第13話 上限金利規制③――出資法の規制
そしてゴウは、テキストの「出資法」の項目に目を移した。
とてもダルそうな表情で。
正直、このあたりは面倒な話だった記憶しかない。とくに利率の数字を見るだけで、もう……イヤになる。小数点とか勘弁して欲しいのだった。
――出資法
昭和29年に制定された「出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律」(昭和29年6月23日法195号)のことである。全部で9か条からなる法律だ。この法律は、サラ金(サラリーマン金融)の被害が社会問題化して以来、数次にわたって改正され規制が強化されていく。
制定当初は貸金業者であるか否かを問わず、年109.5%を超える場合に刑事罰が科されていた。これが「刑罰金利」である。その後、とくに貸金業者がおこなう貸付については、この刑罰金利がどんどん引き下げられていく。
まず昭和58年改正で73%、昭和61年に54.75%、平成3年に40.004%、平成12年に29.2%、そして平成18年に20%にまで引き下げられた。
刑罰金利を超える金利で金銭の貸出をおこなうと刑罰が科せられるのだから、刑罰金利が引き下げられていったということは、貸金業者にとってはそれだけ厳しい規制になっていったということだ。
「………」
ゴウは、もう無言になるしかなかった。
なぜか?
このあたりの話は、多くの場合「民法」(債権総論)の講義で取り扱われる。しかし残念ながら、彼の記憶にはほとんど残っていなかったからだ。
ある民法の基本書には、つぎのように記述されている。
『「出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律」(出資取締法)は、サラ金(サラリーマン金融)の被害が社会問題となって以来数次にわたって改正されて規制が強化され、2006年(平成18年)改正で、貸金業者については年率20%を超える利息の契約、あるいはその受領や支払の要求に対し、刑事罰を科すことにした(同法5条2項。5年以下の懲役and/or1000万円以下の罰金。刑罰金利と呼ばれる)。年率109.5%を超えると、貸金業者以外の者も刑事罰を科され(同1項)、貸金業者については刑事罰が加重されている(同3項。10年以下の懲役and/or3000万円以下の罰金)』(内田貴『民法Ⅲ[第4版]』(東京大学出版会、2020年)74頁)
この記述の要点を整理すると、
1.年利率109.5%を超える利息で金銭を貸付けると刑事罰が科される。
2.とくに貸金業者については、年利率20%を超える利息の契約、受領、支払の要求をすると刑事罰が科される。
の二点である。
出資法それ自体は、民法の基本書のなかでもあまり詳しい記述がされるようなテーマではない。
このためか、彼が法学部卒といえども、詳しく知らないのもムリは無かった。あるいは、その記憶が忘却の彼方となっていても不思議ではなかった。
「出資法5条とか出てるし、いっぺん条文でも見てみるか」
とりあえずゴウは『ポケット六法』をぱらぱらと捲って、出資法5条の条文を探してみる。
「あれえええっ!?」
彼は驚愕した。
……一部の条文しか載っていなかったからだ。
ままあることだが、コンパクトサイズの六法になると、「抜粋」と表記して一部の条文だけ掲載している場合がある。
ちなみに出資法の条文は『ポケット六法 令和3年度版』(有斐閣)をみると、第1条、第2条、第5条しか載っていない。
第5条については全文掲載されているので、いまのところはセーフ。
さて、その条文を確認してみよう。
【出資法5条】(高金利の処罰)
第1項 金銭の貸付けを行う者が、年百九・五パーセント(二月二十九日を含む一年については年百九・八パーセントとし、一日当たりについては〇・三パーセントとする。)を超える割合による利息(債務の不履行について予定される賠償額を含む。以下同じ。)の契約をしたときは、五年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。当該割合を超える割合による利息を受領し、又はその支払を要求した者も、同様とする。
第2項 前項の規定にかかわらず、金銭の貸付けを行う者が業として金銭の貸付けを行う場合において、年二十パーセントを超える割合による利息の契約をしたときは、五年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。その貸付けに関し、当該割合を超える割合による利息を受領し、又はその支払を要求した者も、同様とする。
第3項 前二項の規定にかかわらず、金銭の貸付けを行う者が業として金銭の貸付けを行う場合において、年百九・五パーセント(二月二十九日を含む一年については年百九・八パーセントとし、一日当たりについては〇・三パーセントとする。)を超える割合による利息の契約をしたときは、十年以下の懲役若しくは三千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。その貸付けに関し、当該割合を超える割合による利息を受領し、又はその支払を要求した者も、同様とする。
第1項が、金銭の貸付けについて利息の契約をした場合の原則を定めたものである。繰り返し述べるが、利息を取る旨の契約(利息特約)が契約書に書いていない場合は無利息だ。また契約書に利率を記載していない場合は、民法404条により年3%になる。
つまり、出資法5条の規定は、契約書のなかで「年利率○○%」と記載されている場合を前提にしたものだ。
出資法5条1項によれば、金銭の貸付けを行う者が、年109.5%を超える割合による利息の契約、受領、支払要求をすると刑事罰となる。なお、うるう年(2月29日を含む1年間)については年109.8%が上限だ。一日当たり0.3%で計算しているというワケだ(0.3%×365=109.5%)。
なお、この規定には「金銭の貸付けを行う者が業として金銭の貸付けを行う場合」は含まれない。
「業」として金銭の貸付けをおこなう場合は、つぎの第2項が適用される。
つまり貸金業者が金銭の貸付けをおこなう場合は、第2項が適用されるということだ。
同法5条2項が、貸金業者に適用される規定となる。条文に「金銭の貸付けを行う者が業として金銭の貸付けを行う場合」とあるからだ。
この場合は、年20%を超える割合による利息の契約、受領、支払要求をすると刑事罰となる。
同法5条3項も貸金業者に適用される条文である。
業として金銭の貸付けを行う場合、年109.5%を超える割合による利息の契約、受領、支払要求をすると、さらに重い刑事罰が科せられる。
このように、出資法は一定の限度を超える利息の契約を締結し、これを超える利息(賠償額を含む)を受領しまたは要求することを禁止していることがわかる。
「なんで、109.5%なんだ?って思っていたけど、そうか。一日当たり0.3%で計算していたのか……」
これもありがちだが、概説書、基本書だけ一生懸命読んで、条文を参照しない法学部生は結構いるようだ。
ゴウもそのひとりだった。出資法の条文を参照していれば、109.5%が0.3%×365であることを知っていた……のかもしれない。
やっぱり、忘れていたかもしれないが。
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