第9話 浮かび上がる全体像―ゴウの思索

 ここまでオレは、貸金業者、顧客等、貸金業務取扱主任者、指定信用情報機関……とみてきた。


「ふーむ。なんか、なんか……、こう、チラチラと見えそうで見えそうな……もう少し……」


 言葉遣いにヘンなところがあるが、これはオレの口癖だ。


 ふと、オレの脳裏に、ナニかがもやもやと浮かび上がってきたんだ。


 断じて、エロ妄想じゃないぞ。


 流石に、こんな法律用語からのエロ展開ができるような「神スキル」はもちあわせていない。


 貸金業者、顧客等、貸金業務取扱主任者、指定信用情報機関……。


 いずれも「貸金業」のなかでは、重要な登場人物・機関だ。


(えっと……、そういえば「貸金業」の定義とかもあったな。あれは……)



「貸金業」の定義は、いいかえれば活動内容にくわえて「世界設定」も含んでいるかもしれない。

 つまり、登場人物たちが活動する舞台。

 それが「貸金業」という世界。


 そして、初めの方に出てきた「貸金業者」や「顧客等」などの定義や貸金業者・貸金業務取扱主任者の登録などの説明は、いわば「キャラクター設定」。


 主人公・ヒロインは、貸金業者と顧客等だろう。


 このふたりの関係がはなしの中心で、そこに関わってくる脇役が貸金業務取扱主任者や指定信用情報機関、あとは……監督機関(行政)と貸金業協会ってカンジだ。


 そして、これらの登場人物・機関には、それぞれ「貸金業」において果たす役割みたいなものがあるみたいだ。


(すると貸金業法は、登場人物たちが適切に役割を果たせるようにルールを置いているんじゃないか?)


 ここでオレは、登場人物たちが「貸金業」のなかで果たす役割と彼らの関係に注目してみた。


 たとえば、貸金業者と指定信用情報機関との関係では、貸金業者が取引のある顧客の「信用情報」を指定信用情報機関に提供し指定信用情報機関は貸金業者にこれから取引をしようとする者の「信用情報」を提供する、というカンジで。


「お、おっ! もしかて、こういうこと?」


 霧がかったようなもやもやが、すうっと晴れていく。

 すぐさま、手元にあったシャーペンで浮かび上がった「景色」をルーズリーフに描いてみた。


 まず、なんといっても貸金業者と顧客等の関係だよな。


 ルーズリーフに貸金業者と書いて、楕円形のマルで囲った。

 つぎに貸金業者から右に10センチほど先に、顧客等と書いてマルで囲う。

 この二つを直線で結んでみた。


 この二つは「貸付けの契約」で繋がる関係だ。


 この関係を規律することこそ、貸金業法の存在理由。

 世の中にこの関係が存在しなければ、貸金業法も存在しない。


 なお、厳密にいえば「顧客等」はさらに「資金需要者である顧客」、「債務者」、「保証人となろうとする者」、「保証人」に分かれるので、単純な一対一の関係にはならない。

「貸付けの契約」についても……、やめておこう。

 とにかく、いろいろある。


 いまは置いておくことにした。

 いま、そんな細かいことを気にしていたら、せっかく浮かび上がった全体像が、また霧の中に隠れてしまう。


 いまは、とにかく全体の「景色」をデッサンすることに集中する。


 そして、この両者の契約およびその他の貸金業者の業務に対し、貸金業者から独立した立場で助言・指導を与える役割をもつのが貸金業務取扱主任者だ。


 あくまで法的には、貸金業者から独立した立場にあるのだから、貸金業者と同一視することはできない。

 なぜ、そのような位置付けになっているかというと、貸金業者の法令遵守コンプライアンス状況をチェックするためだ。


 とりあえず、顧客等のうえに貸金業務取扱主任者と書いて四角で囲む。そこから矢印を2本伸ばした。


 1本は、貸金業者に向けて。

 もう1本は、貸付けの契約に向けて。


 貸金業法では、行政の役割も重要だ。

 貸金業者の「登録」、各種届出、事業報告、業務報告をつうじた監督機関としての役割をもつ。


 そこでオレは、貸金業務取扱主任者の左上に監督機関と書いて四角で囲った。


 そして監督機関と貸金業者の間に「⇔」を、監督機関と貸金業務取扱主任者との間にも同じように「⇔」を書き込んだ。


 貸金業者は、指定信用情報機関との間の「信用情報提供契約」にもとづいて指定信用情報機関に一定の信用情報の提供をする。

 また個人の顧客等と貸付けの契約を締結しようとするさいに、指定信用情報機関が保有する信用情報を利用した顧客等の返済能力を調査しなければならない。


 そこで、貸金業者の下に「指定信用情報機関」と書いてこれを四角で囲み、貸金業者と指定信用情報機関との間に「⇔」を書き込んだ。


 最後は、日本貸金業協会だ。


 ここまでは、さらりと流してきたが、この機関の役割も無視できない。


 さきに行政は、貸金業者のする業務を監督する役割を担うとした。

 けれども、貸金業者と顧客等との間で生じるトラブルなどに行政がいちいち対処するには、リソース(人員、予算等)が足りないと聞いたことがある。

 いいかえれば、その全てに対応しようとすると膨大なカネ、労力、時間がかかるらしい。


 そこで貸金業界に業界団体を作らせて、業界の特性に応じた自主規制をさせるようにしたみたいだ。


 これが「日本貸金業協会」だ。

 その業務内容は、協会員である貸金業者の法令等遵守態勢整備ほうれいじゅんしゅたいせいの支援、苦情処理・紛争解決業務、貸金業務取扱主任者試験の実施、貸金業務取扱主任者の登録・登録講習の事務など。

 なお、登録に関する事務は本来は内閣総理大臣の管轄だが、貸金業法の規定に基づいて日本貸金業協会がおこなっている(貸金業法24の33)。


「そうすると、日本貸金業協会は……、どのあたりに書こうか?」


 とりあえず貸金業者の上、監督機関の左下あたりに「日本貸金業協会」と書いて四角で囲む。


 そして貸金業者との間に「⇔」を入れた。


 また、監督機関から貸金業協会に向けて、矢印を引いた。

 これは、貸金業協会の認可にんかを内閣総理大臣がすること、貸金業協会が法令に反することをした場合には内閣総理大臣が処分できるとされているからだ。



 できた。

 できたっ。


 おお、なんかすごくね?


 カクヨムでは、画像をお見せできないのがザンネンだ。


 間違っていたり、不十分な点はあるかもしれない。

 けれども、それは勉強しながら修正していけばいい。


「ふぅ」


 オレは、椅子の背もたれに背中をあずけた。


 描き終わった「貸金業法の全体像」。

 うっとりと、眺めていた、眺めて……。


 !?


「しまった! 漢字間違えた」


 貸金業と書いたつもりが「借金業」になっている。


 あわてて、消しゴムで消し始めた瞬間、それは起きた。


 びりりりっ。


 …………。

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