第8話











 あの時「分からない」って言ったけど、本当は知ってるのよ。でも、菜々星には言えなかった。余計心配したり、ガッカリするんじゃないかって。


―――余命、5か月です。


 そんなこと医者に言われたんだもの。信じられないでしょ……余命宣言なんて。


 菜々星の寝顔を見ながら考える。もっと、もっと、好きな事やらせてあげればよかった。もっと健康な、目の見える子に産んであげればよかった。もっと幸せな生活を送らせてあげれば良かった。……もっと、もっと。溢れる涙を拭かず、寝ている菜々星の手を優しく包み込む。 


「ごめんね……本当に……」


 それから数日後、急に菜々星の周りにある機械たちが一斉に鳴り出した。聞きたくないほど緊張するその音を聞きつけた医者や看護師たちが病室に続々と入ってきて、菜々星に何やら治療している。今度は何なの? 菜々星は大丈夫なの?


「先生! 菜々星は、菜々星は大丈夫ですか!?」

『お母さんは病室の外で待っていてください』


 そうやってみんなに押されて、私は病室から出た。また溢れ出してくる涙を口を手で抑えた。病室に残っていたデイジーのささった花瓶だけが白く輝いていた。













 俺は菜々星との約束を守ろうとしてバスケを必死に練習した。たまたま転校した高校がバスケの強豪校だったので、俺は悩まずバスケ部に入った。顧問からは才能があると言われ、すぐにレギュラーになった。でも周りの人たちは強い人ばかりで、休んでいる暇なんてない。


 一か月後の全国大会決勝に出ることになった俺は、菜々星との約束を達成するチャンスのその試合に向けて必死に必死に練習した。毎日、毎日、気が狂う程。





一か月後。


 今日は大事な試合の日。朝から体が震えてる。緊張のし過ぎだ。それに気づいたメンバーたちは俺の肩を叩いたり、「リラックス!」と言ってくれたりした。菜々星のために、菜々星のために……約束を守るんだ。


 試合開始早々、俺らのチームはリードしていた。その差15点。このまま行けば優勝できる!


 だが、試合中盤。相手チームに大きな得点差を付けられてしまった。チーム全体に焦りが出て来た。このままだと完全に負けてしまう。菜々星……応援してくれ。


 試合終盤に差し掛かったころ、俺らのチームはあと少しで逆転勝利できるところにいた。だがなかなかその1ゴールが出来ずにいた。そして、試合時間……残り1分。


「ヤバい、このままじゃ負ける」


 俺らの仲間がボールを繋いでいく。ゴール付近で待機している俺はボールを待っていた。取られたり、取り返したり……ボールが行ったり来たりしている。残り20秒を切った。


「パス頂戴!!」

俺はそう叫んだ。


『仁っ!!』

誰かがそう言って、僕にロングパスを渡して来た。


……今だ!


 飛んできたボールを見事キャッチした俺はボールまで急いだ。タイムを見たら、あと……


「5秒!?」


 もうシュートするしかない! そう決めた俺はイチかバチか、ゴールに向かってボールを―――投げた。会場には試合終了のアラームが鳴り響く。得点は―――


「69対71……勝った!!」



 メンバーたちが抱き合いながら喜ぶを分かち合っている。良かった……。菜々星、やったよ。約束、達成したよ! 菜々星。俺は、喜んでいるみんなの元へと走り寄っていった。









2か月後。


 俺はまた転校になった。俺は生涯何回転校するんだろう。でもいい、今回は俺の大好きな人が待っているところに戻れるんだから。


 俺は空港から出た瞬間、ある所をめがけて走った。そこはもう決まっている―――菜々星がいる病院だ。


602、603……604。ここだ。


「菜々星!!」


 俺は叫んで病室に入った。でも、俺が望んでいた彼女の姿はなかった。


「菜々星……?」


そこは誰も居ない空っぽの病室だった。


「あの……604号室に居た、菜々星って言う人は何処にいますか?」と俺は、近くにいた看護士さんに聞いた。


『あ……あの子ですか?』と看護士が言った。『あの子は―――』









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