流行りものネタと侮るなかれ

 様々な動物が自動車として存在する世界、いつかドラゴンカーに乗ることを夢見る男性が、年老いたドラゴンカーと偶然出会い、その世話をすることになるお話。
 奇抜ながらもほのぼのした設定の現代ファンタジーです。「アニマルカー」と呼ばれる、動物と自動車を混ぜ合わせたような乗り物(あるいはペット)の存在する世界。その詳細や具体的な成り立ちに関しては一切説明がなく、また「アニマルカーが存在することによる現実世界との差異」のような切り口もなく、でもそれは不足があるという意味ではなく、物語としてはもちろん成立している。つまりは、いわゆるライトファンタジーなのだと思います。なんなら童話やお伽話に近いものがあるかも。ふわふわした優しい世界観。
 実はこのアニマルカー、作中に具体的な姿や形状の描画がほぼないのですけれど、それでも絵面を想像できてしまうところがずるいです。というか、その、どうしてもフェルト人形のストップモーションアニメで浮かんでしまう……作者様ご自身の設定された「GURU GURU ドラゴンカー」というキャッチからも窺える通り、流行の作品(ミーム)に被せたようなところがあって、つまりついネタ作品のような感覚で読んでしまいがちなところ、でも決してそれだけには終わらない物語性の強さが魅力的でした。話題性に頼っているわけじゃない、ちゃんとした芯のある物語。
 お話の筋そのものも、まるで童話か児童文学のような、とても心温まる内容です。総じて、ふわふわとしたゆるい雰囲気でありながら、でもしっかりと読み手の胸を打つ、まっすぐで優しいファンタジーでした。