第二章 〜逢坂深雪と秘密の一日デート〜

第15話 逢坂深雪は人気者


 逢坂深雪は校内ではわりと、というかかなりの有名人である。


「生徒会の逢坂先輩ってうちのクラスの逢坂の姉貴なんだよな」


「ああ」


 朝の集会で壇上にて堂々たるスピーチを繰り広げたのは生徒会長。そしてその横で補佐していたのが生徒会副会長の逢坂深雪である。


「美人だよなあ、副会長。お近づきになりたいもんだぜ」


「声かければいいじゃないか」


「バッカ野郎! 副会長っつったら高嶺の花の象徴みたいなもんだぞ。俺達下々の人間が話していい相手じゃないんだよ!」


「……別にそんなことはないと思うけど」


 深雪さんのことを何だと思ってるんだ。

 ちなみに、俺と深雪さんは知り合いではないというスタンスで話している。

 それは曳いては紗月との同居を秘密にすることに繋がっている。俺と深雪さんが同居していることがバレれば必然的に俺と紗月が同居していることが露見する。


「あるんだよ! お前あの人がどれだけの人気を誇ってるのか知らねえのか? 密かにファンクラブまで設立されているんだぞ」


「そうなのか?」


「ああ。自分の身分もわきまえずに話しかけるような野郎がいたらファンクラブの奴らが黙ってないぜ」


「こわ」


 さすがに冗談だろうけどさ。

 しかし、深雪さんにファンクラブなんてものがあったとは。美人だし優しいし気さくだし、人気があるのは分かるけどな。


「副会長と話していいのは会長さんだけだぜ」


「それは許されるのか……」


 一つ。

 俺は大きなミスを犯していた。

 そのことを俺はこの一ヶ月近くの間ずっと忘れていたのだ。どころか、あの紗月でさえも失念していた。

 そのことを俺は昼休みに思い出すことになる。


「だだだだだだ大ニュースだ!」


 昼休み早々に翔助が騒がしい。

 ああまたあいつが騒いでる、程度に周りに思われるようになった翔助が可哀想。


「どうしたんだよ」


 昼飯をどうしようかと考えていた俺の前まで来て息を整えた翔助は表情を歪めながら顔を近づけてくる。

 近えよ。


「あの副会長が我がクラスに来られた!」


「はあ」


 深雪さんが?

 ちらとドアの方を見ると確かに深雪さんらしき人影がある。


「このクラスの妹に用でもあるんだろ」


「そう思ったけど逢坂は教室にはもういない」


 教室内を見渡すと確かに紗月の姿は見えない。既に昼飯の調達にでも行ったのだろうか。


「入れ違いになったんじゃね」


「そうなのかな。こんなしけたクラスに副会長が来てくれるのは、妹がいるおかげなんだな」


「間宮くーん!」


 テンションの高い翔助に呆れているとドア付近からクラスの女子に呼ばれた。


「呼ばれてるぞ悠一。何やらかしたんだ?」


「なんでやらかした前提なんだよ」


 とはいえ覚えはない。

 何だろうかと思いながら向かうと、俺を呼んだ女子は深雪さんと一緒にいた。


「なにか?」


「副会長さんが呼んでるよ」


「へ」


 用事があったのは俺だったのか。

 ちらと後ろを見ると、翔助を筆頭にクラスの男子から殺意の眼差しを向けられていたな


「あの、えっと」


「ごめんね急に押しかけちゃって。実はね――」


「とりあえず場所を変えましょうか!」


 そう。

 俺達が犯していたミス。

 それは、同居関係を内緒にするということを俺と紗月の間だけで話していたこと。

 学年が違うというもあってすっかり忘れていたのだ。


「あの」


 教室から少し離れた階段の踊り場で周囲に人がいないことを確認してから言う。


「ん?」


「ご用件は?」


 俺が聞くと深雪さんはぽかーんとした顔をしている。そして、にこりと笑って口を開いた。


「えっとね、たまには悠一くんとお昼を食べようかなと思って」

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