ドラゴンカーのシー太

ももも

ドラゴンカーは空を飛ぶ夢を見るか

「将来の夢はなんですか」という質問に、周りの子がケーキ屋さんとか野球選手と答える中、僕は「ドラゴンカーに乗ることです」と答えていた。

 この世の中には数多あまたのアニマルカーがいるけれど、ドラゴンカーほど優美な車は他にはいない。

 太陽を反射してきらきら光るウロコは宝石のように美しく、大きな羽を広げて飛ぶ姿はまさに神の化身のようであった。

 物心ついた頃からアニマルカー図鑑のドラゴンカーのページをながめては、どんな乗り心地なのだろうと想いをせていた。


 でもいつの頃だろうか。

 夢が夢のままで終わるだろうと気づいたのは。


 学校で自分は特別優秀ではないと感じた時だろうか。

 模擬試験の結果を元に、学力に見合った志望校選びをしなくてはいけない時だろうか。

 働き始めて、これから生涯のうちに稼げる額が大体予想ついた時だろうか。

 漠然ばくぜんとした不安が、焦燥感しょうそうかんへと変わり、いつしかあきらめに変わっていった。


 そもそもドラゴンカーに乗るにはドラゴンカーを買わなくてはならない。

 けれどそんなことが出来るのは、この世界でたった一握りの人間だけだ。


 遥か彼方の空の上。

 龍の巣を超えた先にあるという、天空都市。

 王族、政治家、連邦高官、一流企業の重役、いわゆる世界の命運を決定する空人たちが住まう都市。

 そこへ辿り着くにはドラゴンカーが必要だ。

 つまり、ドラゴンカーを買えるほどの財力があることが空人になるための第一歩なのだ。

 この世界には2種類の人間がいる。

 ドラゴンカーを持つもの、持たざるものだ。


 僕は天空都市に行くためのチケットとしてドラゴンカーが欲しい訳ではない。ただ乗りたいだけなのだ。でも僕の手の届く範囲にドラゴンカーはいなかった。


 空を飛ぶなら色んな種類のバードカーがいるじゃないと言われる。

 ウロコがいいならヘビカーがいいわよとおすすめされる。

 そう言われるたびに、違うんだ、そういうことじゃないんだと思う。

 好きなことに理屈はない。

 けれど、いつしか僕はどこかでドラゴンカーに乗りたいと口に出すことを止めていた。




 それは、愛車ウォンバットカーのウォンくんのボディをブラッシングしていた時のことだった。

 ふと異常な音が聞こえてくるなと空を見上げたら、ゾウのような大きさの車がよたよたと蚊のように頼りなく飛んでいる。

 見た瞬間分かった。あれはドラゴンカーだ。空からドラゴンカーが降ってきた。

 親方! 空から女の子が!とか言っている場合ではなかった。

 このままでは地面に墜落ついらくしてしまう。


「あっちに池があるぞ!」


 ウォンくんの上に乗って大声で呼びかけると、ドラゴンカーは気づいたのか進路を池の方へと変更した。

 そうしてよろよろと降下していき、池へとザブンと着水した。


 ドラゴンカーは元気がないのか、池に浸かったまま陸にあがろうとしなかった。

 ウォンくんと一緒にボディを押して川から引き上げても、動こうとせず首を折り曲げ丸くなったままだった。

 これは専門家を頼らなくてはといつもお世話になっている、近所のアニマルカードクターのナカハラ先生に連絡すると、「ドラゴンカーだって!?」と言うや、ものの10分としないうちにワオキツネザルカー、通称ワオカーに乗って「WA~O~WA~O~!」とサイレン鳴らして飛んできた。


「低体温症だな。体を温めてあげればそのうち動きだすだろう」


 ナカハラ先生の指示通り、毛布でボディを拭いたり、湯たんぽをあててあげれば、ドラゴンカーは少しずつ動くようになり、やがて顔を持ち上げられるようになった。

 首をもたげてこちらを見下ろす姿に、僕は嬉しさでいっぱいだった。

 夢にまで見たドラゴンカーが目の前にいるのだ。


「ドラゴンカーだ! 始めて見た! でもどうして降ってきたのでしょうか?」

「えらく年季の入ったドラゴンカーだからな。もしかしたら不法投棄かもしれない」

「不法投棄!?」

「ああ、たまにあるらしい。足腰もかなり弱っているし、もってあと1年ってところだな」


 憧れのドラゴンカーを捨てるなんて信じられない思いだった。空人、許すまじ。そんなひどいオーナーにかわって僕が最後まで大切に面倒を見よう。

 そう言うとナカハラ先生はちょっと思案しあんげな顔をして、飼育がものすごく大変だから限界を迎えたらすぐに連絡をするに、と言って帰っていった。


 ドラゴンカーは空から降ってきたからシー太と名付けた。

 最初はシータだったけれど、名前をつけた後でナカハラ先生がオスだぞと言ったのでシー太だ。

 シー太は、プライドがものすごく高かった。

 こっちの言うことはまるで聞いてくれない。

 トタン屋根の簡易ガレージに入れようとしても、がんとして動こうとしなかった。

 顔に「こんな狭いところへ俺を入れるのか?」って書いてあるようだった。

 今日はこれから雨ふるぞ、また低体温症になるぞと言っても、ぷいとそっぽをむいたままで、雨が降り始めてようやく立ち上がりしぶしぶと入って言った。可愛げなんてありゃしない。


 そんなもんだからドラゴンカーに乗るという僕の夢も叶いそうになかった。

 一瞬だけ、一瞬だけでいいから乗せてよーとぐるぐる回りを回っても、ふんと鼻を鳴らされて終わりだった。

 それ以上しつこく言おうものなら「貴様に俺が乗せるだけの価値があるのか」と金色の瞳でジロリと睨みつけてくる。そうなったらスゴスゴ退散するしかなかった。


 草食なため、ご飯はウォンくんと同じイネ科乾草と果物でいいよとナカハラ先生の言葉に従ってあげてみると食べてくれた。でも他にないからだぞと言いたげな様子だった。空でどんなものを食べていたか知らないが、これで我慢してくれよ。

 アニマルカーたちの食費は3倍に膨れ上がったが、僕がもやし生活で過ごせばいいのだ。


 問題はウンコだった。

 体が大きいだけあってウンコの量もすごく、1日ネコ車10台分ぐらいあった。放っておくとガレージがウンコであふれてしまうので、朝4時と仕事から家に帰ってからの2回掃除することにしたのだが、これがとんでもなく重労働であった。


 ガレージ内のウンコを角スコップでネコ車にのせ、ウォンくんに庭に掘ってもらった穴に投げる。何度か往復してあらかたウンコが片付いたところでホースで水洗いをしてブラシをかけてまた洗うといった作業で2時間で終わればいい方だ。

 シー太は掃除している最中にもぶりっとウンコをするし、「下僕、このウンコを早く片付けろ」という態度だ。

 飼育する、というよりは飼育させて頂いているようだった。

 ドラゴンカーの飼育には専用飼育員を雇う必要があると図鑑に書いていたが、納得しかなかった。

 僕の体は慣れない作業にすぐに全身筋肉痛を訴え、腰も悲鳴をあげていた。

 ドラゴンカー飼育を始めて早3日。僕は限界を迎えた。



 ナカハラ先生に泣きつけば、思ったより頑張ったねと言って、アニマルカードクター学部の学生を数人よこしてくれた。

 彼らはシフトを組んで僕の出勤中に、かわるがわるドラゴンカーのお世話をしてくれた。


「ドラゴンカーなんて滅多めったにお目にかかれないですからねぇ。いい実地研修になります」


 学生たちをよろしくお願いします、と挨拶にきた学長がニコニコ顔で言った。

 なんでもナカハラ先生は僕がこうなるだろうと予想しており、あらかじめ大学と掛け合って色々と手配して、僕が音を上げるのを待っていたそうだ。

 ご飯の方も大学から融通ゆうずうしてもらえることになり、僕のもやし生活は終わった。

 最初からそうしてくれていたら助かったなぁとナカハラ先生にちょろっと言えば、初日に提案しても「僕が全部やります!」と却下きゃっかしていたでしょうと返され、まったくその通りですと言うしかなかった。


 僕がドラゴンカーを飼育しているという話は、いろんなところへ知れ渡っていき、学校帰りの小学生とか、近所のおばさんたちとか、アニマルカー愛好家とかが訪れ、日に日にガレージをのぞくギャラリーは増えていった。

 シー太は気にする様子はなく、寝ていることが多かった。子供がそこらへんでむしった草なんて絶対食べようとせず、給食のパンもまるで無視だ。

 ある男の子がシー太に手差しで食べてもらおうと、手をかえ品をかえ、りんごやみかんやパイナップルやマンゴーなどを持参したが、ことごとく惨敗ざんぱいしていた。

 それでも彼はめげずに通っていたが、ある日桃を持ってきたときに転機が訪れた。

 いつもなら、チラっと見て終わっていたシー太だったが桃を前に目の色がかわり、ググッと首を伸ばして男の子の手からぱくっと食べた時は、おお~と見ていた人たちの歓声が上がった。

 それから毎日、スキップしながら男の子は桃を持ってきてはあげていた。桃ってそんなに安いものじゃないだろう小遣い大丈夫かなと僕は心配していたが、よくよく聞いてみれば彼はお寺の子だった。

 お供えものの果物が結構あまっているそうで、その子の両親がいつもお世話になっていますと話にきた時に、週1回まとめてどっさり果物をもらえることになり、これには果物好きのウォンくんもニッコリだった。


 そのうちトタン屋根のガレージをもっといいものにしようと声があがり、日曜大工好きのお父さんたちが集まってカンカン工事が始まり、雨露をしのげただけの粗末なガレージは広々としたプール付きの豪華なものへと変貌へんぼうした。

 シー太は満足げな顔をしていたが、僕がニコニコしているとすぐに無愛想な顔に戻った。


 ドラゴンカーのウンコを欲しがる人も現れた。

 堆肥たいひにしたいとのことで毎日ウンコを持っていってもらえることになり、そろそろ埋める場所に困っていた僕には渡りに船で大いに助かった。ドラゴンカーのウンコでできた堆肥は作物の実りがいいと評判だった。なんでも植物をすくすく育てる未知の成分があるそうで現在、大学と共同研究中だそうだ。


 一番心配していたのが、ウォンくんとの相性だったが杞憂きゆうに終わった。

 初日こそお互いに警戒していたもののどんどんと距離が縮まっていき、今ではウォンくんがシー太のために掘った穴で一緒に昼寝している仲だ。微笑ほほえましい。


 僕の家はいつも誰かしら出入りするようになり、一人とウォンくん暮らしだった家はずいぶんとにぎやかになった。

 そんなこんなで僕のドラゴンカーとの暮らしは続いたけれど、シー太はウォンくん以外には誰にもなつこうとせず、寄るな近寄るなというオーラを常に発していた。初期に較べればずいぶんおだやかになったけれど、彼の境界に一歩でも踏み出そうものならば「GURURU……」と低い威嚇いかくうなり声を上げた。


 彼はよく空を見上げていた。

 あそこが本来、俺のいる場所だと言っているようで、その目は渇望かつぼうと諦めが入り混じった色をしていた。

 時折ときおり、バサバサと羽ばたくことがあったけれど彼の体が持ち上がることは決してなかった。


「彼はもう飛べないよ」


 ナカハラ先生の答えは、残酷ざんこくだった。


「どうしてですか?」

胸筋きょうきんがまったく足りない。一度飛べなくなって足で歩くようになったら、飛ぶための筋肉がすぐに衰えてしまうのさ。若ければリハビリでなんとかなったかもしれないが彼はもうご老体だ。無理だね」


 それでも空を見上げるシー太の姿に、なんとか出来ないかと思い悩んでいたら、学生の一人がここにいってはどうでしょうか、と、ある写真を見せてくれた。それだ。僕はすぐに計画を立てた。



「シー太、たまには遠出しないか」


 僕はシー太をピクニックに誘った。

 彼の体力では歩いて行けそうにない場所のため、ナカハラ先生から許可をもらってアニマルカー搬送車のレッサーカーを借りてきた。

 始めて見るレッサーカーにシー太は警戒心けいかいしんあらわにして唸り声を上げたが、ウォンくんが率先そっせんして乗り込み一緒に行こうよ、と誘ってくれたため、ものすごく嫌な顔をしながらも乗ってくれた。

 目指すは県内のとある海水浴場だった。



 ざざん、ざざんと波が打ち寄せる。

 海だ。シーズンオフのため人は他に誰もいない。

 シー太は海を始めて見たのか、波にかなりびびっていた。

 そういえば空には海はないだろうなぁとふふっと笑ったらギロリと睨まれた。でも、しばらくして慣れてきたのか、波打ち際でウォンくんとレッサーカーとはしゃいでいた。

 やがて日が落ち始めた。

 砂浜にできた潮だまりが鏡のように空を映し出す。

 目の前には、地上線を境に上下対称の空の風景が広がっていた。


 日本のウユニ塩湖と呼ばれるこの浜は天空の鏡と呼ばれ、幻想的な風景が見られると有名だった。

 あの写真のとおり、いや、それ以上の光景を前に、僕は言葉をなくして見つめていた。

 シー太はどうだろうかとそっと見ると、彼はしばらく立ち尽くし、やがて浜へと歩き出した。 

 シータの羽が広がる。

 水面が揺れ、空がかき消え、また戻る。

 空がなくならないように、ゆっくりシー太は歩く。

 その姿は地上の空を飛んでいるようだった。

 彼の瞳から一筋の涙が流れた。二度見した時には澄まし顔だったけれど、見たことのない穏やかな瞳で歩き続けていた。



 シー太との生活はいつも驚きに満ちて楽しかったけれど、ナカハラ先生が最初に言っていたとおり、そう長くは続かなかった。

 綺麗だった金色の彼の目は白く濁り、食べる量も少しずつ減り、骨が浮き出るようになっていった。


「もともとかなりの高齢だったからね。どんな生き物でも歳には勝てない。ドラゴンカーも同じだ」


 ナカハラ先生やアニマルカー学部の先生たちが交代でかわるがわる診察してくれたけれど、シー太の体調はどんどん悪化していった。

 あれだけ空を見つめていた目は、虚空こくうをさまようになった。

 時折はっと意識が戻るけれど、意識がどこか深いところへ落ちていく時間が多くなっていった。

 桃だけはいつまで食べていたけれど、それさえ食べなくなって、姿勢を維持することも難しくなり倒れたままヒューヒューと荒い息を続けた翌日、もう二度と彼の目が開くことはなかった。



 シー太が亡くなったと聞きつけた近所の人々は続々と集まった。中には僕が知らない人も結構いて、知らないところでシー太と関わった人がこんなにもいたんだなと驚いた。

 ウォンくんに掘ってもらった穴にみんなで運び入れて、彼が好きだった桃をいっぱいそえて、土をかけていった。

 僕は泣くのを我慢した。大人なんだ。人前で泣くなんてみっともない。

 どんどん土に埋まっていくシー太に、唇を噛み締めて耐えた。

 でも体のほとんどが埋まって、最後に彼の顔に土がかぶさって見えなくなった瞬間、僕はとうとう我慢できなくなって崩れ落ちた。

 ウォンくんも泣いていた。みんな泣いていた。お前、こんなに愛されていたんだって思ったらますます涙が止まらなかった。

 みんなが帰ったあとも空っぽになったガレージを見て、そっかあいつはもういないんだって思ったらまた涙がボロボロ出てきて、ウォンくんに抱きついて一緒にいつまでも泣いていた。



 その日の夜のこと。

 僕は夢の中で、ウォンくんとドライブしていた。


 そこへふわっと前方にどでかい何かが舞い降りた。

 シー太だった。

 そっか、お別れに来たんだなってすぐに分かった。

 いつでも好きな時に飛べるようになったんだね。

 死ぬまで頑固一本だったけれど律儀りちぎなやつだな、と思っていたら彼はその金色の目で僕を見つめ、助手席の扉を開けた。


 どれだけ頼んでも固く閉じたままだった扉。

 それが今、僕のために開かれていた。

 まったく予想していなかったことに驚いていたら、シー太はふんと鼻を鳴らした。

 ぐずぐずしていたら閉めるぞ、そう言っていた。


 ウォンくんを背中に乗せてもらい助手席に乗り込むと、誰もいないはずの運転席のアクセルが踏まれ、ふわっと体が浮いたと思った次の瞬間には空を飛んでいた。

 外を見ればいつもより距離が近い月がまんまると輝き、下は星の海が広がっていた。

 夢にまで見た光景だった。

 いや、夢だけれど、これは夢じゃないんだ。空のドライブは幻想的でとても美しかった。


「GURUUUUUUAAA!」


 シー太が吠えた。

 ビリビリと力強い鳴き声に、僕は楽しくなって負けじと声を上げた。




 地上に降り立つと、さっさと降りろと言わんばかりに扉が開いた。


「夢を叶えてくれてありがとう、シー太」


 僕が言うと、シー太はいつもの無愛想な顔をして背中を向け、バサッと羽を広げて空へと飛んでいった。

 去りゆく背中に、シー太の運転席に誰かが乗っているのが見えた。

 顔はよく見えなかったけれど、彼は窓からこちらに向けて手を大きく振ってきた。彼らの姿が見えなくなるまで僕は手を振り続けた。





 シー太が亡くなってから初盆はつぼんを迎えた。

 シー太、夢にまた来てくれないかなと思っていたらピンポーンと呼び鈴が鳴った。

 今日は、いろんな人が線香をあげにきていた。次は誰かなとのぞくと、髪が紫色でいかにもマダムといった見知らぬご婦人が立っていた。


「あなたがあのお墓のドラゴンカーを飼育していた方ですか」

「えぇそうですが」

「実はそのドラゴンカーは昔、私の夫が飼育していたの」


 話によると、シー太の本来の飼い主であった彼女の夫は、2年前に亡くなったそうだ。

 でもいくら彼女が言い聞かせてもシー太は彼が死んだことを理解しようとせず、姿の見えなくなった飼い主を探して飛び回り、ある日を境に帰って来なくなった。そのため今までずっとシー太を探していたそうだ。

 そっかお前、捨てられたんじゃなかったんだな。

 そういえば乗せてもらったのも助手席だった。あの運転席にはお前のご主人さまが乗っていたんだな。

 よかったな、あっちで会えて。

 でもお前なんて足元にも及ばないなんてシー太に言われているようで、ちょっとだけ悔しいぞ。


「でも、どうしてここだと分かったのですか?」

「この写真を見たの」


 ご婦人がスッと取り出したのは、あの浜の写真だった。


「二人がね、色んな世界を飛び回っている夢を見たの。中でもここの写真の浜ではね、二人して楽しそうにずっと遊んでいたのよ。よっぽどお気に入りの場所だったのね。だから、この付近にいるに違いないって。そうしたらあの子のお墓を見つけてね」


 その言葉を聞いて僕の涙腺は崩壊した。

 奥様はハンカチを貸してくださったが彼女の目も潤んでいた。

 そのあとは彼女とシー太の話で盛り上がって、僕の知らないシー太の色んな一面を教えてもらったり教えたりした。彼女はシー太のお墓にお花を捧げると、空に帰っていった。



 シー太。

 今頃、大切な人を乗せて世界一周をしているんだね。またここに立ち寄ってくれると嬉しいよ。

 ウォンくんと一緒に、お前の好きな桃を用意して待っているぞ。


 僕はシー太のお墓の前で手を合わせ、今はどこら辺を飛んでいるんだろうなと空を見上げた。

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