第3話 ミキ 前編
子供の時、私は絵本に書いかれているヒロインにあこがれていた。
不幸な少女が、魔女の魔法でお城に行って王子様に出会う誰もが知っているお話。
いつか、私にも王子様が現れて幸せにしてくれると。
そう信じている。
私は、高橋ミキ。
王子様にあこがれていたけれど、中学時代はそういう相手も現れなかった。
まぁ、母子家庭で、元気いっぱいに育ってしまったせいで薄幸の美少女とはいかなかったのだけれど。
高校に入学して、最初のクラス。
「あいつ、中学でいじめられていたんだぜ」
向こうで、ヒソヒソ話している声が聞こえている。
前の席の女の子をちらちらと見ながら、男同士でいやらしい笑い方をしながらコソコソと話している。正直、気持ち悪かったから思わず怒鳴ってしまった。
「男のくせに、何こそこそ話してんだよ。女の子には優しくするもんだろ?男らしくないっての」
前の席の女の子が驚いてこちらを見る。
ちょっと驚いた。
がりがりのやせっぽち。
髪は手入れしていないのか枝毛が目立つ。
青白い顔にこけた頬。前髪の奥でおびえた瞳が不安そうにこちらを見上げている。
あぁ・・
まるで、継母にいじめられ続けたヒロインのよう。でも、とても美少女とは言えない女の子だった。
いつも、おどおどと怯えている少女。
瀬戸美月を私は何かとかまうようになった。
だって、あまりにもかわいそうだったから。
「女の子はね、かわいくしなければもったいないよ」
まずは、その枝毛をなんとかしなきゃね。
トリートメントを教えて、髪の手入れを教えてあげる。
次はリップクリーム。
だんだん楽しくなってきた。
私は、雑誌を買っていろいろ情報を仕入れる。
肌の手入れ。お化粧。髪型。 ファッション。
美月と私はいつも一緒にいるようになった。
一緒に、洋服を買いに行って似合う服を選んだり。おいしいものを食べたり。
一緒に美容院に行って、雑誌と同じ髪型にしたり。
美月をどうやったらかわいくできるかを考えているうちに、そういった方面に進路を考えるようになった。
高校を卒業して進んだのはメイクを教えてくれる専門学校。
そこで教えてもらった知識を、すぐに美月で試してみる。
メイクも教えて、似合う髪形を美容院でセットしてもらって。
大学生になった美月。
すっかり美人に変身した美月。どうだ凄いだろう。
私と美月。二人で街を歩くと誰もが振り向く。
そんな、美人のコンビになったのだ。
残念ながら、美月は男性恐怖症のようだったけど。
合コンに連れて行って、彼氏の一人や二人作らせようとしたんだけれどダメだった。
美月は、自分にはもう彼氏なんかできないって割り切っている。
一方、私はと言えば・・・
高校の時に、告白された人と付き合ったけどすぐに別れることになった。
卒業した後も、合コンや友達の紹介などで何人かと付き合っても、長続きしない。
最初は、”お前みたいな美人と付き合えてうれしいぜ”なんてことを言っているのに、すぐに振られてしまう。
男運がないのは、なぜなんだろう?
残念ながら、メイクの仕事にはつけなかったけど。ネイリストとして就職することができた。
指名のお客さんもそこそこ増えてきている。
あとは、王子様だけ・・・なんだけどね。
まぁ、美月と二人。一緒においしいものを食べに行ったり遊びに行ったり。
それはそれで、楽しい日々を送っていた。
いつまでも、二人で仲良く。そう思っていた。
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