第9話 逢坂紗月の憂鬱②


「何にしますか?」


「えっと」


 なにこの状況。

 俺は紗月の誘いを受け、彼女について来た。黙ってついてきたらバーガーショップに到着した。


「じゃあ、ダブルバーガー」


 自分と俺の注文を店員に済ませ支払いを行う。それを見て俺が財布を取り出すと、静止の意の手をこちらに向ける。


「ここは払いますよ」


「え、でも」


 なんなの、なんで急に優しいの? さっきの一件で俺の株ぶち上がったのかな。だとしたら紗月どんだけチョロインなんだよ。


「気にしないでください。わたしの自己満足です」


「まあ、そういうことなら」


 奢ってもらえるならそれはラッキーだしな。断る理由もないだろ。おおかたさっきのお礼といったところで、まさかこのあと大金要求されるなんてこともないだろうしな。


「ごちそーさま」


 お腹も空いていたのでバーガーのセット程度はケロッと完食してしまった。余っていたドリンクをズズーと飲んでいると、紗月がこちらをじーっと見ていることに気づいた。


「なに?」


「食べ終わりましたね。それでは本題に入るとしましょう」


「なに? 本題?」


 何言ってんだろ。

 冗談やおふざけって雰囲気でもないし、そもそも紗月がそんなことしてくるとは思えない。

 しかし真面目な相談をしてくるとも思えないところ、本当に予想ができない。


「ええ。一つ、お願いがありまして」


「ええー」


 女子のお願いって時点でもう面倒事確定じゃねえの? その導入で女子が面倒事以外を持ってきた試しがない。


「お昼食べたじゃないですか」


「あれはさっきのお礼じゃなかったのか!?」


「わたしはそんなこと一言も言ってませんよ。あなたが勘違いしただけです」


「あの言い方はそう思うだろ……」


 嵌めやがったな。

 俺が勘違いすることまで想定してやがったな。まさか本当に高額請求でもしてくるつもりか?


「言っとくけど俺あんまり金ねえぞ?」


「別にお金は要求しません。というか、あなたはわたしにどんなイメージを持ってるんですか」


 はあ、と呆れるように溜め息をつく紗月。

 まあ金じゃないからいいか。ここで紗月のポイントを上げておくのは悪いことではないのだし。


「仕方ない。俺にできることなら聞いてやる」


「このあと、一時間で結構ですので買い物に付き合ってください」


「へ?」


 思いがけない提案に、俺は思わず間抜けな声を出してしまう。


「いや、だから」


「違う、要求自体は分かったけど、まさかそんなこと言ってくるとは思ってなかったから驚いただけだ」


「それで、付き合ってくれますか?」


「……それくらいなら」


 俺はこれから紗月ルートにでも入るというのか? 昨日まで好感度全然だったのに、何があったの? 実は好きだったけどっていうツンデレオチか?


「助かります」


 交渉成立、ということで俺と紗月は再び商店街へと戻った。


「で、俺は荷物持ちでもすればいいのか?」


「いえ、そこにいてくれるだけで大丈夫です。何ならわたしの私物には触れないでください汚れますので」

 

「一言二言多いな」


 好感度全然上がってねえじゃねえか。


「男の人と一緒に歩いていれば、さっきのような人達に絡まれることもないでしょう?」


「ああ、そういうことね」


 ナンパ避けってことか。

 確かに女の子一人で買い物してるよりはよっぽど声はかけにくくなるだろう。

 そうとう嫌だったんだなあ、さっきの連中のこと。

 これで俺には気を許してるっていう展開なら萌えるのに、あくまでも俺のポジションがクソ野郎に比べればマシっていうところだから悲しい。

 それでも、ナンパ避けに使ってくれる程度には心を開いてくれているのだし、ここは素直に喜んでおこう。

 一歩前進だろう。


「どうしてもと言うのなら荷物持ちくらいはしてくれてもいいですよ? これから、明日の旅行に向けての買い物をするので」


「ええーたぶんだけど荷物多くなるやつじゃん」


 結果。

 多かったし大きかったし、重かった。

 これ俺がいなかったらどうしてたんだろうか、と心配になるくらいの荷物を持たされた俺だったとさ。

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