第4話
5月17日。
『仁くん、学校楽しい?』
突然、菜々星が仁に訊いてきた。
「うん、まぁまぁかな。部活は少し休めって顧問の先生に言われてて全然できないし」
『部活……仁くんは何部?』
「俺は、バスケ部だよ」
『バスケ? バスケって何?』
その言葉に俺は、開いた口が塞がらなかった。バスケを知らない人がいたとは……。
「バ、バスケは、えーっと……」
いつも大好きでやっているバスケでも、分からない人に教えるのは初めてだ。どうやって教えよう、と考える。菜々星は目が見えないから口でしか説明出来ない。ただルールをマシンガンのように連発するのもどうかと思うし、かと言って簡単に説明するのはそう簡単ではない。ふと自分の手元を見る。奇跡的にバスケットボールを持っていた。俺は、部活帰りでは毎日バスケットボールを持ちながら帰っている。
「バスケットボールを地面に叩きつけながら相手ゴールに入れるゲームだよ」
『ボールを地面に叩きつけるの?』
「そうだよ、こういう風にね」
仁はその場でドリブルをやってみせた。菜々星の病室にバスケットボールの音が鳴り響く。
『わぁ、いい音』
「だろ?」
菜々星の顔には満面の笑みが浮かび上がる。それにつられて仁はもっと高度なドリブルを披露する。
『私、この音好き』
菜々星は仁にそう言った。
結果、俺はその場にいた看護士さんに怒られた。他の患者さんもいるのでやるなら外でやって下さい、と。確かにそうだ。あんなドリブルの音を病室中に響かせていた俺が悪い。次からは外でやろうと、しっかり反省をした。
でも、俺が看護士さんに注意をされている時の菜々星のクスって笑った顔が、今まで見てきた笑顔の中で一番可愛かった。
それから俺は毎日菜々星にドリブルの音を聞かせた。菜々星は生まれて初めて聞いたドリブルの音に感動して以来、暇があれば『ドリブルして?』と頼んでくる。もちろん、病室ではなく外の中庭でやっているけど。
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