　六角自動車の宴席は、いつもドンさんの弟が経営する居酒屋で設けられていた。会社のすぐ裏で、店長・唱三(しょうぞう）さんの謡(うたい)が人気だ。

「けどさぁ、自動車のすぐそばに酒って…」

特撮好きの塗装工が無神経につぶやく。

「レェッドさん、そういう人が危ないです！」

と、文字通り退場通告(レッド・カード)を突き付ける勢いで言うと

「ひぇーっ。初対面の子にいびられたぁ〜」

泣き真似をしだした。

呆れたマッチさんが、

「下手だなぁ、見てみ」

振り付きで「ケジメなさい」を歌う。似ているし、良い声だ。真似とはこういうことだと思った。

　拍手が止むと、唱三さんが述希をチラと見

「たぁ〜かぁ〜さぁ〜ごぉ、やぁ〜」

と、謡い始めた。慌てて社長夫妻が止める。

　どうやら、述希のことを工員の内の誰かの妻になる人だと勘違いしたらしい。

　でも、それを機に別の謡いが聴け、心に残る宴となった。

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