第25話 人生は妥協の産物
「──と言うわけだ。だから、タジーが家を空けることは多くなるだろう。悪いが、パルミラさんたちで助けてやってくれ」
「なに言ってるんですか。息子と娘たちを助けるのは母親の役目ですよ。息子が家族のために働くんだから反対なんてしないよ」
転職することも家を空けることも反対しないか。理解ある母親でなによりだ。
「でも、タジーに商才なんてあるんですか?」
「そこは学んでいくしかないな。なに、商才がないならあるヤツを雇えばいい。纏め役として仕切るならタジーに向いてるからな」
人付き合いもいいし、今回の鹿狩りでガキどもをよく纏めていた。商才はともかく統率力はあった。隊商なら商才よりそっちのほうが大切だろうよ。
「何日か後にバンブルトの街にいく。なにかあればリオ夫人かミレアナに助けを求めてくれ」
リオ夫人は家周辺の纏め役みたいな立場で、オレの繋ぎとしていろんなところに顔を出してもらってるから、声をかけたら滅多なことでは断れないだろう。
ミレアナは言うに及ばず。魔法使いとさはては権威と権力は持っている。町で逆らえるのは数人だけだろうよ。
「はい。わかりました」
「先生。話が終わったら娘たちに顔を見てやってくださいな」
と、パルミラさんがやってきた。
「そうだな。しばらく見てなかったな」
確か、妊娠がわかったとき以来か? あまりくる用もなかったしな。
居間的なところにいくと、ミレアナがリズの腹に手を当てて胎児の具合を診ていた。
「母子ともに順調よ」
ミレアナも治癒系魔法を学んでおり、妊娠を何十人と診てきた。その診断法も確率してきたので間違いはないだろう。
「それはなにより。お前たち、産まれるまで油断するなよ」
オレも診断できなくはないが、やはり診るのは女のほうが安心される。知識だけは忘れないようにはしてるよ。
「はい、先生」
代表してファニーが答えた。
「先生。タジーはちゃんとやってますか?」
「ああ。お前らを守るためにちゃんとやってるよ」
「浮気とかしてない?」
「あはは。これ以上、女を囲ったらタジーは干からびるよ」
「下品よ!」
問われたから答えたのにミレアナに小突かれてしまった。
「ふふ。親父臭くなるとメビに嫌われるよ」
「そうそう。先生だってまだ若いんだから親父臭くなるとモテないよ」
「今さらモテても嬉しくないわ」
周りすべて女ってのは、周りすべて敵より厄介だな。まあ、家でもそうだけど。
「とにかく、お前たちは産まれてくる子供のことだけを考えていろ。タジーの子を元気に産んでくれ」
リオ夫人も楽しみにしている。元気な赤ん坊を見せてやってくれ。
「んじゃ、オレは帰るよ。家で酒が待っているからな」
鹿狩りで我慢して、もう限界である。今日は飲むぞ、ゴラ!
「待ってるのはメビとお義母さんでしょ」
「まったく、先生はお酒が絡むとダメ親父になるんだから」
「またメビに怒られるよ」
まったく、どいつもこいつもうるさいんだから。酒くらい好きに飲ませて欲しいぜ。
って言ったら全方位から説教がくるのでグッと我慢した。
「ライラーさん。こいつらに説明頼むよ」
「はい、わかりました」
またなと、居間的な部屋から出てタジーの家をあとにした。
「またね」
ミレアナも出てきたようで、家の前で別れた。
ミドミにいきたいところだが、バルバリアで仕入れた葡萄酒が待っている。早足で我が家へと帰った。
「ただいま。リオ夫人。ツマミをお願いします。あと、葡萄酒を冷やしててください」
異次元庫から酒樽を出して、樽置場に設置した。葡萄酒は料理にも使うので、専用の置場が厨房にあるのだ。
「はい、わかりました」
すぐに飲みたいが、まずは旅の汗を流すとしよう。オレは酒の次にサウナが好きなのだ。
サウナへと入り、たっぷりと汗を流した。
水を被り、身を引き締め、布着を纏ってサウナから出ると、リオ夫人がよく冷えた葡萄酒を出してくれた。
感謝もそこそこに杯を受け取っていっき飲み。
「かー! オレはこの一杯のために生きている!」
「安い人生ですね」
「人生の価値を決めるは自分自身。他人に決められるものではないのだよ、メビアーヌくん」
それが我が人生。我が道である。
「リオ夫人、お代わりをお願いします!」
「はいはい」
はいは一回ですよ、リオ夫人。
席につき、用意してくれたツマミをいただく。あー美味い。
「あ、リオ夫人。オレらがいない間、タジーの嫁さんたちを頼むよ。まあ、なにもないと思うが」
嫁の母親に遠慮してタジーの家にはいってないみたいだが、産まれてくる子はリオ夫人の孫。少しはかかわりたいだろうよ。
「はい。わかりました」
気持ち、嬉しそうなリオ夫人。と言うか、三十代で孫ができるってどんな気持ちなんだろうな? 独身男には想像もできんわ。
「あ、メビアーヌ。酒屋から空瓶を買っておいてくれ。魔法の鞄に何本か入れておきたいからな」
「わかりました。何本かですね」
素直に了承したメビアーヌにハッとする。
「訂正! 四十本ほど買ってきてください!」
クソ。危うくメビアーヌの罠に嵌まるところだった。
「……わかりました。二十本ですね」
いや、四十本って言ったよね! とは言えない。下手に言うと数を減らされそうなので。
「ああ、二十本でよろしくお願いします」
人生とは妥協の産物である。ミドロック・ハイリーより……。
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