習作220214 恋人たちの日

「へへっ、オトコオンナは、今日が何の日か知らないだろー」


 もちろん、知ってる。

 デリカシーのないコイツに言われなくたって知ってるし、何週間も前から、デパートの特設コーナーで迷ってきた。

 昔からコイツは、ずっとそうだ。人の気も知らないで。


「知っててもアンタにあげるものなんかないですよーだ」


 何年もずっとそうだ、わたしは、素直になれない。

 今年こそはと意気込んで、湯せんしやすい混ざりものがないチョコレート板を3枚買った。2枚は、練習用だ。

 だけど結局わたしは、今年もしり込みしてしまい、本番用の1枚で手作りチョコを作れない。


「ところで、晩メシ何? いい匂いだけど」

「ビーフシチュー。明日、試合でしょ?」

 そういって、たっぷりのビーフシチューが入った鍋を、二人の間に置く。


「やりぃ! これ、いつものより美味いな。ありがとよ」

 こういうときに、半分だけ気づくから、コイツは、ずるい。

 どうせなら、何を隠し味にしたかまで、気づけばいいのに。


 コイツは、いつもより速いペースで食べ終わると、席を立ち、顔を背けて言った。

「ホワイトデー、楽しみにしてろよな」


 顔は見えないけど、どんな顔をしているか、わかった気がした。

 わたしと同じ顔だ。

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