸ばして前を向く。
そうして俺たちは生徒会室に向かった。
◇ ◇ ◇
ノック。返答を確認して引き戸を開ける。
「失礼します」
「しまーす」
美月とともに生徒会室に入ると、既に執行部の面子は揃っていた。柑奈さんと柏の他に、今までいなかった男子が一人と女子が二人、長机に座っている。
「すみません、お待たせしましたか」
「大丈夫、待ってない――オレたちも今し方揃ったところだよ」
柑奈さんの隣に座っていたその先輩は立ち上がり、俺に向けて手を差し出した。
「生徒会へようこそ――オレは副会長で三年の若林恭也。よろしくな」
「姫崎颯太です。よろしく」
その手を握り返し、自己紹介をする。若林さんのやや明るめな色の髪と爽やかな印象はイケメンだとかリア充だとかって言葉を連想させる。この学校じゃ珍しいタイプの男子だ。
「我妻美月です。よろしくお願いします」
俺が避けると今度は美月が挨拶し、彼の手を握り返した。
よし。俺の目を気にして握り返さないかなとも思ったが、そこまで惚けていないらしい。それでいい――先輩の厚意を無碍にするような好意の示され方は嫌だ。
そして、女子の方も立ち上がる。
「初めまして。三年B組――会計の田切藍子よ。よろしくね?」
「……書記の阿樹紗々良です。二年F組です。よろしくお願いします」
田切さんは朗らかにそう言った。大して阿樹さんの方は頑な――というか緊張気味のようだ。人見知りか、人付き合いが苦手なタイプか――その類いなのだろう。手を差し出したりせず、その場で深々と頭を下げる。
「よろしく」
「よろしくお願いします」
俺は軽く、美月は彼女と同じように深く頭を下げて挨拶を交わすと――
「――これで全員揃ったね。それじゃあ今週の定例会議を始めましょう」
人数分の紙コップを用意していた柑奈さんがそう告げた。
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