第15話 上限金利規制⑤――貸金業法
最後は、貸金業法におかれた上限金利規制である。
「……」
すでに、ゴウは言葉も出ないほどに疲労している。
たしかに彼にとって、長い道のりだった。
いくら法学部出身者とはいえ、ほとんど見たこともない法律の解説を読んでいると、まるで別世界を彷徨っているような感覚に襲われた。
ここにも理解困難な「異世界」が存在する。
そう。
べつに、通り魔に襲われずとも、交通事故に遭わずとも、ぶらぶらと道端を歩かなくても、地震で倒れてきた本棚の下敷きとならなくても、
六法を開くだけで、法律の解説書を紐解くだけで、わたしたちは異世界を目にすることができるのだ。
さぁ、いよいよ貸金業法関連のお話も最後である。
もう、惰性でもいい。
記憶に残らなくてもいい。
意識を失いそうになっていてもいい。
これを終えれば、一区切りである。
ゴウ。
あと少しだ。あと少しで、テキスト第1巻を「ざっくり読んだ」と胸を張れるよ。
これが終わったら、休憩するといい。
「今日はここまで」ってことで、あとは好きなことをして過ごせばいい。
さて貸金業法においても、利息についての規定が設けられている。
条文を見てみよう。
【貸金業法42条】(高金利を定めた金銭消費貸借契約の無効)
第1項 貸金業を営む者が業として行う金銭を目的とする消費貸借の契約(手形の割引、売渡担保その他これらに類する方法によつて金銭を交付する契約を含む。)において、年百九・五パーセント(二月二十九日を含む一年については年百九・八パーセントとし、一日当たりについては〇・三パーセントとする。)を超える割合による利息(債務の不履行について予定される賠償額を含む。)の契約をしたときは、当該消費貸借の契約は、無効とする。
第2項 出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律第五条の四第一項から第四項までの規定は、前項の利息の契約について準用する。
この条文によると、貸金業を営む者が業として行う金銭を目的とする消費貸借の契約において、年109.5%(うるう年の場合は109.8%)を超える割合による利息(賠償額を含む)の契約をしたときは、当該消費貸借の契約は、無効となる(貸金業法42条1項)。
ポイントはつぎの三点だ。
第一に、貸金業法において「貸金業を営む者」とある場合、貸金業者だけでなく無登録業者も含まれることだ。
貸金業者は、内閣総理大臣の登録を受けた者である。この登録を受けていない者、いわゆる「ヤミ金」であっても、貸金業法42条の適用対象になる。
第二に、金銭消費貸借契約において109.5%を超える割合による利息の契約を適用対象にしていることだ。
「超える」とあるので、109.5%の利息の契約には適用されない。109.6%ならば、109.5%を「超える」ので適用対象となる。
「109.5%以上」と覚えないように注意しよう。
「以上」と「超える」とでは、意味が異なるということだ。
第三に、「金銭消費貸借契約が無効」になることだ。
前回みた利息制限法は、上限利率を超える部分が無効になるという扱いだった(一部無効)。
ところが、貸金業法42条1項は契約全体が無効という取り扱いになる。さらに間違えやすいのが、「利息の契約」が無効になるとは規定していないことだ。
例題で確認してみよう。
【例題】以下の①および②のうち、正しい記述はどれか?
①貸金業を営む者が業として行う金銭を目的とする消費貸借の契約において、年109.5%(うるう年の場合は109.8%)を超える割合による利息(賠償額を含む)の契約をしたときは、当該消費貸借の契約は、無効となる
②貸金業を営む者が業として行う金銭を目的とする消費貸借の契約において、年109.5%(うるう年の場合は109.8%)を超える割合による利息(賠償額を含む)の契約をしたときは、当該利息の契約は、無効となる。
正解は①である。
金銭消費貸借契約において、「利息の契約」すなわち利息の取り決め(利息特約)は、契約の一部に過ぎない。
選択肢②の場合、金銭消費貸借契約自体は有効なものと扱われ、「利息の契約」の部分だけが無効になる。この場合、いいかえれば無利息の金銭消費貸借契約となるワケだ。
しかし貸金業法42条1項は、このような取り扱いをしていない。「当該消費貸借の契約は、無効とする」と規定しているからだ。
これは、契約全体が無効になるというものだ。「利息の契約」どころか、「金銭消費貸借契約」もろとも無かったことにしようという取り扱いになる。
ただ、金銭消費貸借契約自体が無かったという扱いになるからといって、債務者(消費者)は借りるさいに受け取ったお金を返さなくていいという事にはならない。
せいぜい、契約で定められた期限や利率で支払う必要がなくなったぐらいのはなしになるだけである。
法的には、債務者が受け取ったお金は「不当利得」になるので、結局、返還はしなければならない。
さて、利息制限法における上限金利は、元本額に応じて年20%、18%、15%とされていた。
このため利息制限法の上限金利と出資法の上限金利(109.5%、貸金業者の場合は)の間の金利帯での貸付けの利息については、超過部分が無効になるものの、刑事罰の対象にはならない部分が生じることになる。
つぎのケースで考えてみよう。
《ケース》
貸金業者AがBに100万円を年利率20%で貸し付けた。出資法および利息制限法において、貸金業者および利息の契約はどのように取り扱われるか?
第13話で解説したように、出資法では貸金業者が年利率20%を超える利息の契約をした場合は刑事罰が科されていた(出資法5条2項)。
ケースの貸金業者Aは、債務者Bに100万円を年利率20%で貸し付けている。
この契約は、出資法5条2項にいう「20%を超える」ものではない。
したがって、貸金業者Aは刑事罰を受けない。
つぎに第14話で解説したように、利息制限法1条3号によれば、元本100万円以上を貸付けた場合の上限利率を年15%と定めていた。
ケースの貸金業者Aは、債務者Bに年利率20%で貸し付けている。
この利息の契約は、利息制限法に定める上限利率を超えるものである。
したがって、ケースの利息の契約は15%を超える部分(5%の部分)について無効となる。
以上の検討から分かるように、利息については超過部分が無効になるものの、刑事罰を科されることはない。
これが、いわゆるグレーゾーン金利と呼ばれてきたものだ。
かつては、利息制限法1条2項や貸金業法43条に「みなし弁済規定」という条文がおかれていて、グレーゾーン金利であっても一定の要件の下に債務者がした返済が有効になると扱われていた。
当然、多くの消費者ローンは、グレーゾーン金利のなかでおこなわれるようになる。
そこで、二〇〇六年(平成一八年)に利息制限法1条2項および貸金業法43条を削除して「みなし弁済」を廃止することにした。
現在の貸金業法は、貸金業者によるこのような金利帯における利息の契約、利息の要求、受領を禁止する(貸金業法12条の8)。
【貸金業法12条の8第1項】(利息、保証料等に係る制限等)
貸金業者は、その利息(みなし利息を含む。第三項及び第四項において同じ。)が利息制限法(昭和二十九年法律第百号)第一条に規定する金額を超える利息の契約を締結してはならない。
この規定に違反した貸金業者は、登録取消しまたは業務停止命令といった行政処分の対象だ。
ゴウは頬杖をつきながら、テキストの解説をパラパラ見直していた。
「出資法、利息制限法、貸金業法の関係がポイントなんだよな。……なんだけど、いまひとつ覚えられねぇ」
重要ポイントなので、やはり、整理が必要だろう。
この三つの法律の関係を捉えるには、それぞれの法律が採用している上限金利を規制する「手段」に着目して整理するのが一般的だ。
1.利息の契約(利息の特約)または金銭消費貸借契約が無効になる場面
(1)利息制限法の上限金利を超える利率を定めた場合、超過部分が無効になる。
(2)貸金業法42条の定める上限金利(年109.5%)を超える場合、金銭消費貸借
契約自体が無効になる。なお、このルールが適用される場合は、上記(1)
を考える必要はない。(2)の方は、超過部分どころか契約全体を
無効にする取り扱いになるからだ。
2.刑事罰の対象となる場面
出資法5条に定める上限金利を超える利率で貸付けた場合
①年109.5%を超える利率
②貸金業者による貸付けは、年20%を超える利率
3.行政処分の対象となる場面
利息制限法に定める上限利率を超える場合(貸金業法12条の8)
すなわち、①利率の超過部分または契約が無効になるのか、②刑事罰が科されるのか、③行政処分の対象になるのかの三つの観点から整理するワケだ。
たとえば、貸金業者AがBに年110%で貸付けを行った場合、
金銭消費貸借契約自体が無効になるほか、出資法により刑事罰の対象になり、さらには行政処分(登録取消し、業務停止命令)の対象になるということだ。
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