第10話 二人きりの休日


 ゴールデンウィーク二日目。

 朝早くに深雪さんと紗月を見送ったあと、二度寝をかました俺が目を覚ましたのは昼前だった。


「……」


 さすがに結構寝たので自然と目が覚めて、ゆっくりとまぶたを開くと見慣れないものが視界に入ってきたので俺は言葉を失った。

 見慣れないもの、というか本来そんなところにそれはないだろうというもの。

 普通、目を覚ますとまず視界に入るのは天井とかだろ。


「あ、やっと起きた。おはよーございます。悠一さん」


 少なくとも、女の子の顔はないよな。

 目の前にはにたーっと笑った花恋ちゃんの顔。

 俺はまだ頭が仕事を始めていないので状況の理解に時間がかかる。


「えっと……」


 どういうことだ?

 俺はまず何を言うべきなのだろうか、と思ったけどとりあえず言うことはあれか。


「おはよう?」


 人としては正解だけど、たぶん状況的には間違いだ。


「いい朝ですよ。お出掛け日和です」


 にこりと満足そうに花恋ちゃんは笑う。

 彼女は俺の顔のすぐ横に座っていて俺の顔を覗き込んでいた。なので目を開いたらその瞬間にばっちり目が合ったのだ。


「ところで一ついいかな?」


 言葉を交わしてようやく回り始めた脳が状況の把握を要求してくる。


「なんですか? 一応言っておくと今日の下着の色は白ですけど」


「そうじゃない。今それに対して正しいリアクションはとれないよ」


「じゃあなんですか?」


 なんで、それ以外にあります? みたいな顔できるの? 逆にそんな発想微塵もなかったわ。


「なんでここにいるの?」


 ここ俺の部屋ですよ?

 間違って入ってきたにしてはしっかりと腰を下ろしているのでおかしい。

 そんなことを考えながら俺は体を起こす。それに合わせて密着レベルに近かった花恋ちゃんは一歩分くらい下がった。

 なぜか彼女は正座だ。


「えーっと、どこから話せばいいのでしょう」


 むむむ、と悩むように花恋ちゃんは唸る。


「そこまで深い事情があるのなら、それこそ一からでいいよ」


「そうですか? では話しますと、朝に雪姉と月姉を一緒に見送ったじゃないですか」


「見送ったね」


「その後悠一さんは部屋に戻って、あたしはリビングで朝ごはんを食べました」


「そうなんだ」


「で、何しようかなーとか思いながら適当にテレビのチャンネルを回したり録画を漁ったりスマホをいじったりしてたんですけど、ふと思ったんですよ」


 花恋ちゃんはぱん、と優しく両手を重ねる。


「悠一さん何してるかなって」


「はあ」


「で、ここに来たんです。そしたら気持ちよさそうに寝てたから起こすのも気が引けて……」


「ずっと見てたと?」


「ずっとじゃないですよ。とりあえずえっちな本の捜索を始めたりしてからです」


「余計に質が悪い!」


「残念ながらお宝は見つからなかったんですけど」


 ほんとにめちゃくちゃ残念そうだ。俺の部屋からエロ本見つかる方が残念だろ。気まずいわ。


「どれくらいいたの?」


「んー、たぶん一時間くらいですよ」


 よく寝ていられたな、俺。

 物音とかしただろうし、起きろよ。


「それで、ご用件は?」


「ん?」


「いや、ここにいたわけだし何か言いたいことでもあるのかなと思ったんだけど」


「ああ、最初に言ったじゃないですか」


「何言ってたっけ?」


 最初なんて寝ぼけていたからほとんど覚えてないんだけど。


「いい朝ですよ。お出掛け日和ですって」


「はあ、つまり?」


 俺が尋ねると、花恋ちゃんはふっふっふっと小さく笑ってから満面の笑みをこちらに向ける。

 そして、溢れ出る嬉しさの感情を抑えきれないような弾んだ声で言った。


「デートしましょう!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る