第16話 ステータス魔法
タジーが冒険所にいってる間にオレらも狩りへいく準備をする。
「お師匠様。買ってきました~よ」
地下室で魔法陣を書いていると、買い物を頼んでいたメビアーヌから声がかかった。
「あいよ。もうちょっとかかるから魔法の練習でもしてろ」
魔法陣は精神と魔力と集中力を必要とする。見られていると気が散るのだ。
朝から始めた魔法陣は、なんとか夕方には完成できた。
「魔導王の魔法は複雑で参るぜ」
あの戦いで魔導王の技術(魔導書)を大量に鹵獲できたが、わからないことばかりでオレも解読できて実行できるのは十もない。こんな数百年は先をいっている相手によく勝てたと思うよ。王がいなければ滅びていたことだろう。
「不思議な方だよな」
王はいったいどこであんなに知識を修めたんだろうな? そんな勉強している姿はなかったのに?
地下室から出ると、タジーがきていた。
「先生。依頼してきました。孤児院からは十三人出してもらえます」
「からは? 他にもいるのか?」
「はい。鹿駆除に他の冒険者も混ざりたいとお願いされたんです」
若いながらタジーは冒険者の間では一目置かれ、同年代からは兄貴分として慕われている。
……そのせいで嫁が三人にもなる悲劇が起こるんだから慕われるのも考えものだな……。
「そうか。まあ、多いほうが早く済んでいいだろう」
時間がかかると鹿どもに大事な葡萄を食われてしまうからな。
「リオ夫人。冷たい麦茶をください」
「先生って、酒以外も飲むんですね」
「飲むよ! お前はオレをなんだと思ってんだよ」
別にオレの血は酒が流れてるわけじゃねーよ。水も茶も飲むよ! いや、酒があれば酒を飲むけどさ……。
「酒飲み魔神」
ボソッと呟く愛弟子。言いたいことがあるなら人の目を見て言いなさい。オレは聞きたくないので目は合わせんがな!
「はい、先生」
リオ夫人だけが我が家の救いです。たまに難聴になるのは困り者だけど。
「なにしてたんですか?」
「鹿狩りにいく準備だよ。メビアーヌ。今日の夜からお前に能力開化の儀式をやるから身を清めておけ」
魔導王の技術の一つで、人に特殊能力を開化させる術だ。
「師匠、本当ですか!?」
目を大きくして興奮するメビアーヌ。まあ、魔法使いなら望む儀式だからしょうがないな。
「なんなのだ、能力開化とは?」
あ、メイナ姫、いたんだ。静かにしてたから気がつかんかったわ。
「ステータスと言う魔法を聞いたことありますか?」
「あ、ああ。自分の力を数値化したり、相手の力を見たりするものとは聞いたことはあるな?」
「まあ、当たらずとも遠からずですね。それはオマケみたいなもので、ステータス魔法の最大の武器は魔倫眼まりんがんと異次元庫ですね」
魔倫眼は万能眼とも呼ばれ、いろいろなものを見たりでき、魔法使いとしては是非とも欲しい能力だろう。
……老眼にならなくていいってのが最高だぜ……。
「まあ、ステータス魔法は開化させた者の魔力次第なんで、今のメビアーヌなら遠くを見たり近くを見れるくらいだろうな」
ステータス魔法は能力を植えつけ開化させるもの。魔力を与え、鍛えなければ宝の持ち腐れになるだろうよ。
「それは、わたしでも開化できるのか?」
「可能は可能ですけど、今の姫様ではあまり意味はありませんよ。これは魔法使いだからこそ有用な魔法なんですからね」
ステータス魔法を使うには魔力がいる。毎日鍛えているメビアーヌでさえまともに使えるまでに最低でも十年はかかるだろうな。
「まあ、今回は異次元庫のほうに極振りですね。鹿を収納させる必要がありますから」
ぶっちゃけ、ステータス魔法が使えなくとも魔法使いとしてはやっていける。オレだって魔導王を倒すまでは持ってなかったしな。
「それって、魔法の鞄じゃダメなんですか?」
「魔法の鞄は口の大きさのものしか入らないが、異次元庫なら鹿を丸々入れられる。今のメビアーヌなら五頭は入れられるんじゃないか?」
「ご、五頭ですか。それは羨ましいですね」
「お前は魔法の鞄で我慢しろ。それだって解体したら鹿一頭は入るんだから」
タジーが冒険者になるとき、オレのお古を餞別にくれてやった。普通なら一流の冒険者でも持てないものなんだからな。
「魔法の鞄か。わたしも欲しいな」
「姫様は王からもらってください。魔法の鞄を作るにも多大な時間と魔力が必要なんですから」
一流の魔法使いを五人も揃えれれば魔法の鞄は一日で作れる。まあ、作ったものは軍とかに卸されるがな。
「リオ夫人。食事をお願いします。結構な時間がかかるので」
能力開化も一流の魔法使いを五人も集めれば一時もあればできるが、オレ一人では一晩はかかる。しっかり食って力と魔力を溜めておかないとな。
「タジーも食っていくか?」
「いえ、帰ります。義母さんたちが作っててくれますから」
義母三人に囲まれて食事とか、もう地獄だな。オレなら気まずさに吐血しそうだわ。
「メビアーヌは控えめにしておけよ。廁へもいけないんだから」
魔法陣に入ったら終わるまでは出られない。漏らしたら一生の語り種になるからな。
「お師匠様、そう言う配慮がないからモテないんですよ」
「なら、オレはこのままでいいよ。モテたくないからな」
自ら地獄に向かう趣味はない。オレは本当の天国にいくまで平和でいたいよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます