第14話 学園長からの通達
それからは寝支度を整え、ランベルトとヴォルゼフォリンはぐっすりと眠った。
ヴォルゼフォリンとしては人間であるランベルトたちに合わせただけだが、ランベルトは操縦において精神を集中していたため、疲労がかなり来ていたのである。
翌朝。
「おはよう、ランベルト。よく晴れた朝だぞ」
「ん、おはよヴォルゼフォリン……。ふわぁ、まだ眠いよぉ」
「とりあえず起きろ。朝食を食べに行くぞ。あの美味しいスープが私たちを待ってる」
「ふわぁい……」
ランベルトはゆっくりながらも、何とか身支度を整えて部屋を出た。
***
「おはようございます、レオニーさん」
「おや、ランベルト君に昨日の美人さんかい! おはよう、二人とも一番乗りだよ!」
食堂ではすでに、レオニーおばさんが朝食の準備をしていた。
「さあさ、食べていきな! たんとあるよ!」
「あの、お代は……」
「何言ってんのさ!
それを聞いたランベルトは、目を丸くした。
「えっ……? し、知らなかったです……」
「そういうことだから、どんだけ食べてもタダだよ! それに……ランベルト君、今日からうちの学園生なんだって?」
「あれっ? そ、そうですけど……なんで、レオニーさんが?」
「フレイアちゃんが教えてくれたよ! なんだいなんだい、いつの間に入学試験なんてしてたんだって!? しかも見たことのないアントリーバーに乗って、あのアランさんをあっさり負かしちまうなんて! あたしも見てみたかったねぇ!」
ここにもフレイアから、話が伝えられていた。知っていて当然である。
「まぁ、話はあとでたっぷり聞かせてもらえりゃいいんだ。今は食べな!」
「はい、いただきます!」
「私も頂こう」
ランベルトとヴォルゼフォリンは一礼し、朝食に口を付け始める。
「おや、こちらにいらっしゃったか。ランベルト君と、その付き人よ」
と、誰かがランベルトとヴォルゼフォリンに向けて呼びかけた。
「どなたですか?」
ランベルトは食事の手を止め、問い返す。視線の先には、初老で白髪の、立派な身なりの男性が立っていた。
居合わせた面々のうちレオニーおばさんには、心当たりがあった。
「学園長。こんなところにいらっしゃるとは」
「学園長先生?」
「そうだ。私はこのディーン・メルヴィス学園の学園長、ドミニク・ディーン・ヒンメル。アラン君やフレイアさんから話は聞いている。我が学園に、よく来てくれた」
ドミニクは「失礼するよ」と言いながら、ランベルトの隣に座る。
「まぁまぁ、楽にしたまえ。食べながら聞いてくれて構わない。さて、ランベルト君……私は
ランベルトは一瞬、体をビクリと震わせる。断ち切ったことではあったが、やはり言われると反応してしまうのだ。
「案ずるな。君の身分は、入学には一切無関係だ。我々は君たちを歓迎する。その上で、在学時に関して伝えておきたいことを話したくてな」
「伝えておきたいこと……ですか」
口の中のスープを飲み込んだランベルトは、ドミニクに注意を傾ける。
「ああ。既に言った通り、君の入学目的は特別だ。通常の目的とされる勉学ではなく、御前試合においての所属を明示するため。言うなれば“旗”を掲げるためだな。それ自体の是非については、どうこう言うつもりはない。そもそも問題なのであれば、即刻私が拒否していただろうからな。こうして話をすることも無かったというわけだ。だが」
ドミニクはいったん話を区切り、息継ぎを挟む。
「我々の旗を背負ってもらい、御前試合に出る。それが主目的である以上、御前試合に向けて専念してほしい。よって私は、君の勉学に関する一切の義務を免除しようと思っている。君が好奇心を持って履修したい科目を除いてな。君は元とはいえ貴族であり、ゆえに勉学は既に終えていると思ったのだが……どうだ?」
「ありがとうございます。ですが」
「ありがとう、学長よ。その申し出、是非とも受け入れさせてもらおう」
ランベルトが拒絶の意思を口にしようとした瞬間、ヴォルゼフォリンが割り込んで封じた。
「そうか。保護者のあなたが仰るのであれば、何も言うまい。通達事項はそれだけだ。失礼しよう」
「承知していただき感謝する」
ドミニクは一礼すると、その場を後にした。姿が見えなくなった瞬間、ランベルトはヴォルゼフォリンに噛みつく。
「何するのさ、ヴォルゼフォリン!」
「何するもなにも、学問は好きなものを学ぶべきだと思ってな」
「いや、決めるの僕のはずなんだけど!?」
「それはそうだな。だが、義務となると、お前は抱え込んでしまいそうだ。そもそもランベルト、お前は勉学がおぼつかない時も、私に関する伝承を読んでいたな?」
ヴォルゼフォリンが尋ねると、ランベルトは再びビクリと体を震わせる。
「そ、そうだけど……それが何なの?」
「勉強よりも好きなことをやればいい。勉強は大事だが、好きなことを好きなままでいるのはもっと大事だ。それに、勉強はその気になればいくつになっても出来る。好きなことをずっと好きなままでいることを勉強なんかに邪魔されるのは、嫌だと思うのだがな?」
「た、確かに……」
ランベルトはヴォルゼフォリンの勢いに押され、コクリとうなずく。
「それに、学園長……ドミニクも言っていたな。“お前が興味を持つ科目は除く”と。『勉強するな』とは言っていないのだから、好きに学べば良かろう。私に関する事などな」
「それはヴォルゼフォリンに直接聞くよ。教えてくれるよね?」
「ああ。ランベルトのためならな。おっと、口の端に付いてるぞ」
ヴォルゼフォリンは濡れているタオルで、そっとランベルトの口元を拭いてやる。
「は、恥ずかしいよ……」
「なんだ、キスで取ってやるのが良かったか?」
「もっと恥ずかしいってば!」
照れるランベルトと、ニヤニヤしながら顔を近づけるヴォルゼフォリン。
「あらあら、朝からお熱いことだねぇ」
そんな二人を、レオニーおばさんは笑いながら眺めていたのであった。
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