第3章 生徒会と恋愛お約束条項⑦
生徒会室では既に柑奈さんと柏が弁当を広げていた。
「すみません、遅くなりましたか」
「いいのよ。こっちの都合で呼んでいるんだし……先に食べちゃっててごめんね?」
「や、別に待ってなくていいすよ」
そう言う柑奈さんに応えて柏の隣に座る。美月はその俺の隣――昨日と同じ並びだ。
「早速だけど、昨日のことね、我妻さんが庶務、颯太くんが有志メンバーって形で現執行部の合意が取れたの」
「あ、そうなんですねー。良かったです」
美月が朗らかに柑奈さんに答える。あ、柏から聞いていたのに美月に伝えるの忘れてた。
「勿論二人とも繁忙期以外は最低限の仕事で済むようにするから、それは安心して。それでもできれば金曜放課後の定例会議には出てもらいたいんだけど……」
「私はまあ、庶務になるわけですからね。それくらいは、はい、大丈夫です」
柑奈さんに答えて、俺に視線を向ける美月。
「俺も、はい。金曜にシフト入れないようにすればいいんで定例会議は大丈夫です」
「ありがとうね」
柑奈さんが箸を置いて頭を下げる。柏も。
「本当に――急な話で困っただろうに。代役を引き受けてくれて助かったよ。二人ともありがとう」
「そんなに改まるなよ。閑散期は禄に働かないんだから、本来の希望には添えてないんだ」
「会長がそれでいいと言うんだから大丈夫さ。要は生徒会が回ればいいんだから。それに有志メンバーなんてほとんど集まらないんだ、閑散期は通常の執行部よりほんの少し忙しくなるかも知れないけど、繁忙期は逆に本来の執行部より楽になるんじゃないかな」
「私もそう思う――通常業務なら私たちだけでも回せるし。それでも庶務になった我妻さんが生徒会室に寄りつかないのは外聞が良くないかもしれないから、たまに簡単なお仕事をお願いすると思うけれど」
「それは覚悟の上なので平気ですよ。予定があればセンパイが手伝ってくれるでしょうし」
「むしろ美月の役は俺の代りなんだから、必要があればやるよ」
「だったらお仕事歓迎です! 深町先輩、何でも言ってくださいね!」
「う、うん……よろしくね?」
柑奈さんは美月の勢いに押されつつ、
「颯太くん――後で執行部ライングループの招待送っておくから、我妻さんを誘っておいてもらっていいかな?」
「はい、了解です」
「それで我妻さん、庶務の仕事なんだけれど」
今度は柏だ。美月にその内容を説明してくれるようだ。
「はい」
「基本的に雑用がメインだから、必要があるときに都度お願いすることになると思う。繁忙期は手が足りない役員や委員会のヘルプが主な仕事かな。ヘルプ要請を待ってもいいし、全体を見て忙しそうな所に顔を出してもいいと思う」
「はいです」
「――なんて言っても、僕もそう場数を踏んでいる訳では無いんだけれど。昨年度の卒業式、今年度の入学式ぐらいで――ああ、部活発表会もあったか」
ああ、そんなものもあったな。帰宅部で二年の俺には全然関わりないがないイベントだ。一年の美月は昨年と同じであれば入学式の後に各部活の活動発表見学会があったはずだ。
「困ったら会長に相談するといいよ。会長は昨年度も執行部にいたから庶務の仕事もよく知っているはずだよ」
「そうなんですね。深町先輩も庶務だったんですか?」
「ううん。私は書記だった――今日はいないけど副会長が庶務だったの。今度改めて紹介するから、副会長にも相談してみるといいんじゃないかな」
「はいでーす。平時……っていうか閑散期はどういうことしたらいいんですか? さすがに言われたことしかしないっていうのもアレじゃないですか。私もセンパイも。なんというか、執行部のココロガマエ的な? 柏先輩は普段どうしてますか?」
「ああ――それは聞いておきたいな」
美月の言葉に同意すると、美月は嬉しそうに「やりましたっ!」と敬礼した。
「そうだなぁ……学校生活で不便に思ったことや、壊れた施設なんかみつけたらメモしておいて定例会議で報告、かなぁ」
「あ、それぐらいなら全然できます」
「そうしてもらえると助かるかな。颯太くんも何か気付いたら報告してね」
「はい、わかりました」
「他に何か気になることはある?」
「あ、いいすか?」
柑奈さんの言葉に俺は手を挙げて意思表明。
「どうぞ?」
「柑奈さん、昨日生徒にはいつでも訪ねてきてもらって構わない、的なことを言っていたじゃないすか」
「うん」
「昼休み……というか放課後もですけど、生徒会室を空けないようにしてるんですか? その、当番制とか」
「ああ、このところ連日来てもらってるから――ごめんね?」
「こういう形になったわけですし説明の為に時間とってくれてるのはありがたいんすけど」
「確かに生徒会室はなるべく空けないようにしているけれど、基本的には私がいるようにしているから気にしなくて大丈夫よ。私が無理な時は副会長にお願いすることになってるから、基本的に昼休みは自由にしてて」
柑奈さんがそう言うと、机の下で美月はぐっ、ぐっとガーツポーズを取っていた。
「明日からはまた指定席だね?」
「え――姫崎くん、指定席なんてあるの?」
柑奈さんのからかうような言葉に柏が食いつく。
「や、そんなもんじゃねえよ」
「姫崎くんは――ほら、雰囲気あるでしょう? そのせいか一年生のころに同じベンチをずっと使っていたら、お昼休みはそのベンチだけいつ行っても空いてるようになったんだって」
「へえ、それは面白いですね――昼休みは大抵教室にいるので知りませんでした。姫崎くん、いいネタ持ってるじゃない」
「他の生徒に迷惑かけてないかちょっと心配なくらいだよ」
「昼休みに姫崎くんに用があるときは中庭に探しに行けばいいんだね。生徒会の申し送りに記しておくよ。後任のクラス委員にも伝えておくかい?」
「勘弁してくれ」
俺は両手を挙げて降参の意を示し、
「ところで信任投票はいつやるんだ? その付近には準備や打ち合わせがあるだろう? バイトのシフト確認しとくからさ」
「それなんだけど――信任投票は僕が転校してからになるかな」
「あ、そうなの?」
「柏くんの希望なの。繁忙期ならそうも行かないけれど、今の時期ならそういう段取りでも大丈夫かなって」
「湿っぽいのは苦手でさ。転校するって言った日にはもういなくなるくらいでも良かったんだけど――さすがに担任の先生にそれは止められてね。前日のホームルームで発表するよ」
「その前に生徒集会で信任投票をしたらクラスメイトにも知られちゃって台無しだもんね?」
「姫崎くんと我妻さんには負担をかけてしまうから申し訳ないけど――我妻さん、よろしくね?」
「はいでーす」
「姫崎くんも。涙の別れなんか必要無いから『また』って笑顔で送り出してね」
「最後の日の放課後は人目をはばからずわんわん泣いてやるよ」
「じゃあ僕はそれを見てげらげら笑うことにするよ」
俺と柏はそんな冗談を言い合って――残りの休み時間を昼食と雑談で過ごした。
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