第17話 ミレアナ

 能力開化の儀式は無事成功した。


「体調はどうだ?」


 体質によって気持ち悪くなったりして、吐いたり気絶したりするのだ。


「……なんか体が熱いです……」


「それは魔力が活性化してる証拠だ。直に収まるよ。気持ち悪いとかはないんだな?」


「は、はい。サウナ上がりみたいな感じです」


「それなら問題なしだな」


 能力開化の儀式は発動させる側の技量が物を言うが、受け手にも資質を求められる。魔力循環が劣っていたり魔力量が不足してたりな。なにもなければメビアーヌは魔法使いとして名乗っても問題ないってことだ。


「メビアーヌ。お前はまだまだ未熟であるし、オレの弟子ではあるが、今この時から魔法使いと名乗ることを許す。今後も精進して魔法を求めろ」


 弟子は弟子。見習いは見習い。それに変わりはないが、魔法使いとして舞台に上がったのだ。ならば、魔法使いとしての矜持を持たなければならない。お前自身の矜持を、な。


「……は、はい。魔法を求めていきます……」


「よし。では、瞑想してステータスを体に馴染ませろ、急に使うと魔力欠乏になるからな」


「わかり、ました」


 地下室の端に移動し、絨毯に胡座をかいて瞑想し始めた。


 用意していた水差しを取り、そのままいっきに飲み干した。


 はぁー。やはり、一人で能力開化の儀式は疲れるわ。やはり、ミレアナ辺りに手伝わせればよかったぜ。


 メビアーヌの瞑想が終わり、先に上がらせる。魔法陣を消さなくちゃならん。ステータス魔法は悪用されると面倒だからだ。


 消してから上がると、昼を過ぎていた。


 ……半日以上かかったか。久しぶりだから結構かかったな……。


「先生、食事になさいますか?」


「ああ、頼みます。あと、葡萄酒をお願いします」


 そうお願いして、崩れるように椅子に座った。自分で思うより疲労してるな……。


 今回は聞き間違えることなく葡萄酒を出してくれたリオ夫人。感謝してラッパ飲みする。


「プハー! 旨い!」


 一仕事終えたあとの酒はなによりの回復薬だぜ!


「随分と長く籠っていたな? そんな大仰なことなのか?」


「それは魔法使いだけが知っていればいいことですよ。ステータス魔法は国が認めた者しか使うことは許されませんからね」


 正確には定められてないが、ステータス魔法の汎用性を知れば規制はする。相手の情報を丸裸にできる魔法があるなんて知られたら魔法使い排除の動きが出るかもしれない。


 知られたくない情報は世に出さない。卑怯なんて甘酸っぱい罵りなんて聞きたくないからな。


「魔法使いは秘密ばかりだな」


「秘密を守れないバカは魔法使いになれませんからね」


 仮にバカがなったとしても他の魔法使いに排除されるまで。魔法使いは冷徹に無慈悲で敵を排除する生き物なのだ。


「父がミドロックを求めるはずだ」


「王の側にはもう優秀な者がいますよ」


 あの戦いで生き残った優秀な者はいる。いないのなら育てればいい。それが王とともにいる者たちの役目だ。


 食事をしていると、家うちにミレアナがやってきた。


「お邪魔するわ」


「いらっしゃい。お前が家にくるなんて珍しいな?」


 ミレアナが家にきたのは数回だけ。以前きたのは半年前くらいか? そのときは……なんだっけ? まあ、それ以来だ。


「孤児を大量に雇い入れるんだから、責任者として話を聞かなくちゃいけないでしょう。なのに、あなたはまったくこないんだから!」


「まあまあ、ミレアナさん。そんなところにいないで中へどうぞ」


「そうね。では、お邪魔させていただくわ」


 対応はリオ夫人に任せてオレは食事を続ける。あー旨い。


「この魔力の残照、ミド、あなた能力開化の儀式をしたの?」


 ったく、間の悪いヤツだよ。普通の魔法使いならステータス魔法の残照なんてわからないのによ。


「ああ、したよ。メビアーヌもそれだけの力をつけたからな」


 やるやらないは師匠の判断。他からとやかく言われる筋合いはない。


「……あなたは、やる気がないのにやることはやってるんだから……」


 もっと適切な表現をしろや。聞く者が聞いたら卑猥に聞こえるぞ。


「メビは適合してるの?」


 静かに食事しているメビアーヌの頭をつかみ、ステータスを見ている。


 ……やはり、ステータス妨害魔法は必要だな……。


 魔法使い同士、魔輪眼を使うことは暗黙の了解で使わないようにしているが、他には容赦なく使う。まあ、オレもなのでとやかく言うつもりはないが、見られたくないこともある。妨害魔法を創っておくに越したことはないだろう。


「……完全に適合してるわ……」


 なぜか悔しそうなミレアナ。お前だって一人でできるだけの技量はあるだろうが。


「メビ。わたしのところにこない?」


「師匠の前で弟子を勧誘するとかいい度胸だな! メビアーヌはやらんわ!」


 弟子を取られるとか、魔法使いとして恥でしかない。オレの目の前でとか、決闘を申し込まれてるのと同じだぞ。


「あなただってわたしの弟子にちょっかいかけてたじゃない」


「あれは基礎を教えただけだろうが! 弟子に誘ったりはしてねーよ!」


 本当に決闘しにきたのか? それなら受けて立つぞ!


「ミレアナさんには申し訳ありませんが、わたしの師匠はミドロック・ハイリーだけです」


 メビアーヌ。よく言った。あとでお小遣いをあげよう。


「はぁ~。今日は諦めておくわ」


「一生諦めろ!」


 ほんと、お前はなにしにきたんだよ! 勧誘なら帰れや!

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