第4章 初デートと恋愛お約束条項①
その日の放課後。
下駄箱で待ち構えていた美月と並んで校門前の桜並木を歩く。
「やー、予定とはちょっと違っちゃいましたけどなんとか丸く収まりましたねー」
「少しも予定に掠ってないんだけど?」
俺の予定じゃ美月が生徒会執行部に参加するなんてなかった。思いもしないという奴だ。
「なるべくセンパイと他の女性が二人きりになりそうな状況は作りたくないですからねー」
「……俺に選択肢を持たせたいんじゃなかったのか?」
「やや、それはそうなんですけど。センパイ脇が甘いから」
「!?」
「文化祭とかですっごい忙しい時間を共有して、変な風に盛り上がった深町先輩に押し倒されても困りますからねー」
「!?!?」
心外だ。
「そんなわけあるか」
「だって前科ありますもん、センパイ」
「前科?」
「ええ。風邪引いて寝込んでるときにお見舞いに来た四年の先輩に押し倒されてさくっといただかれちゃったのはどこの誰ですか」
「少なくともここの俺じゃねえよ」
「歯形もDNAも一致するはずなんですけど」
「別の世界線の罪を責められてもな」
「そんな隙を女性に見せるセンパイがいけないんです」
「俺風邪引いてたんだろ? 求めるハードル高くない?」
「風邪で寝込んでいるときに女性を部屋にあげたんですよ? 好意がある女性なら盛り上がるでしょうよ」
「すみませんでした」
解せぬ。解せぬが謝っておこう。そして風邪を引いてもこいつの見舞いは断固拒否しよう。また怒られたら敵わないからな。
「風邪引いたら私を締め出してやろうとか考えている顔!」
美月がびしっと人差し指を俺につきつける。鋭い。
「なぜわかった」
「あ――」
「愛故にはナシな」
「……世界で一番あなたの伴侶に相応しいオンナです故」
「そんな設定あったな」
「設定とか言うのやめてくださいよー」
美月は泣き真似をしながら、
「――で、明日は何が食べたいですか?」
「急に話が飛んだなぁ」
「女心と秋の空と言いまして」
「はっきりと使い方が違う」
「でも安心してください、私の愛は不朽不滅ですよー♡」
「愛情表現に使う言葉にしてはそれちょっと物々しくない……?」
「ふきゅうふめつです♡」
アイドルポーズをキメて、美月。ご丁寧にウィンク付きだ。
「あざとく言い直されても」
「で、何が食べたいですか?」
「何でもいいよ」
「それ、一番困るやつです」
美月が頬を膨らませる。とは言ってもなぁ、あんま負担かけさせたくないんだよな。なんかリクエストすると本気で頑張りそうだし。
「ハンバーグと唐揚げならどっちがいいですか?」
痺れを切らしたか、美月がメニューで尋ねてくる。先週の調子じゃこいつはどっちを選んでも冷食は使わないだろう。どちらも大変手間のかかる料理だ……と思う。
「……生姜焼き?」
「なんで疑問系なんですか……生姜焼き了解です。他には?」
「一生生姜焼きで白米を食べたい人生だった」
「オトコノコですねぇ……いいでしょう。じゃあ明日は生姜焼きお弁当にしますね!」
ふんす、と胸元で拳を握る美月。
「――、なんか、悪かったな」
「いえ? センパイにお弁当作るの楽しいですよー?」
「そうじゃなくてさ」
小首を傾げる美月に伝える。
「庶務のこと。本当なら俺が生徒会に入るって言い出したんだ、庶務も俺がやるべきなんだろうけど」
「ああ、そっちですか。全然構いませんよー。庶務はそれほど責任が重い仕事じゃなさそうですし、普通に選挙なら大変でしょうけど信任投票ならさくっと終えられるでしょうし。それにセンパイはバイク通学止めてまで生徒会に入ろうとは思わないでしょう?」
「……まぁな。柏や柑奈さんには悪いけど、それ止めるならお前が言ったようにこの学校に入った意味ないし。正直バイク通学を止めてまで生徒会に入ろうとは思えないな」
というか、きっと美月の世界線で俺が三年次に生徒会執行部に所属してないのはこれが原因なんじゃないだろうか。校則違反云々については、今季限りの庶務ということ、この世界線の美月にあたる有志のメンバーがいなかったなどで目を瞑ったのかも知れない。
「だったらこれが一番だったんですよー。だから別に気にしなくていいです」
「でも役がつく上に全校生徒の前でスピーチだろ?」
「あ、それじゃあ今週こそデートしてくださいよー。土日どっちかでいいんで!」
美月にねだられてふと思いつく。
「――わかった。日曜はバイト入ってんだよ。土曜でいいか」
「大歓迎です♡」
「じゃあ土曜日遊びに連れてってやる」
「やたっ!」
美月は言って腰の辺りで拳を握る。こいつのガッツポーズおっさんっぽいよな……
そんな話をしているうちに、並木道が通りにぶつかる。基本美月との下校はここまでだ。
「じゃあまた明日な」
「デートの約束、忘れちゃ嫌ですよ?」
「大丈夫だ」
「嬉しいです! それじゃあセンパイ、また明日!」
そう言って美月は子鹿のように駆けていく。それを見送って俺はバイクを駐めてある深町家へ向かった。
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