第4話 ミキ 後編

「それでね、正式に付き合うことになったの」


 場所は、二人でよく来る居酒屋。


 美月は、私にそう言ってきた。

 あの、男性恐怖症の美月がである。


 相手の男の年が離れていたからであろうか?

 それとも、いかにも危険のなさそうな草食系だったからだろうか?

 (人畜無害な羊のような奴!)


 なぜか、美月の方から猛烈にアプローチしていったのだ。

 よりによってその男、その美月のお誘いも断ろうとする不届きものだったけれど。

 でも、相手の男も悪い奴でないことは間違いない。



 だって、私もちょっとは良いなと思っていたくらいだから。


 でも・・・美月の交際するとの報告を受けて。ショックだった自分に驚いた。

 その男を取られたというよりも、美月を取られたような気がしてしまった。

 なにか、美月が遠くに行ってしまうような気がして。


 

 その夜は美月と別れた後も、別な店で飲みなおした。

 いつもよりたくさん飲んでしまっている。


 美月はまるで絵本のヒロインのよう。

 いじめられてみすぼらしかった女の子が美人になって幸せになった。


 本当は、私が絵本のヒロインになりたかったんだけどな。そんでもって、王子様に迎えに来てもらいたかったんだけどなぁ。


 でも実際の私は、ヒロインに魔法をかけて美しい姿に変えた魔女の役。

 ヒロインをお城に送り出した魔女は、どんな気持ちだったのだろう。


 私、がんばったんだよ。頑張って美月を美人に変えたんだよ。

 今度は、カボチャの馬車でも出してみようかしら。

 涙が出そうになって来た。


 店を出て、家路につく。

 かなり酔った私は、ちょっと遠回りをして風にあたろうと思った。


 ふらふらとふらつきながら、歩いていく。

 酔った頭で考える。


 思えば、今まで私に言い寄って来た男たちは、私のことをまるで勲章のように思っていたのかも。

 美人の彼女がいる自分。どうだすげえだろ。

 でも、めんどくさい女と分かった瞬間に捨ててしまう。美人の彼女が欲しかっただけ。私のことを欲しかったんじゃない。

 本当に男運がないな、私。



 ふらふらと、手すりを伝って歩道橋の階段を上る。



 歩道橋の上には誰かいる。何をしているのかしら?




 高橋ミキ。

 運命の出会いまで、あと3分。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る