第14話 上限金利規制④――利息制限法

「うええぇぇ……。もう、勘弁してくれぇ」


 ゴウは、いよいよ頭を抱えた。


 じつのところ出資法の話だけでも、いっぱいいっぱいだったのだ。

 しかし、ゴウを憂鬱にさせる上限金利規制の話しは、まだまだ続く。


 つぎは「利息制限法」である。


 ――利息制限法(昭和29年5月15日法律第100号)

 金銭消費貸借上の利率の最高限度を規定し、これを超えるときは超過部分について無効とする法律である。

 契約自由の原則によれば、本来、金銭消費貸借契約における利率も契約当事者が自由に定めてよい筈でだ。

 しかし、利率については当事者の自由な決定に任せても適切な利率での貸出しができないという構造がみられた。

 そこで、民法の特別法として利率の最高限度を定めたというワケだ。

 同法の趣旨について最高裁判所も「経済的弱者の地位にある債務者の保護を主たる目的とする」(最判昭和39年11月18日民集18巻9号1868頁)という立場を採用している。


 さきにみた出資法の規定にくわえ、利息制限法は貸金業務取扱主任者試験との関係でも最重要テーマである。

 具体的には、元本額に応じた利率の上限、上限金利を超えて返済した場合の取り扱い、利息の天引きの扱い、みなし利息といったテーマが出題される。


 このうち、前二者は絶対に押さえておかなければならない。このふたつをおさえていないと、ほとんどの問題に正解することができないからだ。

 この点について規定しているのが、利息制限法1条だ。


「元本金額ごとに上限利率が異なるってのは知っているんだけど、なかなか覚えられないんだよな……」


 頬杖をつきながらゴウは、顔をしかめた。


 条文を確認してみよう。


【利息制限法1条】(利息の制限)

 金銭を目的とする消費貸借における利息の契約は、その利息が次の各号に掲げる場合に応じ当該各号に定める利率により計算した金額を超えるときは、その超過部分について、無効とする。

 一 元本の額が十万円未満の場合 年二割

 二 元本の額が十万円以上百万円未満の場合 年一割八分

 三 元本の額が百万円以上の場合 年一割五分


 このように、利息制限法は貸付けた金額(元本額)に応じて、上限利率を定めている。

 若干の整理すると、こんなカンジ(ほとんど条文そのままだが……)。


 ①元本が10万円未満のとき 年20%

 ②元本が10万円以上100万円未満のとき 年18%

 ③元本が100万円以上のとき 年15%


 すなわち、10万円を貸付けた場合と100万円を貸付けた場合とで上限利率が異なる。

 10万円貸付けた場合の上限利率は18%だが、100万円貸付けた場合の上限利率は15%になる。

 ゴウが愚痴を溢していたのは、この点だ。


 だが、ここはあきらめて覚えるしかない。

 一回で覚えられなければ、二回繰り返すしかない……。たとえ一〇回でも二〇回でも、覚えるまで繰り返すしかないところである。


「で、この上限利率を超えて債務者が返済したときは、どうなるんだ?」


 ここも、ゴウを悩ませる点だった。


 この場合について、利息制限法は「当該各号に定める利率により計算した金額を超えるときは、その超過部分について、無効とする」と規定する。


 専門用語で「一部無効」という法律上の扱いになる。

 無効というのは、「始めからゼロ」の状態として取り扱うことをいう。


 たとえば「売買契約が無効」という場合は、売買契約をした事実はあったかもしれないが、法的には「売買契約は存在しなかった」という扱いをする。

「売買契約が存在しなかった」のだから、売主は、買主から支払われたお金については受け取る法的な理由が無い。買主も、売主から引き渡された商品を受け取る法的な理由が無い。

 このような場合を「不当利得」という。この場合、売主は買主にお金を返し、買主は売主に商品を返還しなければならない。

 つまり、「無効」というのは、契約当事者の状態を契約する前の状態に戻すことを狙った法律上の取り扱いである。


 以上をふまえたうえで「一部無効」について、つぎのケースでイメージしておこう。


《ケース》

 貸金業者Aは元本額10万円を年利率25%、返済期限1年後という内容の契約でBに貸し出した。1年後、借主Bは契約に従い12万5000円を返済した。


 利息制限法1条2号によれば、元本額が10万円以上の場合の上限利率は18%である。


 ケースの金銭消費貸借上の利率は25%だから、利息制限法の上限を超えるものだ。

 すなわち25%-18%=7%は、法律上の上限を超える部分となる。


 この7%の部分を法律上「初めからゼロ」と扱うのが一部無効だ。これが条文にある「超過部分について、無効」の意味だと考えておけばよい。


 つまりケースの借主Bは、本来、11万8000円を返済すればよかったのだ。

 いいかえれば、25%-18%=7%分を法律上の理由なく余分に返済していたことになる。いわゆる過払金である。

 そこで借主は過払金、すなわち12万5000円-11万8000円=7000円についてAに返還請求できるというワケだ。


 テキストを読んで、しばらく唸っていたゴウ。

 それでも、なんとなくは理解できたらしい。


「なるほど。払い過ぎた分を返還することになるわけか。ん? さっきみた出資法と扱いが違うぞ!? どういうことだ?」


 じつに、素朴な疑問である。

 だが、とても重要なコトにゴウは気が付いたというべきだ。

 この点について詳しくは、後に検討することにしよう。


 ちなみにケースの貸金業者Aは、年利率25%で金銭の貸付けを行っている。

 さきにみた出資法との関係では、刑罰金利を超える貸出になっていることにお気づきだろうか?

 出資法5条2項は、貸金業ががおこなう貸付について年利率20%を超える場合に刑罰を科していた。

 したがって、貸金業者Aは出資法5条2項により「五年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科」となる。


 つまり、ケースの貸金業者は過払金をBに返還したうえで、さらに刑罰まで科せられるというワケだ。


 そして、さらに貸金業法においても上限金利規制をおいているのだが、これについては次回みていくことにしよう。

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