第26話 治験

 燻製肉ができるまで、オレの生活はいつもの通りメビアーヌに魔法を教える日々であった。


 メビアーヌの要素は治癒系だ。もちろん、攻撃系も教えはするが、町の中にいては小さな攻撃しか教えられない。精々、小さな水を出したり風を起こさせたりくらいだ。


「先生、最近頭痛や足が痛くて」


 治癒魔法の訓練に近所のばーさんをお呼びし、治験に協力してもらっている。


「メビアーヌ。視てみろ」


「はい」


 ステータス魔法は鍛えていくと、病状もわかってくる超優秀な魔法なのだ。


「……ここに血栓があります……」


 オレもステータス魔法で視ると、首の血管に凝固した血があった。


 人の中にはたくさんの血管が走り、細い血管、太い血管かあり、すべては心臓へと繋がっている。


 これは王から教わったことで、治癒系魔法に優れた者らで人の体を調べ、いろいろと言葉にできないことをして治癒魔法の向上に勤めた。


 オレは治癒魔法にあまり要素がなかったので、繊細なことはできない。が、このくらいならメビアーヌでも治療できるだろう。


「メイアばーさん。これは治療したら治るものだが、メビアーヌがやる。まだ未熟なメビアーヌだから失敗する恐れもある。それでもいいかい?」


 失敗させないようにはするが、それでも絶対はない。だから治療する前は本人に承諾をもらうようにしているのだ。


 もちろん、承諾は記録に残す。王の命により治験や魔法実験は本人の承諾を得ることになった。もちろん、虚偽は重罪。ちゃんとステータス魔法を得た者なら承諾したことがわかるので隠すこともできないさ。


「メビちゃんのためになるならこんな年寄りの命くらい惜しくないよ」


「病気を治すんだから命を粗末にするんじゃないよ」


 矛盾かもしれないが、こちらは治すつもりでやるんだから患者も治るつもりでいて欲しいもんだ。


「メビアーヌ。命は重いものと心に刻み、治すと心に決めて挑むんだ」


 これも矛盾だな。敵とは言え、多くの命を奪ってきたんだからな。


「は、はい」


 矛盾は一生つきまとう。だが、それと向かい合っていくのも魔法使いの宿命。逃げるような者は魔法使いとして失格と知れ、だ。


「メイアさん。やりますね」


「気負わずおやり」


 戦争を乗り切ったばーさんは肝が据わっている。


 ゴクリと唾を飲み込み、血栓ができている首の血管に魔力波を一点に集中させた。


 血栓は細い上に弱い。力をかけすぎると波で血栓を損傷してしまう。ステータス魔法(透視的感じになる)で血栓を把握して、血栓だけを破壊する魔力の波をぶつける。未熟なメビアーヌには激しい消耗を強いられいることだろう。


 オレもステータス魔法でメビアーヌの魔力波が強くならないかを見張り、なんとか血栓を破壊できた。


 血管に損傷はなし。腫れもなし。年寄りだから血流はよくないが、年相応には流れ出した。


「ご苦労さん。成功だ。休んでいろ」


「……はい……」


 返事するのもやっとな感じで席を立って、長椅子へと移って寝込んでしまった。


「メビちゃん、大丈夫かい?」


「大丈夫だよ。ただ疲れただけだから」


 ステータス魔法に魔力波にと、膨大な魔力を使うより極小の魔力を使うほうが精神力を使うもの。まだ未熟なメビアーヌには気持ち悪くなるほど参っているだろうよ。


「メイアばーさん。治療は成功したがしばらくは安静だ。激しい動きはするなよ。これは協力金だ」


 治験なのでこちらから金を払う。これも王の命であり、世間に知らしめるためでもあるそうだ。


「いつもすまないね」


「お世話になってるのはこっちだよ」


 メイアばーさんが帰り、オレも一休みする。


「リオ夫人。葡萄酒をお願いします」


「はい、お茶ですね」


 今日も今日とてリオ夫人の難聴は絶好調である。


 美味しい美味しい紅茶をだき、一息つく。あー酒飲みてー!


「メビは大丈夫なのですか?」


 ぴくりともしないメビアーヌを心配そうに見るリオ夫人。いつもは疲れただけだが、今回は集中力が必要ににる治験だったので疲れもひとしおであろう。


「まだまだ未熟なだけですよ。もっと難しい魔法もありますからね」


 オレが経験した中で難しかったのは心臓治癒。心臓に刺さった金属片を取り除く治療だったっけ。何人かでやったが、オレ一人では死なせていただろうよ。


「メビアーヌは才能がありますからね、あとは数をこなせば鼻歌混じりにできるようになりますよ」


 本当はオレじゃなくリュリューゼル辺りに預けて勉強させるほうが伸びるんだがな。言っても聞かないだろうよ。


 と、来客の鈴が鳴り、孤児院のガキが二人やってきた。


「タジーさんより伝言です。燻製肉ができたので一度ミドニッグ商会の工房まできてくださいとのことです」


 お、もうできたか。仕事が早い商会だ。


「少ししたらいくと伝えてくれ」


 タジーから駄賃はもらっているだろうから、リオ夫人にクッキーを渡してもらって駄賃とした。


「「ありがとうございます!」」


 嬉しそうに戻っていく二人。ミレアナの教育の成せる技かね?


「メビアーヌ。立てるか? 立てるなら顔を洗ってこい」


 厳しいようだが、これも魔法使いとしての修業だ。無理にも慣れておかなければここぞと言うときに動けない。ふんばれ、だ。


「……はい。顔を洗ってきます」


 そのことは常々言っているので、メビアーヌも泣き事言わずに洗面所へと向かった。


 オレも出かけ用意を済ませ、気持ち、復活したメビアーヌを連れてミドニッグ商会の工房へと向かった。

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姫様が騎士になりたいと家にやってきた。いやオレ、魔法使いね! タカハシあん @antakahasi

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